十九話 ひと口メロンパン
せっかくお城にたどり着いたのだから、久しぶりに菓子パンを焼きたくなった。
ヒトミ様が凍結直前まで口にされたのは、あたしの特製ひと口メロンパン。
だって、この小さなメロンパンだったら、ぐあいがわるくても口にすることができると思ったから。
ゾーイとばあやさんに手伝ってもらいながら、記憶をたどりつつ、小さなひと口メロンパンをこねてゆく。
外はカリッとほんのり甘く、中は生クリームを包めるほどのふわもちの食感。
「ん~。我ながら上出来!! みなさんも試食してください」
「おお、これこれ。なんか懐かしいな。あの頃はよくこのひと口メロンパン作ってくれていたのに」
三年前のあたしは、なにかに取り憑かれたようにこればかり作っていたっけ。
これにはばあやさんも頬をほころばせて、孫に持って帰りたいわ、と舌鼓を打ってくれた。
その時。シュッと空間がゆがんでディール様があらわれた。
「これ、は。ひょっとしてあの時の菓子パンか?」
ディール様は、懐かしそうにひと口メロンパンを手に取った。
「はい。奥様が最後に口にしたということで、なんとなく」
「このパンは、なんという名前なんだろうと、ずっと考えていたんだ」
「メロンパンと言います。これも、古き良きニホン文化の賜物なんですよ。本物のメロンパンはもっと大きいんですけど、このひと口メロンパンなら、いくらでも食べられるかと思い、作りました」
食べてもよいか? とディール様に問われて、あたしははい、と返事を返した。
さくっ。ふわっ。周囲をただようあまくてしあわせな薫りに包まれる。
「これだ。この菓子パンをずっと食べたかったのだ。なのに、なぜ今になってこれを作った?」
それは、と口をにごすしかなくて。
ヒトミ様が最後に口にした食べ物だから、なんておこがましくてとても言えない。
「これを、ヒトミ様に届けても良いか? 食べてくれるかはわからないが、この薫りで病が少しでも良くなればいいと思うのだ」
「はい、全然かまいません。お好きなだけお持ちください」
ならば、とディール様は言葉をつづける。
「ギュル兄様にも持って行こう。できたてのは食べたことがないからな」
もしかして、実験を優先しすぎて、たいした食事もしていないのではないだろうか? だけど、あたしがそれを言うのもおこがましいし。
ただ、はい。お届けください。お口に合うといいのですが、と答えるだけで精一杯だった。
もし、このひと口メロンパンがギュルディーノ様のお気に召したなら、少しは栄養が摂れるかもしれない。
「しかし、ノゾミはすごいな。毎日様々な菓子を作りつづけられるだなんて」
「そんなことありませんよ。このひと口メロンパンだって、つい最近までなんとなく作るのがはばかれていましたし。あの」
「どうした?」
「これを見て、ギュルディーノ様が悲しくなったりしないでしょうか?」
「それはわからないな。兄様は魔王になってから、あまり笑わなくなったから」
やっぱりそうなんだ。ゾーイが言った通り、ギュルディーノ様は本気で笑っていない。
もしこのひと口メロンパンを見て、食べることがなくても仕方がない。
でも、できれば食べて欲しいな。
つづく




