その4王子編
私はなにゆえさえずる小鳥とレナどのの間で心揺れ動いているのか?
自問自答する日々が続く。
しかしある日、ついに事件が起きた。
私の胸に小鳥が飛び込んできたのだ。
抱きとめた華奢な身体。
清々しい乙女の香り。
そして肉の感触。
何よりも肉の感触。
腕、胸、そして私の身体にかかる重み。
そうだ、レナどのは私にすべてを預けてはくれないではないか。
将来はすべてを捧げてくれるだろうが、いまはまだなにひとつ預けてはくれていない。
可憐な小鳥は頬を真っ赤に染めて、懸命に教えてくれる。
「キャロン・バリウスと申します!」
その名には覚えが無かった。
しかしレナどのが教えてくれる。
貴族の家柄のようだ。
ならばなにを遠慮することがあろうか。
いや、遠慮するべきであろう。
私は将来国を担う身である。
そして侯爵令嬢を婚約者としているのだから。
私は理性を全開に働かせて爽やかな王子を演じた。
しかしさらなる試練が訪れる。
キャロン・バリウスとともに体育用具倉庫に閉じ込められてしまったのだ。
それでも爽やかな王子を演じ続けていたのだが、運命は悪戯である。
キャロンがマットに躓いて私の胸に落ちてきたのだ。
誰の目も無い。
遠慮咀嚼はいらないのだ。だから私は、私にすべてを捧げてくれる娘の肉体を味わった。
胸の中で。
……そうだ、私はこれをもとめていたのだ。
身も世もなく私を一途に慕ってくれて、すべてを捧げてくれる肉体を。
現在の婚約者、レナどのにはそれが無い。
レナどのは私に恋をしてはくれていない。
私の王子という身分に恋のしているのだ。
王位継承第一位という私にしか、恋をしてくれてはいないのだ。
だがこの娘は違う。
身分の差もなんのその。
ただ一途に私を恋い慕ってくれているのだ。
きつく抱きしめることで、私は彼女に思いを伝えたかった。
しかし彼女は夢見るような眼差しで私を見上げているだけだった。
これは脈が無いのか?
そう思った途端、彼女は瞳を閉じて。
唇を捧げてきた。
娘として、一番大切なものを。
私はそれに応えようとしたが、無粋なノックの音が響く。
そして私は私の欲望に満ちた行為を、婚約者に見られてしまったのだ。
小鳥の翼は折れた。
そして神の御元に召された。
私はなんの躊躇いも迷いも無く婚姻を果たした。
何故小鳥が死ななければならなかったのか、私には分からなかった。
しかし分からなかったの妻となる女は薄っすらと微笑んでいた。
そしてその瞳は、小鳥に似るところは全く無く、ひとつも笑ってはいなかった。
いや、歓喜の色に染まっていたというのが正しい見解か?
とにかく私の人生は、この女に食われることは間違い無いようだ。
周囲の祝福の微笑みとは裏腹に、私の将来は暗澹たるものであった。




