恋物語
三者三様の恋愛模様をお送りしたいのですが、ろくでもないことになりそうな予感しかしません。
恋をするって不思議ですね。
恋をするだけで、実ってすらいない恋なのに、毎日が幸せで神さまに感謝したいくらい。
私、子爵令嬢キャロン。
王都の学園に学ぶ十三歳。
そして私が恋い焦がれるお相手は、なんとこの国の王子さま!
もちろん貴族の娘とはいっても、身分違いだし王子さまには将来を約束された婚約者もいらっしゃいます。
私なんかチンチクリンでパッとしないお芋のような娘ですけど、王子さまってば素敵なんですよ!
碧い瞳は湖のようでブロンドの髪はサラサラと清潔感にあふれ、つねに御学友に囲まれ楽しげに語らう姿は、まさしく古代の太陽神アポロンの生まれ変わりではないのかと思うくらいなんです!
ただし、私は中等部の子供。
王子さまは御婚約されているくらいですので、高等部で学ばれる大人。
身分も違えば立ち位置まで違うだなんて、神さまって本当にイジワルです……。
そんな私を見かねてか、豪商の令嬢である私のお友達が背中を押してくださいます。
「そんなに好きなら、言葉くらいかけてみたら?」
「ダメダメ! ダメですよ、恥ずかしすぎますぅ!」
「でもいつも、身分の壁さえ飛び越せそうなくらいに幸せだっていってるじゃない?」
「身分の壁は飛び越せそうですけど、殿方と口をきくだなんて、恥ずかしいですよ!」
「まさかアンタ、口をきいただけで赤ちゃん授かってしまいますぅ! とか言わないでしょうね?」
「なにをおっしゃいますの、アンリさん? 赤ちゃんというのは殿方と淑女が睦まじく愛し合って、神さまが授けて下さるものですよ?」
「でもね、王子さまは将来この国の王たる方なのよ。おネンネなアンタくらい、どんだけ恥ずかしがってても軽く会話をリードしてくださるわよ?」
それともアンタ、王子さまとお話したくないの? だなんて、意地悪い顔で訊いてくる。
「そんなことありません! 王子さまとお話ができたら、私は空だって飛べてしまうわ!」
「別に御挨拶程度なら問題ないでしょ? 幸せな気分になれるなら、お声くらいかけてもいいじゃない」
って、軽く言ってくれるのですが、私としては遠くから見守っているだけでもしあわせなんです……ウソです。
やっぱり王子さまに気づいていただきたいです。
貴方を恋い慕う娘の存在に、気づいていただきたいのです。
「それなら行動あるのみよ、ホラ♪」
「わわわっ、アンリさん! 突き飛ばさないで!」
私はヨロヨロ、背中を突き飛ばされて前後不覚。
そうしたら、なにか頼もしいものにぽすんと受け止められたようで……。
「やあ、大丈夫かな? 急に飛び出すと危ないよ?」
降り注ぐ柔らかな声。
見上げるときらびやかに輝くブロンドと、お優しい碧眼。
そのお姿に心奪われる私を包む、爽やかなコロンの香り。
「きみ、本当に大丈夫?」
怪訝そうな顔をされる王子さまで、我に返る私。
「あっ! そ、その……失礼いたしました!」
慌てて飛び退くと、どうやら私は王子さまの胸の中に飛び込んでいたようで。
嬉しいやら恥ずかしいやら、頭から湯気が噴き出しそうで。
「きみ、中等部の娘だね? クラスと名前は?」
「はい! 教養課一年一組、キャロン・バリウスと申します! 王子さまの胸に飛び込むなどという不届き、まことに失礼いたしました!」
「キャロン・バリウスか……」
王子さまが御学友を見回すと、お美しい女子生徒……つまり婚約の契りを交わされた侯爵令嬢のレナさまが伝えてくださいました。
「子爵家のバリウス卿ですわ、王子さま」
「バリウス卿か、元気な令嬢を持つと、卿も気苦労が絶えなさそうだね」
そういって爽やかに笑い、私の落ち度を許してくださいました。
あぁ、王子さま。
なんと寛容なお方なのでしょう。
キャロンは、キャロンはもう虜にございます!
それから王子さまは、学園内で私に気づかれると、軽く手を振ってくださるようになりました。
もう毎日が夢見心地です。
神さま、意地悪だなんて言ってごめんなさい。
さて問題です。王子の身分で子爵を「卿」と呼称していいものなのでしょうか?
作者にはわかりません。




