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寿さんの雑記帳  作者: 寿
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ふらりと河岸を変えて飲みに出たら会社内のヒエラルキーが上がってしまった件について3

川原真が庶務課に戻ると、よく日焼けした恰幅の良い中年男が待っていた。

全体的に大づくりな印象と言って良いだろうか?

よく食べてよく遊んで、よく仕事をするというのが似合う。

いわば仕事のできる男の雰囲気を持っていた。


「川原くん、営業一課長の小沢さんだよ」


庶務課長ボスが米つきバッタのようにヘコヘコと頭を下げながら教えてくれた。

同じ課長でありながら、営業一課と庶務課長の間には、乗り越えられない壁があるのだ。


「いや、井上さん。そんなにしないで頭を上げてください。同じ課長じゃありませんか」


営業課長は気さくに目を細めた。

しかし庶務課長の姿勢は変わらない。

相変わらずヘコヘコしている。


「お仕事中に呼び出して済まない。営業一課の小沢です」


「庶務課の川原です」


どうやら小沢は川原に用があるようだった。

営業に在席していたことはあったが、川原が所属していたのは二課である。

だから小沢とはお互いに接点は無い。


それが名指しで呼び出しを受けるとは、どういうことか?

思い当たる節は無い。

川原はすでに出世コースから外れているのだ。


こんなポンコツ社員を、わざわざ営業に引き戻すはずも無し。

というかそんなことをされては迷惑だ。

川原としては食えるだけ、ほんの少々遊べるだけの金がもらえれば充分。


わざわざノルマ地獄の営業なんぞに帰りたくはないのだ。

備品の数をチェックして、必要なものは補充する。

その程度の『楽な仕事』の方が性に合っているのだ。

すると小沢は頭を下げてきた。


「先日は娘が危ないところを助けていただいたそうで、お礼を言わせてもらうよ川原くん」


なんのことだと頭を巡らせると、大学生を囲んでいた労務者たちをブッ飛ばしたことを思い出した。

小沢が言うには、あのときの女の子が小沢の娘なのだそうだ。

そして川原の背広についた社員バッジから、小沢の娘はこの会社の社員だと知ったそうである。


「人相風体を娘から聞き出してね、ウチの若い者で君の同期が、川原くんのことだと断言してね。いや、お礼が遅くなって済まなかった。今夜ウチの者に飲みに誘わせてもらっても、いいかな?」


「はい、ボクはかまいませんが……」


「それじゃあ仕事がハネたら、迎えにこさせるよ。ところで……」


愛想のよかった小沢の顔が引き締まる。


「娘といっしょにいた男なんだけど、どんな奴だったかな?」


それこそが小沢の本題のようだ。

その男を巡って娘と意見が合わないのかもしれない。

川原は小沢に加勢するような言葉を選んだ。


「清潔感はありましたけど、なにしろ彼から相手にからんでいきましたからね。悪口だって聞き流せばいいものを。酒の席でトラブルを起こすかどうかというのは、アル中自己診断の中には必ず書かれている項目ですので、もしかすると初期段階なのではと……」


「ふ〜む、トラブルの元はそいつかぁ……」


なにやら記憶のページをめくっているような顔である。

もしかしたら知り合いにアル中患者がいたりして、その末路を思い出しているのか……。


「まあ、ボクが最後に見たときは、前歯が無くなって顔も凹凸が無くなるくらい腫れ上がってましたけど」


「そうかそうか、なるほど前歯無しか!」


娘を説得する力でも得たかのように、小沢は相好を崩した。




そして定時。

川原が帰り支度をしていると、営業課に残っていた同期が迎えにきた。


「よ、久し振りだな川原。今夜は課長命令だ、午前さまくらいは覚悟しとけよ」


「おう、鈴木じゃないか。お前が来たのか、ずいぶんと勇ましいこと言うじゃないか」


「謝礼代わりということでな、課長から軍資金をたんまり頂いてきてるんだ。聞いたぞ、お前の武勇伝。高校一年のときだっけ? 久し振りにトンガったことしたなぁ」


鈴木は高校時代の川原を知る、唯一の社員だ。

川原の縄張りからチンピラ連中がいなくなったことも知っている。


「まあ、たまたまのことさ。もう大人なんだから、自粛はしてるよ」


「そうだな、この年齢とし、お前の技で警察の御厄介になったら、鑑別所じゃ済まないだろうからな」


もちろん川原に鑑別所経験は無い。

運のいいことだと今は思う。


「それじゃあ庶務課長、川原お借りしますんで!」


いざ同期よ、夜の街へ出陣だ!


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