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十六話 過ぎたるは甘味料の如し

「実のところ、オレも薄々そうじゃねぇのかなって思ってたんだ。爺ちゃん昔っから、井戸水がぶがぶ飲んでいたし、風呂にまで使っていたから」


 ゾーイの言葉で我に返る。


「でも、それって条件はみんなおなじはずじゃない? どうしてゾーイのお爺さんだけが、お亡くなりになったのかしら?」

「だから、ノゾミに気を使わせることになっちまうんじゃねぇかと思ってたんだ」


 うん? どういうこと?


「末期の肺がんだったんだよ。だから爺ちゃんはどっちにしても、死ぬのは覚悟していたんだ。ノゾミのせいじゃないって言っただろう?」


 でも、やっぱり納得できない。それはそれ。井戸水とはまた別の話になるし。


「ばあやさん。もしよろしければ教えてもらえませんか? いつから水に異物が混入されていたのかを」

「さてねぇ。それも口止めされておりますから、わたくしめがどうこう言える立場ではないのでございますよ」


 それじゃあ、国のみなさんが、まだ危険な状態だということに変わりはないってことじゃない。


 どうすれば毒になる成分だけを取り除けるのだろう?


「そのための実験だったのだがな」


 ぶわっと周囲の空間が歪んだ。


 低音のけわしい声は、ディール様によく似た長い銀髪の男性から紡がれていた。


「はじめまして、だな。我が名はギュルディーノ。ディールの兄でもある。一応現時点では魔王という立場にある」


 ……この方が、ギュルディーノ様。たしかに。周囲の空気をひりひりさせるほどの強い緊張感を纏っているし、ディール様よりも深い緑色の瞳には、憂いがにじんでいる。


「は、はじめまして。ノゾミです」

「そう、ノゾミ。妻や皆が甘味で世話になっておるからと、あいさつに来たのだが。……そうか、あの落雁事件の。それならば、ノゾミも知る権利があるだろうな」


 それから、ギュルディーノ様は平身低頭したままのばあやさんとゾーイに顔を上げるように声をかけた。


「ゾーイ、貴公の働きにより、スライムを討伐してくれたとか。こころより感謝を申す。そなたも、事の全貌を聞きたいであろう?」

「いいえ、おれなんか。それよりも、ノゾミをお願いします」


 それに対してはギュルディーノ様は首を縦に振らなかった。


「貴公も来い。すべてを知らねば、今後困ったことになるこもしれんからな」


 さみしさとつめたさの入り混じった声。ギュルディーノ様は、本当に長いこと笑ってすらいないんだ。


「そうおっしゃるのなら、同行します。オレも一応は、ノゾミ専属の従者ですし」


 そうだった。


 だけど。どうしてなんだろう? ギュルディーノ様はきっと、今どんなにあまいお菓子を食べたとしても、そのあまさを感じることがないように思える。


 どうすれば、この方の苦しみをとり除くことができるのだろうか?


「それでは、我と来るが良い。その方がきっと、すべてを知ることができるだろうからな」


 ギュルディーノ様。いったい何を教えてくれるのだろうか?


 あんまり怖いことじゃないといいんだけど。


 つづく

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