異世界のタバコ商人と出会って、無職の身でも一攫千金を果たそう!19
店内はランプの灯りしか無い、とても頼りなげな薄暗さである。
足元は木造、いくつか丸テーブルが並び、客たちはディナーを楽しんでいるように見えた。
そして酒。
どのテーブルにもビールのようなジョッキか、ワインのような液体を注いだチューリップグラスが置かれている。
どうやらシャルローネの世界では、食前酒とか食中酒といった習慣があるようだ。
向かい合わせで席に着く。
「いらっしゃいませ、シャルローネさま。今日はどのような御注文でしょうか?」
すぐに若い男が現れて、メニューを渡してくる。
シャルローネはいくつか注文したが、馴染みのない単語が並んだので、記憶に残っているのはステーキとパスタ、それにワインだけだった。
それとなく店内を見回す。
みな、会話はボソボソと小声で、ニッポンの居酒屋のような騒がしさは無い。
ここは食事と、それについてくる酒を楽しむ場所にようだ。
まずはワインが届く。
若い男がグラスに注いでくれた。
俺はグラスを回し、香りを確かめる。
「ケースケさんの世界でも、ワインは香りを確かめるんですか?」
「あぁ、そうだよ。ただし俺は普段ワインは頂かないから、通ではないけどね」
通人ならぬ身ではあったが、それでもワインの香りは大変によろしいものに思えた。
「もう、頂いてもいいのかな?」
「どうぞどうぞ」
シャルローネはグラスに唇をつける。
俺も一口いただいた。
渋味強め、しかし二口目もいきたくなる味わい。
つまり、美味い。
思わずうっとりと瞳を閉じてしまう。
そしてまぶたを開ければ、ランプの灯りで朧に浮かぶシャルローネの幻想的な姿。
「早くも酔ってしまいそうだよ」
「あら、そんなに強いお酒ではありませんよ?」
「いや、この店の雰囲気にさ」
それと、君に……。
などとは言えない。
肉がやってきた。
鉄板の上でジュウジュウと音を立て、脂の焼ける香りを放ち、厚切り焼き肉の入場である。
その姿は、なんの肉かはわからないのに俺の中の「男の血」をたぎらせてくれる。
つまり、見ただけで俺のテンションは急上昇したのだ。
「テーブルマナーとかはいいのかな? みんな静かに食べてるけど」
「ほぼほぼニッポンと変わりがありませんので、大丈夫だと思いますよ」
そうか、ではおもむろに!
フォークで肉を押さえつけ、ナイフを入れる。
ズク……ッ。
という効果音が似合いそうだ。
熱々の肉を、まずは一口大よりも大きめに。
口に運ぶと、肉の咀嚼感はモニュモニュとしたもの。
そして力強い、肉の味わいと香り。
悪く言えば塩っけが足りない。
香辛料が効いてないというところだが、それを補って余りある圧倒的な肉感。
なにかこう、勝利を得たような感覚と達成感まで心に広がる。
嗚呼、俺はステーキを食っている。
というか、本当ならばもう少し古風に「ビフテキ」と言いたいところであった。
今でこそ格安ステーキを振る舞ってくれる店は増えたが、学生の頃にはこんなに安くビフテキを食べられるとは夢にも思っていなかった。
というかそれは俺が社会人としてひとり立ちしたから言えるのであって、妻子を養う親父の身分とサラリーでは、やはりビフテキなど夢の食べ物であろう。
つまり何が言いたいのかというと、お肉バンザイ。
ニッポンに帰ったら、速攻でステーキハウスに飛び込んで、二食連続ビフテキという快挙を成し遂げてやろうかと考えていた。
「お口に合いますか、ケースケさん?」
「うん、初めての味わいだけど俺の口には抜群に合うよ」
そうだ、シャルローネの世界のこの肉は、ブタ味でもウシ味でもない、初めて食べる味わいなのだが、それでも肉なのだ。
まずは肉、そして脂にまみれた口の中をワインで洗う。
そしてまた肉。
なるほど、このコンビネーションは、肉がワインを引き立てワインが肉を引き立ててくれる。
まさに黄金のコンビネーションだ。
塩と香辛料は砂金のごとし、という世界事情は垣間見えるが、それでもこの世界の肉料理は絶品と言えた。
そしてふと見れば、食後の一服を楽しむ者もいる。
みんな葉巻をふかしていた。
シャルローネには悪いんだけど、お世辞にも良い香りとは言えない。
古畳に火を着けていぶしているだけのような、貧乏くさい香りである。
ニッポンの三級煙草でも、この世界ではウケるというのがうなずけた。




