コント『異世界から転生』その18
セバスチャン田中との話し合いで、現実的な将来像の中にも危険がひそんでいることを僕は知った。
現実的ならばそれでいい、現実的ならその将来像に乗るべきだ、などという簡単な話ではないことを理解して、姫乃木さんに挑む。
小遣いの乏しい僕に合わせて、コンビニのイートインスペースだ。
社会人の姫乃木さんと会うならもっとまともなところで会うべきなのだろうけど、学生身分の自分が悲しい限りだ。
「いいんですよ、お兄さま。社会人といってもなにかとお金が出てゆくものですから。わたくしとしましてもこれくらいがありがたいんです」
そう言って、僕を立ててくれる。
なんともいじらしいというか、年上の女性だというのに、抱きしめたくなるような健気さだ。
「先日はすみませんでした。なんか色々グダグダになっちゃって」
「いいえ、わたくし以外にも前世の記憶を持つ人がいるとわかっただけでも、なんだか嬉しく思えました」
「?」
「いえ、前世の記憶だなんて、普通はドン引きな話題じゃないですか。本当のことを申し上げると、わたくしも日々のストレスで心を病んでしまったのではないかと不安だったんです」
「あぁ、なるほど」
自分も『痛い子』の仲間入りなのか? という不安はあるだろう。
実際、姫乃木さんにすがられたとき、僕もそのように対応していた。
僕自身がそうだったのだから、姫乃木さん本人の心の乱れはどれほどだったことか。
しかも、一人。
ジャイアント槇原くんや深雪は近くに僕がいる。
前世の記憶を持つ者同士で近くにいる。
セバスチャン田中も、連絡を取ろうと思えば、僕に繋がることはたやすい。
だけど姫乃木さんは一人。
一人ぼっちだったのだ。
その孤独感と不安感はどれほどだったことか。
「お気になさらず、お兄さま。社会人はこの程度のことは慣れっこですから」
うわ……すっごいなぁ、社会人。
姫乃木さんが語るには、田舎から一人で上京してきて、慣れない大学生活に初めてのアルバイト。
そちらの方がよほど大変だったそうだ。
「前世の記憶が戻ると同時に、お兄さまという希望も見つけ出しましたから。わたくしこれでも頑張れますよ?」
なんとも健気なことを言ってくれる。
本当に、彼女を守ってやれるだけの自分でないことが呪わしい限りだ。
「ですがお兄さま」
姫乃木さんはピシャリと言う。
「一時の感情や同情で生涯の伴侶を決めるようなことをしてはいけません。お兄さまにとってもっとも望ましい相手を、よくよく吟味熟慮して決定してくださいませ」
僕を見詰める、誰よりも厳しい眼差し。
ウソ偽り、ごまかしなんかを絶対に許さない眼差しだ。
例え自分の発言が自分の不利になろうとも、断じて僕の幸せを願う。
そんな決意に満ちた眼差しでもあった。




