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寿さんの雑記帳  作者: 寿
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コント『異世界から転生』その19

そして、もう一度全員会議。

前回同様、駅前のハンバーガーショップに集る。


「兄者、どういうことじゃ? また全員で集るとは?」


好漢にして巨漢。

柔道部員の槇原くんが口を開く。


「うん……」


そう言ったきり、僕は口ごもる。

なにしろ今日は僕と運命をともにしてくれる人間を決めて、発表しようと思っているからだ。

それを口ごもるのは、深雪、姫乃木さん、ジャイアント槇原くん、セバスチャン田中くん。

この中から一人を選ぶということであり、残る三人には「君と人生を共にすることはできない」と宣言することに他ならないからだ。


「みんな、今まで僕との前世の記憶につき合ってくれて、ありがとう」


ようやくそこまで口にする。

本来ならば、「それで?」と訊きたいところだろうけど、みんな固唾を飲んで黙り込んでいた。

緊張感がこちらまで伝わってくる。

やはりみんなにとって、僕の決断は「下して欲しくない決断」なのだろう。


だが、やはり意を決しているというか、僕以上に腹をくくっている男はいる。

「決めたんじゃな? 一人を」


槇原くんが代弁してくれた。


「……………………」


僕は黙ってうなずく。

こんな大切な場面で人の力を借りなければならない、僕の情けなさよ。


「その方は……深雪さんですね?」


また言い難いことを、姫乃木さんが言ってくれた。

深雪は複雑な顔だ。

本当なら喜びたいだろうに、あからさまにそうする事はできない。


なぜなら、槇原くんが黙って立ち上がった。

僕と深雪に背中を向ける。

田中くんも無言で立ち去る。

そして姫乃木さんが、「ここは私たちが払います」と言って口元を押さえた。


なにかを急ぐように、姫乃木さんも席を立った。

残されたのは、僕と深雪だけ。

みんなが去ってゆく後ろ姿を見送ったままの、深雪だけ……。


「悪いことしちゃったかな?」


「悪いのは僕さ。深雪は悪くない」


風でも雨でもいい、僕を叩いてくれ。

そんな心境だった。

なにかひとつを決意するのに、三人の人を傷つけて、それでいて自分だけは幸せを掴もうとしている。

そんな僕を風よ、雨よ、打ち据えてくれないか。


窓の外がにわかに暗くなった。

強い雨が窓ガラスを叩く。

僕たちのテーブルには、忘れられたコーヒーの紙コップが残されていて、ジュースの氷は溶けていた。


どうしてこんなことになるんだろう?

僕は僕の人生を最優先しただけなのに。

僕にもっとも似合いの人生を送れるように判断しただけなのに。

どうして三人もの人を傷つけてしまうのか?


そしてその三人も、単純に自分らしい人生を送ろうとしただけなのに、何故悲しみにひしがれなければならないのか?


「重たい物背負っちゃったかな、私……」


深雪がもらす。

重たい物というのは、三人分の悲しみと、それと引き換えに手に入れた幸せ。

そして責任。


「みんなを悲しませた分だけ、幸せにならなくちゃ」


「僕は深雪を悲しませたりしない」


一応、僕なりの宣言と決意表明。


「浮気なんかしない。ギャンブルもやらない。お酒もほどほどにする。どれだけ稼げるかはわからないけど、一生懸命働く」


すると深雪は僕の頬を両手で挟んだ。


「そんな無理は、しないで」


僕の目をのぞき込んで言う。


「時間をかけて、二人で幸せになろう?」


窓の外の雨は、さらに強く降り注いだ。


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