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十一話 あんこがっ!!

 あんみつなんて簡単につくれるわ、なんて思っていたけれど、それはあたしの勘違いでした。


 なぜなら今、あたしのこころは激しく動揺しているから。


 はじめての魔王城。


 はじめて知った井戸水の秘密。


 ゾーイとの一時的なおわかれ。


 それから、お城の中だからなのか、やたらに光り輝いて見えるディール様。


「さぁ、ノゾミ様。こちらでお着替えなさってください」


 侍女長さんに案内されたのは、どうやらあたしにあてがわれた個室らしくて。


 魔王城のイメージとはかなりかけ離れた感じの清潔感が怖いくらい身に染みる。


 どうしよう、こんな綺麗なお部屋で、あてがわれた服とエプロン、それに清潔な帽子まで用意されてる。


「あ、えっと。へ~んしんっ!」


 魔法で一瞬の早着替え。あたしの魔法って、これぐらいしかできないんだよね。本当、魔法力なさすぎ。


 魔法で着替えるから、多少のサイズ調整もできる。


 だって、用意された服とエプロン、胸のあたりがあまりにも大きすぎてぶかぶかなんだもんさ。


 酷すぎない?


「ノゾミ様は器用なのですね」


 着替えも早々に済んで、ドアを開けると、侍女長さんはすでに別件でいなくなっていた。かわりにいたのは老齢の料理長兼侍女さん。


 彼女に案内されながら、通路脇の料理室に通される。


 そのフロアーはまるで、病院か実験室かのように一号、二号とそれぞれ部屋がわかれていた。


 当然あわてふためく。広所(こうしょ)恐怖症が炸裂する。


 だって、こんなに広い調理室見たことないもん。


「どうなりとお好きなようにお使いくださいませ。なんでしたら、わたくしめもお手伝いいたしますが、いかがなさいましょう?」

「え~と。あんこと寒天ってあります?」

「あいすみませんが、ございません」

「はいっ!?」


 ちょっと待ったっ。


 あんこと寒天がない、ですってぇ!?


 じゃあイチから作るからいいもん。


「あずきと天草はありますか?」

「申し訳ございませんが、そちらもありません」


 ……なんならあるのさ?


「わたくしめらは、ニホン文化に親しくありませんので。生クリーム用の卵や小麦粉なんかはどっさりとご用意できておりますが」


 ……あんみつ、作れないじゃないですか。


 どうするよ、あたし。ディール様は、さっきの侍女長さんとお仕事の都合で出かけてしまっているってのに。


 あずきと天草のない場所で、どうやってあんみつを作ればいいのだろう?


「フルーツなら、どっさりご用意しております。ああ、それと。どうか、城外部からご持参なさった食料はこちらでお預かりすることになっておりますので、どうぞよしなに」


 じゃなくってぇ!!


うっかりポシェットの中から虹色のアメ玉の袋を取り出して彼女に渡してしまったけれど。


 このままじゃ、フルーツ寒天すら作れないじゃん。

  

 あたしには、空間魔法なんて便利魔法は使えないし、付与されてすらもいないし、肩に下げているのはふつうのポシェットであって、魔力アイテムですらない。しかも、城外から食品の持ち込み禁止だなんて。とほほだよ。


「あの~? あずきと天草の用意って、すぐできません、よね?」

「末端の魔法使いをお遣いにやるのでしたら、できますが」


 末端かいっ。


「ん~? では、その末端の魔法使いさんに頼んでもいいですか?」

「無理でございます」

「なぜっ!?」


 老齢の料理長さんは、あたしの顔色が変わるのを見て楽しんでいるのがはっきりとわかった。


「城内はただいま大変な緊急事態におちいっております故、みなそちらに向かわせております」


 それならそうと、早く言ってくださいな……。


 つづく

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