コント『異世界から転生』その12
お先にどうぞ、とまたもや深雪が姫乃木さんに先を譲る。
「それでは失礼いたしまして」
コホンと小さく咳払い。
姫乃木さんが僕との将来について語り始める。
「わたくしの望みはやはり愛するお兄さまとの結婚。これを第一に考えております。そのためにはお兄さまには定職に就いていただかなくてはなりません。とはいえ、それほど高望みした職業でなくともかまいません。というかわたくしの希望としては公務員でしょうか。高級車や贅沢に縁はありませんけれども、小さな家庭で倹しい暮らしをモットーに仲良く暮らしていければと考えております」
「で、姫乃木さん。本音はどうですか?」
深雪が振る。
「やはり前世のように乙女を夢の世界へ誘うように、詩文に通じロマンスを臆面もなく語れるよう、知識と教養さらには心臓の太さを身につけていただければと」
「そういや兄者は前世で床上手だったそうじゃが、そっちは望まんのかい?」
「そちらの道はむしろ初心な方が……わたくし色に染める楽しみがございますでしょう?」
コラコラ、大人の眼差しで僕を捕らえない。舌なめずりしない。見えないなにかを甘噛みする仕草はよしなさい。
「なるほどお館さまとの甘い暮らしを夢見る。一見すると完璧な主張のようにみえますが」
なんだ? セバスチャン田中が急に名探偵のような口調になったぞ。
今日からシャーロック田中に改名か?
それとも工藤ちゃん田中か? 名字がかぶってるぞ?
「あなたの主張には重大な落とし穴があります! そう、それは姫乃木さん御自身がもっとも気にされている落とし穴です!」
「もしかして……年齢?」
深雪の言葉に姫乃木さんは著しく反応した。
「その通り。わたくしどもはまだ十代の青二才。ハイティーンにすらなっていません。ところが姫乃木さんは立派な大人。お勤めもされてます。この溝は、深いですよ?」
「そうじゃのう、俺たちが一人前になった頃、姫乃木さんが三十路のオバチャンじゃあチビと厳しいのぅ」
いや、槇原くん。君の言葉の方がよほど厳しいから。
「年上のお姉さんに翻弄されてウヒョウヒョ喜んでいられるのは、若いウチだけですからねぇ」
うむ、そういうのが嬉しいのは、人生の中でほんの短い季節。一度きりしかない青い季節の夢物語なんだろうなぁ。
青い経験に胸が高鳴ったけれど、姫乃木さんの主張はいったん保留である




