異世界のタバコ商人と出会って、無職の身でも一攫千金を果たそう!24
狂おしい夏が終わり、秋の気配がおとずれる。
シャルローネの異世界煙草はあちらの世界で好評なようで、一度の商いで買い付ける煙草の数もいまでは当初の倍、三倍となっていた。
そうなると俺の懐具合も潤っているので、ときおり北海道まで赴いて現地で大量購入しても懐が痛むことはなくなっていた。
なにしろJRを利用すれば折りたたみ自転車を運ぶことができる。
駅を出て自転車を漕げば、スピードに乗るより早くコンビニに着く。
目についたコンビニでワンカートンずつ購入すれば、すぐにゴールデンバットシガーは背中のデイパック一杯になったのだ。
すげぇぜ北海道。
ゴールデンバットシガーの楽園だな、北海道。
もっと金を貯めたらふきだまり町から北海道へ移住するのも悪くないかもしれないな。
そんな考えも頭をよぎる。
しかし世の中、そんなに甘くは無い。
北海道は北海道だから北海道なのだ。
そう、雪。
恐怖の豪雪と寒波が北国の大地を覆うのだ。
そうなるともう、自転車でコンビニ巡りなどできやしない。
おとなしく本州で世界の煙草巡りを再開することになる。
煙草煙草酒、煙草煙草煙草たまに塩。
俺のタンス貯金も見る間に増えていった。
しかし、ここでうれしい誤算があった。
金が増える一方で、使い途が無いのだ。
北海道へ仕入れにいっていた時は、それなりに金は使っていた。
しかし旅費などはどんなに贅沢をしても、せいぜい数万円。
シャルローネの渡してくれる買い付けの金は、いまでは一本……つまり百万円。
これでは手提げ金庫ごときでは、全然賄えなくなる。
とはいうものの、俺は高級車に乗りたい訳ではないし……そもそも免許も持ってないし……そんな買い物をすればたちまち税務署に目をつけられる。
趣味といえばネットゲームくらいなもので、こちらも課金などわずかしか必要ない。
三食を外食してはいるものの、それだって限界がある。
そもそも俺はそんなに高い店には入らない。
まあ、シャルローネとの約束が無い時には、浅草あたりに赴いて、日雇いのおっちゃんたちといっしょに牛スジの煮込みで一杯やったりもする。
しかし罰当たり昼間酒は、やはり罰当たりなものであって、それをやると一日がダメになってしまうのだ。
北海道へ赴くことがあったので、それを参考に旅行なども考えたが、シャルローネの突然の訪問を考えると、それもそうそう出来はしない。
だが、両替商で向こうの金銭を手にすると、俺もニッポンと異世界を行き来できる装飾具を手に入れることができるようになった。
これは何を意味するかというと……。
異世界の良いお店で、二人お高いワインを酌み交わすことができるようになり。
「シャルローネ……」
「ケースケさん……」
視線をからみ合わせることもできるようになった。
もちろんからみ合うのは視線だけではない。
指と指をからみ合わせて……。
そして……。
もちろん俺はニッポンの生活を捨ててはいない。
こちらに籍を残しておくと、なにかと便利だからだ。
しかし無職では色々と不都合なので、日雇いの仕事で気楽に働くようにした。
そうすれば多少金を使っても不思議はなくなる。
原付免許を取得して、スーパーカブを手に入れた。
これでより効率よく煙草を仕入れることができるようになった。
シャルローネとの約束を違えぬように、オメガのシーマスターなども締めてみる。
ロレックスは避けたかった。
俺は課長とは違うのだ。
そして日雇いというのに、清潔感は忘れないようにする。
サウナで汗を流し、ヒゲを丁寧にあたってスーツなどを着込んでみた。
今日は初めて、自力でシャルローネの元を訪れる日なのだ。
キッチリとネクタイを締めると、スーツの生地が鈍く輝いた。
ほんのささやかな花束も準備した。
胸ポケットに指輪の小箱を忍ばせる。
オメガのシーマスターは、約束の時間五分前を指している。
そう、俺たちは仕事のパートナーとして親睦を深め、さらにプライベートでも親睦を深めていたのだ。
約束の時間五秒前。
俺は装飾具に呪文を唱える。
ボン! という爆発音とともに、ひっくり返った光景。
おかしな角度から、シャルローネの褐色の瞳がのぞき込んでいた。
俺もまた、着地に失敗していた。
シャルローネは出会ったときには、碧い瞳であった。
彼女たちの種族は、恋に落ちると瞳の色が変わるらしい。
ということで、彼女の初めての恋の相手というのは、どうやら俺らしく。
それがいまでは、指輪を渡そうかというほどに親密になっていた。
親父さんはどこかの金融業者へ娶らせたかったようだが、シャルローネは断固として拒否したらしい。
ならば、俺も……。
「やあ、シャルローネ。今日は君に渡したいものがあるんだ。俺の……いや、ボクの世界の風習なんだ」
永遠の愛を誓うのに、指輪を贈る風習は、シャルローネの世界でも失礼には当たらないそうで。
恰好悪く無様だが、それでも指輪の小箱を引っ張り出して、シャルローネに見てもらう。
で?
彼女の返事はどうだったかって?
シャルローネは今、シガーBARを開店して、そこのオーナーになっていた。
ニッポンのコンビニくらいには煙草の種類を揃えている。
いまでは若い異世界商人たちが、ニッポンで煙草を仕入れているのだ。
そして俺は、今日もシガーBAR「シャルローネ」を訪れる。
招かれる部屋は、VIPルームだ。
「いらっしゃいませ、ケースケさん……御注文は、いつもの煙草で?」
「あぁ、ゴールデンバットシガーを……」
たとえニ世界で富豪になろうとも、俺の愛飲の煙草は、ゴールデンバットシガーだった。
そしてシャルローネの薬指には、俺の贈った指輪がランプの灯りに輝いていた。
シャルローネさんエピソードはこれでおしまい。このエピソードはそのうち独立させようと思っております。
ここまでのご愛読ありがとうございました。




