異世界のタバコ商人と出会って、無職の身でも一攫千金を果たそう!14
目指すクレープの屋台は、今日も営業していた。
「お〜〜、こちらの世界にも露店販売は存在していたんですねぇ〜〜」
シャルローネは、商人たる者、常に攻めの姿勢を忘れてはいけませんとかなんとか。
俺のとなりでウンウンとうなずいていた。
そして屋台から流れてくる甘い香りに、恍惚と表情をとろけさせる。
「シャルローネにとってもこの香りはいい香りなの?」
「はい、私たちの世界では少しばかり濃い香りかもしれませんが、若い女の子たちにはきっと大人気の香りですよ♪」
そうなのか、こちらでは庶民的な価格で三級煙草のゴールデンバットシガーを「良い香り」とか言っていたので、匂いの感覚にズレがあるのではないかと、思わず疑ってしまった。
やはりあの香りは、異世界の女の子たちをも魅了する香りだったのか。
しかしクレープの屋台が近づいてくると、シャルローネは足を止めてしまった。
顔色が悪い。
うっすらと脂汗をにじませていた。
「どうしたんだい、シャルローネ?」
「い、いえ……なん、なんでもありません……なんでも……」
いや、すっごくなんでもありそうだから。
声も上ずって、口だけで喋ってるみたいだし。
そのうちシャルローネは、浅い呼吸でハフ、ハフ、と具合が悪そうな様子を見せた。
どこかで見た記憶がある。
この症状。
一体どこであったか……でも、確かに見た記憶がある。
そのうちシャルローネは、フーッフーッとうつむきながら呼吸を始めた。
もう顔色は青白くなっている。
そうだ、この表情は乗り物酔いの表情だ!
慌ててシャルローネを路地裏へ。
おそらくここなら、クレープの香りは届かない。
ハッハッと呼吸を整えるシャルローネ。
顔色も段々と良くなって来ているみたいだ。
「す、すみません。ケースケさん」
苦痛に耐えるシャルローネの表情は、壮絶な艶を放っている。
「ごめん、シャルローネ。君にはこちらのスイーツの香り、濃すぎたみたいだね」
香り酔いとでも言おうか、あまりに甘ったるい香りが濃厚すぎて、シャルローネの内蔵が驚いてしまったようだ。
「ですが、残念です。あんなに甘い香りは初めてだったのに……」
「大丈夫だよ、シャルローネ。クレープばかりがスイーツじゃない。なんだったらお土産に、もう少しシャルローネたちが食べやすいものを持たせるから」
「ううう……なにからなにまでケースケさんのお世話になってしまって……」
「こちらこそゴメン。配慮が足りなかったよ」
ということで、俺は最寄りのコンビニへシャルローネを連れて行った。
そこで少しだけお高いクッキーを買う。
ニ袋だ。ひとつはお土産、ひとつは部屋で味見用。
それから、コンビニついでに煙草をひとつ。
これもお試しということでメンソールの商品だ。
これもシャルローネのためである。
俺が煙草を注文して、店員が背後の煙草棚から商品を抜き取って、シャルローネは初めて気がついたようだった。
「あそこにあるのは、全部煙草なんですかっ!?」
「そうだよ、シャルローネ。こちらの煙草はまだまだ種類があるから。ジックリと腰を据えて商いするといいよ」
「あぁ……本当にこちらの世界は煙草の黄金郷だったんですね……」
頬を紅く染めるシャルローネ。
そして「腰を据えて商いするといい」と言ったのは、いつまでもシャルローネと一緒にいたいという、俺のスケベ心……。
しかし、突発的とも言える今回の来訪も別れの時が来た。
「それではケースケさん、また今度……」
そう言って、彼女は俺を見つめている。
「あぁ、また今度……」
そう言って、俺もシャルローネを見つめてしまった。
フッと彼女の手を取ってしまった。
だけどシャルローネは、それを拒まない。
むしろ指をからめてくる。
その積極的な姿勢に、俺は胸が高鳴るのを感じた。
シャルローネの蒼い瞳が、俺と同じ黒い色に変わる。
もしかしてこれは、キスくらいしてもいいってことか?
いいのか俺? という気持ちと、あの柔らかそうな唇を俺のものにしたい、という気持ちがせめぎ合った。
結果、欲望の勝ち。
俺が顔を近づけると、シャルローネも応じてくれた。
こんな美少女とのキスは生まれて初めてだ。
そう思っていると、
「ちょいと足立さん! あの大美少女来てるのかい! だったらアタシにも紹介なさいな!」
大家のオバサンが戸を叩いた。
我に返った俺たちは、互い目を逸らす。
そしてシャルローネは、また今度と言って姿を消した。
何がまた今度なのか?
意味深すぎるぜ、シャルローネ。
「ちょっと、足立さん! 玄関のブーツ、あの娘さんのでしょ!」
とうとう大家さんが突入してきた。
玄関のブーツ?
ということは、ほどなくシャルローネが、恥ずかしそうに帰って来るのか。
美少女のくせに隙だらけ。
そんなシャルローネに思わず苦笑してしまう。
大家さんはそんな俺を見て、不思議そうな顔をするだけであった。
当作品に登場する愛飲のゴールデンバットシガーが10月になんと90円も値上げしてしまいます! 愛煙家としては崖から突き落とされる気分です。




