第25話ダメ押し
眼下の空母四隻は、乙姫に対して航空甲板をさらしていた。
乙姫の艦首魚雷は装填済み。
ここからは副長乙姫の方が仕事が上手い。
「艦首俯角三度、左舷八度。一番魚雷発射用意……テッ!」
続いて二番魚雷発射準備。
艦首をさらに左へ傾ける。
乙姫の号令に二番も発射。
これで最新の大型空母はしばらくの間使いモノにならなくなるだろう。
そして三番四番の魚雷は軽空母に向けて発射された。
その頃には敵の飛行機もすべて姿を消し、桜姫は輸送船団の進路をひん曲げるために魚雷発射位置へと移動をはじめていた。
「僕たちも桜姫に従おうか」
「麻実也艦長、大型空母にとどめを刺さなくてよろしいのですか?」
「僕たちの本命は輸送船団だからね。空母に気をとられてこいつを逃がす訳にはいかないよ」
今日取り逃がした輸送船は、明日どこかへ荷を届ける。
そうなるとアルファ軍はいつまでたってもジリ貧のままだ。
ここはどうしても、敵の輸送能力を落としておきたい。
物資を運びたくても船が無い。
そこまで追い詰めることができたら、万々歳というところだ。
そのための第一歩。
とれる輸送船はすべてとる。
小さなことからコツコツと。
大事業に近道は存在しないのだから。
桜姫はすでに魚雷を発射していた。
そして護衛の駆逐艦を蹴散らすために、半身浮上している。
「主砲の射程距離にはまだ入らないかな?」
「もう少しお待ちください、麻実也艦長。先に魚雷を発射しますので」
桜姫の魚雷が、輸送船団の先頭艦の脇腹をえぐった。
巨大な火球を吹き出すとともに、輸送船は積荷を吹き飛ばされる。
「魚雷発射位置に到着しました。五番、六番発射開始」
先に狙っていた空母たちは、大型のものが盛大に煙を吐いて傾き、軽空母に至っては船の形をなしていなかった。
それだけアルファ軍の魚雷は強力なのだ。
一発で大型艦の動きを止めてしまう。
そして乙姫の五番、六番は最新鋭戦艦に命中。
戦艦の電源を落とす威力だった。
桜姫はなおも輸送船団を狙った。
なんとしても進路を曲げてもらわなければ、こちらが困る。
その事情を察しているかのように、輸送船団は直進を続けていた。
しかし、桜姫の第二次攻撃が輸送船団を食らい、乙姫の魚雷が戦艦をもう一隻止めたところで、輸送船団は進路を変更した。
僕たち潜水艦隊に尻を向けたのだ。
逃亡の態勢である。
「乙姫、半身浮上。主砲を向かってくる駆逐艦に向けよ」
健気なものだ。
護衛の駆逐艦たちが見えない敵である僕たちに艦首を向けてきたのである。
主砲の撃ち合いでは話にならない。
こちらはわずかながら射程距離で有利にあり、なおかつ連射速度があるのだ。
そして電探にリーチがあり、敵のソナーは近眼だ。
「まだ射程距離に入ってませんからね、砲雷長」
「わかってるよ、電探長!」
「それなら乙姫、輸送船団が進路を変えたこと、水雷戦隊に伝えてあげて」
「わかりました、麻実也艦長」
麻雀でいうところのリーチはすでにかかっている。
あとは仕上がりを待つだけだ。
軽巡洋艦を先頭に、八隻の駆逐艦が向かってきた。
まずは軽巡に御挨拶。
艦尾四番五番の主砲をニ斉射でお出迎え。
その機能を停止させる。
艦橋前、一番二番と艦橋後ろの三番砲塔は、一隻ずつ駆逐艦を追いかけていた。
ここからも三連射。
急所を貫かれて、駆逐艦は爆発を起こした。
桜姫も主砲を撃っている。
他の五隻の駆逐艦に痛手を負わせていた。
「迎撃の駆逐艦は間もなく全滅しますが、乙姫の魚雷はまだ六本残っています。麻実也艦長……どうされますか?」
どうされますかもなにも、乙姫のキラキラした瞳が訴えかけている。
『撃っちゃいましょうよ、麻実也艦長。モタついてる輸送船団に、魚雷を全部撃ち込みましょうよ♪』
その表情を見ていると、可愛らしい顔をしていても、やっぱり乙姫って兵器なんだなと思ってしまう。
「それじゃあ後続の輸送船を削っておこうか」
乙姫は喜々として艦首の向きを変更した。
今回のエピソードをもちまして潜水艦話は完全にあちらへお引越し。次回からは別なエピソードをあれこれと練っていきます。




