コント『異世界から転生』その13
さてどん尻に控ぇしは、深雪による将来の展望である。
「本当なら智の象徴たる魔法使いの弟子なんだから医大くらいは目指して欲しいところなんだけど……」
なんつー無茶言うかな、コイツは。
今から僕に医者を目指せと?
そんなことが成功したら、ウチの学校じゃ伝説になるぞ。
「なにしろウチの学校のレベルだし、師匠の私もお医者さま目指すのはしんどい成績だから、無茶はダメだよね、無茶は……」
さすがに前世の記憶に引きずられてはいても、現実を踏まえてくれているな。
っつーか本音は、自分で医大を目指すのが嫌なだけなんだろうと、僕は読んでいる。
「だけどもう少し成績は上げてもらいたいかな? せめてアタシにお勉強教えてくれるくらいには……」
いままでの話に比べれば、ずいぶんと現実的な望みではある。
少なくとも盗賊の親分や起業家に比べれば、かなりの現実路線と言える。
「ですが深雪さん、前世で教えていた弟子に今生で教わる立場に落ちるのは、いかがなものでしょうか?」
「いいじゃない、アカデミーの学生はお金払ってアタシの授業を受けてたのに、弟子はロハで魔法を教わっていたのよ?
あのときの授業料を払ってもらうようなものよ」
「ロハで魔法を習ってとか言うが、内弟子っちゅうモンはモノを習えんモンらしいぞい?」
「そうそう、師匠の身の回りのお世話。ズバリいうとおさんどん。炊事洗濯部屋掃除と、深雪さんはお弟子さんをコキ使ってませんでしたか?」
「ギクッ!」
コキ使ってたのかよ、深雪。
つーかそんな女とよくむすばれようとしたな、前世の僕。
「そこはホラ、麻実也も若かったしお年頃だったから……」
「ということは前世の深雪さんはお兄さまの青い性欲をたぶらかすようにして既成事実を作り、一生タダ働きの夫を獲得した、と……」
「案外腹黒いですね」
「女も賢くなるとキツネのように男をたぶらかすのぅ……」
現実的な話も、すっかり深雪が悪者になってしまった。
「しかし兄者はどの世界でも女好きじゃのぅ?」
いらんこと言うな、柔道部。
「そしてどうやら女難の憂き目に遭っているようで。そうなると女性的要素の乏しいビジネスの道へ入るのが一番ですよ?」
「いやいや、山賊になるのがスジじゃろう!」
「なにをおっしゃいますの、お二人とも? お兄さまはひとつ穴主義に徹すれば失敗も起こしません。ここはひとつわたくしめと添い遂げて……」
「待って待って、麻実也! やっぱり地道に成績を上げるのが一番だよ! ね、ね? 御褒美なら、勇気を出して準備するからさ!」
コラコラ深雪、はしたないぞ! ブラウスのボタンを外すな!
「あらお兄さま、そういった御褒美でしたら、愛の囁きが上手にできましたら、わたくしも準備差し上げますのに……」
ひ、姫乃木さんまで!
「兄者、男というモンは虎のように勇ましく、蝶のように自由なモンじゃ。ひとりの女に縛られるなんぞツマランぞい!」
「そうそう、札束にモノを言わせて、女性の人権団体がお怒りになるような、そんな暮らしを目指しましょう!」
「ちょっと待って男子! 貴方たちの目指してるのはアウトローの生き方じゃない!」
「そーだそーだ! お兄さまをアウトローなんかにはできませんことよ!」
「のぉ、兄者。家庭に入って女房の愚痴と文句を聞いて、ローンや養育費に追われるために働くことが、そんなに幸せなのかのぅ?」
「男はマル損ですなぁ……」
いや、そこに幸せを見出さないからアウトローなんじゃないのかい?
「おまけになんだかんだと理由をつけて、小遣い銭は減らされるし」
「ささやかな楽しみの晩酌も切り詰められて」
「亭主が汗水たらして働いちょる時分」
「女房どのは昼寝に昼ドラ、煎餅囓ってるんですよ?」
叱られるから! それは偏見だって叱られるから!
ってゆーか君たち二人は女性を怒らせたいの?
そんな考えだからアウトローって言われるんだよ?
「俺は声を大にして言いたい! 男女が平等であるというのなら、外で同じだけ、金を稼いで来い!」
そういう夫婦もいるからね?
というかそこまで女性に稼がれたら、槇原くん。
君は家事を手伝わなくちゃいけないんだよ?
場合によっては、奥さんが亭主になったりするんだからね?
奥さんに「飯がマズい!」とか言われちゃうんだよ?
「お黙りなさい、扶養されている分際で! あなたはまだ社会に守られている側、未成年なのですよ。口を慎みなさいませ!」
うん、これは槇原くんが悪い。
僕たちはまだ就労には早い成年未満なんだ。
社会と法律に守られた弱い存在なんだよ。
「なんの、持ち前の体格と体力でなんぼでも稼いでやるわい!」
「実は僕もすでに株の勉強を少々……」
あ、ダメなやつだ、コレ……。
自分の否をまったく認めようとしていない。
もうお察しとは思うけど、場は荒れに荒れた。
みんなで会うのは難しい状況になってしまったので、今度は一人ひとり会って、ジックリと僕の将来を話し合うことになった。
なんだか、関係の無い人たちを巻き込んだ、僕の進路指導みたいになってきた。




