二十話 あげ餅にヤキモキ
あまいものばかり作っていると、時にしょっぱいものが食べたくなる。
それはきっと、城内で働くみなさんもおなじだろう。
「ノゾミ、今日はなんだかとてもくたびれてしまったんだ。もしよければ、たまには塩からいものが食べたいのだが。そんな菓子があるのかな?」
ディール様はなぜだかどんどんやつれてくる。
それというのも、城内でスライムがひそかに潜伏しているからだ。
「絶対に前の魔王がなんらかの魔法をかけたに違いないんだ」
「それは、どういう意味ですか?」
「前魔王が水にかけた魔法を解除しようとすると、なぜかスライムが発生する。ノゾミはスライムの特性を知っているか?」
スライム? ブニプニした物体? で、斬れば斬るほど増えてしまう厄介なあれのことだろうか?
「けどそれは、火炎魔法で吹き飛ばせるんじゃありませんでしたっけ?」
それで今も、あたし専用の従者のはずだったゾーイが駆り立てられているわけだけど。
「そう。でも、厄介なやつがいて、スライムが発生したことにすら気づかないのがいるんだ。そのスライムが、ボクたちを驚かそうと物陰に隠れて突然あらわれるんだよ」
なるほど。それでお疲れなのですね。
「でしたら、あげ餅せんべいはいかがでしょうか?」
「あげ餅? せんべいは好きだが、それもニホン製のもの? なぜノゾミは、ニホンの菓子にこだわるのだい?」
ディール様にしてはだれた姿勢で椅子にもたれて天を仰いでいらっしゃる。なんだか微笑ましい。
「う~ん? 昔、お婆さんに買ってもらった本がニホンのお菓子だったんです。それからお菓子づくりに興味を持ったんです」
「へぇ~? ま、いいや。楽しみを増やすためにも、なにか手伝おうか?」
「いいえ。あぶないかもしれませんので、下がっていてください」
ばあやさんは、話が終わるやいなや、特製のゴマ油と餅米を持ってきてくれた。
時間短縮のために、餅米をばあやさんが一瞬でお餅に変身!! しかも、全部をあげ餅にする前に、きな粉をつけたお餅や、シンプルに海苔を巻いたものまで作ってしまった。
それからまた、ばあやさんがお餅をカピカピに干からびさせて、トンカチで割って、ゴマ油であげた。
う~ん、香ばしい薫り。
油からあげて、よく斬ってから上等な塩をまぶしたり、醤油をつけたりして、出来上がり!!
「どうですか? ディール様」
「うん。焼いた餅も美味だったが、この塩せんべいもおいしいな」
「わかりますか? よかったぁ。では、こちらをまたみなさまにわけて差し上げてください。お餅もたくさん用意しましたので、どうぞ」
だが……。と、ディールが突如深刻な顔になる。
「きみのそばにいると、ついできたてを食べてしまうが、このペースでいくと、ボクはダイエットをしなければならなくなってしまうな。それは、少し困る」
ふふっ。なんだかとてもかわいらしい一面をお持ちなのですね?
「ノゾミ、ボクが太っても、今のようにやさしく笑ってくれるか?」
柔らかな緑色の瞳に銀色の前髪がさらりとかぶさる。
どきどき。
どうしてだろう? 胸が高鳴る。
「も、もちろんですよ。あたり前じゃないですか」
「そう? でも、だらしないと思われたくはないな。やはり、剣の稽古にいそしまなければいけないな」
そうおっしゃって、はははと笑われたディール様が、なんだかとても艶っぽい。
ときめき?
まさか、ね?
つづく




