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十話 あんみつ

 はじめての魔王城。前魔王が残した負の遺産とも言われているけど、そんな禍々(まがまが)しさは感じ取れなかった。


 あたしはほんの少しの魔法しか使えないから、魔王城の領域に入った瞬間、結界のビリッとした感覚にあせりまくった。


 すでに何度か魔王城まで車を走らせているゾーイは、慣れた調子であたしに守護魔法をかけてくれた。


「心配するな。オレたちが今日ここに引っ越すことは城のみんなが知ってる。結界は慣れんが、静電気みたいなもんだと思ってればいいんじゃねぇ?」


 ゾーイはそう言ったけど。


 実際、あたしの荷物も毎日お城の中に運び入れてくれたのはゾーイなので、ここまで迷惑をかけていいのかな、なんて恐縮してしまう。


「ノゾミさぁ、今はなにを作りたい?」

「え?」


 なにって、お菓子のこと?


「なんでもいいんだ。菓子でも針仕事のことでも。ちなみに、菓子がかりのかたわらで針仕事をすることも理解してもらえてるみたいだぜ」


 どうする? なんて笑顔で聞かれて、鼻の奥がジンと痛んだ。まずい、泣きそう。


「なにからなにまで、申し訳のうござんっすっ!!」

「なんて言葉を使いやがるよ。武士か!?」


 それから二人ではははと笑った。泣くのをこらえるなら笑わなくちゃ。


「あたし、やっぱり落雁を作りたい。そりゃ、お菓子と言えば、フルーツケーキだけど。あたしはあの地味な食感が好きだから」

「そっか。がんばれよ。オレもがんばるからさ。もし、必要な物があったら、遠慮なく誰にでもたのめよ? それから――」

「ゾーイやめてよ。お父さんみたい」


 がはははっと笑うゾーイ。虫歯、増えちゃってるじゃない。あたしのお菓子を試食しすぎなんだよ。


「さてと、到着したぞ」


 だだっ広い野原に車を停めると、ゾーイは得意の魔法で車をミニカーまで小さくしてポケットにしまい込んだ。


 目の前にそそり立つ、石造りの魔王城は、たくさんの蔦が絡んで今にも魔獣があらわれそうな雰囲気。


「ようやく来てくれたか。これからよろしく、ノゾミとゾーイ」


 いつもより少しだけ頬を赤らめた感じのディール様が、にこやかにお迎えしてくれる。


 あたしの荷物を従者さんが持ってくれて、ここでゾーイとはお別れになった。


「じゃ、またな。ノゾミ!!」

「うん。ゾーイもがんばってね」


 手を振りながらも、あたしたちの表情はいつもよりこわばっていた。


 門扉をくぐる前に、浄化魔法をかけられた。


「どうかわるく思わないでくれ。三年前、ギュル兄様が国を支配してからというもの、国に流行り病が蔓延していてね。なるべく、外から菌を運ばないようにしているんだ」

「え? そうだったんですか?」

「実はそうだったんだ。でもこれはあくまでも極秘事項だから、城づとめの者でも知らなかったりするので、あしからず」


 そんな重大な秘密を知ってしまったなんて。あたし、隠し通せるかしら?


 あれ? そうすると、もしかして?


「あの、井戸水の使用禁止っていうのは、そういうことだったのですか?」

「そう。でも、それも秘密だからね」


 緑色の瞳がわずかに潤んで、口元には笑みを浮かべる。


 なんというか。


 今日のディール様、圧倒的な美っ!!


「それで? 今日はなんの菓子を作ってくれるんだい?」

「なにがよろしいでしょうか?」


 う~ん、と考え込むディール様ご御一行。


「あんみつ、とかは?」

「できます! 少しお時間いただきますけど、フルーツは分けてくださいますよね?」


 もちろん、とお答えになったディール様が、子供のように笑った。


 やばっ。なんだか今日のディール様、いつにも増して謎に美しすぎる。


 なぜなんだぁ~!?


 つづく

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