コント『異世界から転生』その17
そして僕が起業家になることをすすめる田中くんとは、日曜日に会った。
「お館さま、やはり世の中は金。これは動きません」
間違いではないのだけれど、それがすべてではないということを田中くんは訴える。
「世界は金のために動き、これによりさまざまなものを手に入れることができます」
うん、さっそくきな臭い話になってきたね。
「例えば、法でさえも」
「ちょっと待った、セバスチャン田中。お金が必要なことは僕にも理解できる。だがしかし、いきなり怪しい話に持ち込むのはどうかと思うんだけど、僕は」
「もちろんこれは極端な例です。実際の起業家というものはそのほとんどが法を逸脱せぬよう、細心の注意を払って、なおかつ利益をあげているのですから」
そう、それそれ。
そういうことを先に言ってくれないと。
僕としても無駄に冷や汗をかかなくちゃいけなくなる。
「ですがお館さま、今から起業してチマチマと利益をあげることに血眼になって、どれだけ野望を成し遂げられましょう?」
野望という単語は引っかかったけれど、会社を立ち上げても利益に追われては意味が無い。
それは確かだ。
現実味のある話である。
「そこでお館さま、ともにK大学を出ましょう」
K大は僕の成績では夢物語な大学ではあるけれど、目標としては具体的だ。
「そしてK大卒の多いT自動車に潜り込むんです」
それには優秀な成績が必要だね。
「そして大幹部連中の不正の証拠を握り」
会社を立て直すんだね。
「会社を脅して大幹部にのし上がりましょう」
「アンタなに言ってんのーーっ!」
思わず声が大きくなる。
「なに、どれだけクリーンなイメージで売ってる企業でも、叩けばホコリは出るものです」
「ちょっと、ちょっと待とうかセバスチャン田中」
「おや、お気に召さないと? それでは会社の株を買い占めて、事実上のトップとして君臨しましょう」
株の買い占めって……それも非合法なことをするんじゃないだろうね?
「関連会社の重役の不正を掴んで、証拠をチラつかせれば、わりと株券を吐き出してくれますけど?」
「どうして君はそういう暗い話を持ち出すんだい?」
「お館さまが日々安穏と暮らしている間にも、世の中はこのようにして動いていますから。わたくしめと組むからには、もう安っぽい幸せなど捨てて、上流階級という世界になじんでいただかなくては困ります」
「そんな犯罪小説のような世界をみせられても、こちらが困ります」
「……よみがえれ、失われたピカレスク・ロマン」
「永久に封印してくれ、そんなロマン」
「ですがお館さま、このことだけは肝に銘じておいてくださいませ。庶民が安っぽい文句をたれている間にも、世界は動いているということを。三文週刊誌の上流階級叩きの記事で溜飲を下げている場合ではないということを」
よく、知る権利などという言葉を聞くけれど。
知らない方が幸せな秘密もありそうだ。
セバスチャン田中との話し合いは、僕に目を閉じさせて耳をふさがせるものだった。




