罰ゲーム告白を書いてみるもなかなかこう……
放課後、友だちとのおしゃべりの時間。
何かを話さなきゃってことでもない。流行のファッションとかスイーツのこと。それに他愛もない噂話とか。とにかくまだ帰りたくない、友だちと別れたくないだけの時間。
今日なんかは話のノリで、罰ゲームをかけたトランプゲーム。ビリッカスになったら『話をしたこともない男子』に告白して一ヶ月交際する。だなんて……私はそういう人の心をもてあそぶようなの嫌なんだけど……。
「ンなこと言ってっから、ユイは男の子と付き合ったことないのよ!」
「そ~そ~アタシたちの中じゃ一番可愛いのに、ユイちゃんったらこの前も男バスの先輩にごめんなさいしちゃうんだから〜〜」
ビリッカスにならなきゃいいだけだからと説得されて、無理矢理ゲームの参加させられて、それなのにそれなのに。
「どーして私がビリになるのよーーっ!」
「あ〜〜こりゃあれだね。神さまがユイに『そろそろカレシ作りなさい』っていってんのよ」
「軽く言わないでよトモ!」
「神さまは知ってんだね〜〜。ユイちゃんの美貌がもったいないって」
「他人事みたいにいわないでよ、ミッコ!」
「でもさ、ユイ。だれに告白することにしよっか?」
「一応希望は聞いておくよ? 聞くだけだけど」
「ふうぇっ! だ、誰ってそんな……気になる男の子もいないし……っていうか、誰に告白するか決めるのは二人なのっ⁉」
「そりゃそうだよ、ユイに決めさせたら、卒業まで相手が決まらないだろうから」
「そーそー、なんたって……気になる男の子もいないし……ってなもんだから」
「ミッコ、それ私の物真似?」
ということで、二人はヒソヒソと打ち合わせ。私としては憂鬱でしかない。誰に決まってもなんだか申し訳がなくって……。
「お待たせしましたーーっ! ユイの告白相手を発表しまーーす!」
「どうせだから意外性を重視して、あんまり口をきいたことのない男子を選びましたーーっ!」
ハイハイ、ノリノリですなぁ、お二人とも……。
「ユイが告白する相手は……クラスの怪人、鬼将軍くんで〜〜す!」
「なんですとーーっ!」
「いかがですかユイちゃん、今のお気持ちは……」
「無理無理無理無理! 絶対に無理!」
「ユイ……それ、鬼将軍くんに対してすっごく失礼だよ?」
「だってだってだって〜〜!」
鬼将軍くんといえば入学以来常に成績はトップ。だけど眼鏡の奥の目つきが冷たすぎるっていうか怖いっていうか。女子の間では「あの目を見たら呪われる」とか、「あの目を見た女子が去年三人、石にされた」とか言われている。本人も身体全体から、「話しかけるなオーラ」を出してるし、側を通りかかるだけで変なプレッシャーがあるっていうか。とにかく怖いだけの存在。男子から聞いた話でも、「笑ったところを見たことがない」とか、「なんかおかしな奴」ということで「家で呪いの研究でもしてるんじゃないか?」って話になっている。
トモがクラスの怪人と表現したのは間違いじゃない。いつも教室でひとりぼっち。それなのに寂しそうなところがひとつも無い。不気味というか、なにかこう、得体の知れない存在である鬼将軍くん。そんな彼に、私は告白してお付き合いしなければならなくなってしまった。
「それじゃユイ、セッティングの方はアタシらにまかせて!」
「ユイちゃんは告白の言葉、用意しとくんだよ♪」
あっという間に今日は解散。私ひとり、教室に残されてしまった。
「……どうしよう」
それでも日はまた昇り朝が来て、放課後になる。人通りの少ない図書室前。
気乗りしないまま私は鬼将軍くんを待っていた。少しうつむき加減。どうしても顔を上げられない。すると足音。迷いのない一直線なリズム。男子の上履きがふたつ、うつむいた私の視界に入る。
「お呼びかな、高城さん?」
頭の上で声がした。あまり聞き覚えが無いけど、鬼将軍くんの声だ。反射的に顔を上げる。すると、目が合ってしまった。氷のように冷たくて、刃のように鋭い眼差し。女子の間に流れるウワサは、本物だった。『これは……石にされる!』
威圧感あふれる眼差しに動けなくなってしまうけど、鬼将軍くんは続ける。
「顔色が悪いけど、大丈夫かな?」
あああ、す、すみません! 気遣ってもらってるのに、怯えちゃって。
「なにか気乗りしないことを、押しつけられたかな?」
いえいえいえそんな、めっそうもない!
ふむ、と言って鬼将軍くんは目を逸してくれた。私もどうにか、ホッとひと息。
「聞いてはいるよ。図書室前、罰ゲーム告白の有名スポットだってね」
「え?」
「人気の女子から図書室前に呼び出されたら気をつけろ。それは罰ゲーム告白でしかない。男子の間じゃあもっぱらのウワサだ」
「あの……ごめんなさい……騙したみたいで」
「俺はまったくかまわないけど、あまりいい趣味とは言えないね」
普段はすごく怖いけど、意外とおおらかな人みたい。プレッシャーが消えてゆく。
「それに君はクラスの中では人気がある方みたいじゃないか。そんな娘が迂闊なことをしてはいけない」
「はい、自重します」
「君のような娘が人の心をもてあそぶようなゲームをしたとなったら、周りの評価が下がってしまうよ?」
あれ? さっきから鬼将軍くん。私のことばかり。自分がオモチャみたいに扱われたことには、全然触れない。
横顔を見上げる。私に対して、全然怒ってなんかいないみたい。どこか違う、遠くの方を見つめている。
「でも君は、俺に告白しなくちゃいけないんだよね?」
「……はい」
「そしてどのくらい付き合わなくちゃいけないんだい?」
「一ヶ月……」
「それは拷問だろ、俺と一ヶ月付き合うなど」
自分で言っちゃうかな、この人。
「でも鬼将軍くんだって学年主席だし、そんなに魅力が無い訳じゃないよ!」
「しかし君は俺の目つきに怯えている」
見透かされてる、私の取り繕いなんて。
「無理をするな。この場は先走った俺が告白をしたことにして、フラレたことにしよう。そうすればこの茶番もおしまいだ」
「え? それじゃあ鬼将軍くんが……」
まるでピエロじゃない。
「そうでもしなきゃ、おさまりがつかないだろ?」
意外、鬼将軍くんって笑うんだ。
「あの二人に俺から言っておく。伝言のために呼び出されたのに勘違いした俺が告白してフラレた。君は告白ゲームなんかしちゃいない。いいね?」
本当に、私のこと気遣ってばかり。
「それじゃあ俺は、これで……」
背中を向けて、颯爽と去ってゆく。物陰で見ていたトモとミッコになにか言い残して。
まっすぐな足取りで鬼将軍くんは去ってゆく。そのうしろ姿が……格好いい。
「あーあ、ダメでしたなぁ、ユイ」
「ユイちゃんの一ヶ月カレシ計画、失敗でしたなぁ」
「……トモ、もっかいセッティングしてくれる?」
「へ? いいのかよ?」
いいもなにも、告白するならいまのうち。ライバルはだれもいないんだから。私が彼を、独り占め。今日はごめんなさい、鬼将軍くん。だけど誰も気づいていない、君のいいところ。私だけが気づいたから。明日は私から……勇気を出すから……。




