九話 虹色のアメ玉
そして魔王城でお菓子がかりとして住む準備ができたのは、ディール様に誘われてから四日後のことだった。
古民家はゾーイのお家のものだから、なるべくなにも残さないように掃除もすませた。
姉さんもあたしを気にして手伝ってくれたし、家族の中では一番の理解者なんだ。
「オレさぁ、ついに噂のギュルディーノ魔王様にお会いしたんだ」
あたしと自分の荷物をお城へと運ぶために、城と実家を行き来していたゾーイが、車を運転しながら真剣な顔をして言った。
その瞬間、あたしの心臓がとくりとはねた。
ギュルディーノ様も、奥様を凍結されたことをあたしのせいにするのかしら?
そう思うと、こころがズキズキと痛くなってくる。
だけど。それなら三年間も毎日のようにあたしのお菓子をディール様が買いに来てくれるはずはないし。
「まぁ~た難しいことを考えてるだろ? ノゾミはウソがつけないんだから、そんな顔してないで笑ってろ」
「うん。……あのね、ゾーイ。奥様は、あたしのお菓子を食べてすぐにお亡くなりになったんでしょう? だとしたら、やっぱりあたしのせい――」
ゴン! と強い衝撃が頭に響いた。
運転中のゾーイが、片手であたしの頭をグウで殴ったのだ。
「バカもやすみやすみ言え。なんでもかんでも自分のせいにするな。奥様は奥様。爺ちゃんのことは爺ちゃん。全部自分で背負い込むなよ」
あ。
ぽろぽろと頬を涙が伝う。
そうか、あたし、ゾーイに否定して欲しかったんだ。
ずるいな。
「それに、ノゾミのことを恨んでいるのならば、魔王城に来いなんて言わないだろ?」
「……うん」
まったく、いつまでたってもガキだな、ノゾミは。なんてほほ笑んで。
だからあたしも覚悟を決め直して。自分で刺繍したハンカチでそっと涙をぬぐった。
「だからなるべく笑ってろ。そうすりゃ、どうしてディール様がノゾミを城に住ませてまで菓子がかりにしたのか、その秘密がわかるさ」
おいしいものは、こころを溶かす。
あまいお菓子もまたしかり。
ポシェットから特製のアメ玉の入った袋を取り出した。
「おっ、久しぶりだな。ノゾミが作った虹色のアメ玉。オレにも一つくれよ?」
「もちろんだよ。はい」
そうしてなにげにゾーイの口の中にアメ玉を放り込んで。
だけど、その瞬間にバランスを崩したから、ゾーイの唇にあたしの手がふれてしまったんだ。
「あ、ごめんっ!!」
「オレのことより。ノゾミは大丈夫か?」
すぐに車を路肩に停めてくれた。
……おヒゲなんて、いつから生やしていたんだっけ?
「大丈夫。平気。だから、早く行こう?」
「おう。なら、ゆっくり行くか」
車を走らせる前に、ゾーイの唇にふれた指で、アメ玉を一つ、自分の口に入れた。
カラコロカラコロと口の中でアメ玉を転がすゾーイは、相変わらずで。
まんべんなく、アメ玉を堪能してくれているのがわかるから、うれしい。
「これはあくまで想像でしかないけど」
あ、そう言えば、魔王様のことをなにか言っていたな。
「魔王様、すっごく近寄りがたい雰囲気だったんだ。あれ、きっと長いこと笑ってないぞ。だから、ディール様はノゾミの菓子で、魔王様を笑顔にさせたいんじゃないかなって思ったんだ」
なるほど。そういうことなら。
頑張らなくちゃ!!
つづく




