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寿さんの雑記帳  作者: 寿
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回転寿司編

「やはり食い物というのは、火力で決まるものだな」


我が主にして次期男爵、ナンブ・リュウゾウが言った。

なんのことであろうか?

ナンブ・リュウゾウはそう述べたきり、箸を動かそうとしない。


いや、漬物で飯を食い始めた。

どういうことか? メインの焼き魚に一度箸をつけて、それ以降は見向きもしない。

私もナンブ・リュウゾウと食卓を同じくしていた。


私も焼き魚に箸を差し込んでみる。

主の言わんとするところが理解できた。

生焼けなのである。


そして汁物も……ぬるい。

ナンブ家の使用人にどういうことかとたずねる。

なんでも料理人が「俺は機械の身体をタダでくれるという星に行くんだ、捜さないでくれ」と書き置きを残していなくなったらしい。


そこへ何故か親衛隊がしゃしゃり出てきて、「殿の窮地を救うは家臣の務め!」と不必要に張り切り、その結果がこれだそうだ。

誰か止めなかったのか? と訊くと使用人たちは「親衛隊の方々があまりにも鬼気迫る迫力でしたので」と微笑まれてしまった。

他の者がこのような生焼けの魚を出したのなら、「殿を病の床に伏せさせる気か!」と処断するところだが、他ならぬ親衛隊ではどうしようもない。


「本日のシェフに食材を無駄にしないようにと伝えてください」


としか言えなかった。

頭の中で、すでに急墓の謳い文句が浮かんでいた。

男爵さま三男リュウゾウさまに生焼けの魚を出さないシェフ、募集!


生魚を食ってもムシごと消化吸収しそうな男ではあるが、万が一ということもある。

というか、この世界にも虫下しはある。

ただ苦い薬なので主も飲みたくないのだろう。


だから魚の生食を避けたのだ。

ということで、今回わたくしヤハラは、魚の生食に挑む羽目になる。



ということで私から見れば異世界、読者諸兄から見れば現世という世界。

まただ。

またである。


極めて有機質、そして人間という生き物の独特な体臭を放つような、この世界の鬼将軍の部屋。

なんでもこの部屋は「海賊船」というものをイメージした部屋らしい。


「海賊とはなんでしょうか?」


私が問うとこの世界の鬼将軍は夢見るような眼差しで言う。


「なにものにも束縛されず、どこまでもどこまでも、自由な旅を続けられる者だ」


なるほど、住所不定の無職浪人というヤツか。

そんなものに夢を馳せる辺り、「鬼将軍」という種族はどこの世界でもブレが無いようだ。

しかし個人的に生産力の無い我が身としては、とりあえず資産家には下手したてに出ておく。


「なるほど総裁、男子の浪漫ですな」


「少年の浪漫である!」


大きな声で断言するが、私の見解を否定するものではない。

むしろ「わかっているではないか!」とばかり白い歯を輝かせる。

この場合私はどうするべきか?


あからさまにおかしい人間に同意されたのだ。

首をくくるべきか、腹を切るべきか。

いずれにしても生涯心の傷として残る出来事である。


「して総裁、今回はいかなる用件で私をお呼び出しでしょうか?」


うむ、と偉そうに鬼将軍はうなずく。


「ヤハラくん、君の世界に肉の生食文化はあるかね?」


無い訳ではない。

牛の赤身肉をミンチにして、塩コショウに刻み玉ねぎ、ニンニクを混ぜ込みケチャップをかけて食べるというのがある。

力士隊がやっていた食文化であり、私としてはノーサンキューな代物である。


だから私は「いえ、ありません」と嘘をついた。

私はこの世界で鬼将軍から「グルメ」を楽しませていただきたいのだ。

決してゲテモノを食したい訳ではない。


しかし奴はまだ何か考えているようだった。

そうかね? と言ってまだ私のことを見ようとはしない。


「では魚の生食文化は存在するのかね?」


「まったくありません。魚には寄生虫がいますので、焼く煮るなどしてからでなければ食べることはまかりなりません」


私にとってはまったく想像の範疇を越える質問であった。

しかし鬼将軍は当然というような顔で、私のことなど見向きもせずに言う。


「そうか……ワイマール王国は山国。……海の存在は知らぬか……」


「うみ……はて、わかりませぬな……」


「海というのは広く、どこまでも遠く……」


「あ、その話、長くなりますか?」


「中略……そこに棲む魚を生食するのは最高級の贅沢である」


生食が可能な魚が存在するとは。

というかむしろ私としては最高級という部分に心惹かれていた。


「しかし最高級を最高級のまま食するなど、なんの努力も工夫も無い愚かな所業!

ここは最高級を庶民的にアレンジした国民的人気食、回転寿司と洒落込もうではないか!」


いや、最高級は最高級のまま食するのが正しいでしょうが。

どこまでへそ曲がりなのよ、オッサン。

などとも言い出せず、私の心は最高級食材へと旅立っていた。


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