第14話『対空戦闘訓練』
潜水艦の改装が終わった。
艦橋前の前甲板に、背中合わせで主砲は二基。
艦橋直後に後ろ向きの主砲が一基。
そして後甲板に背中合わせの主砲が二基。
合計五基五門の主砲が搭載された。
そしてカナザワ博士の約束通り、艦尾甲板にはブイに扮したレーダー兼通信装置が不格好に据えられている。
「オラオラ、ぼんやりしてんじゃねぇぞ、乙姫も桜姫も、とっとっと訓練海域まで飛びやがれ!」
ジョー司令官の容赦ない喝が入る。
僕たちは総員乗艦、すぐさま出港準備に入った。
出だしはもちろん海の上。
そこで桜姫を待って、一緒に亜空間へ移動。
宇宙の海に出る。
もちろんムシル泊地近海。
指定されている訓練場だ。
桜姫の到着を確認していると、即座にジョー司令官の無線が入る。
「これから水雷戦隊に護衛された補給艦隊が現れる。お前たち二隻はこいつらをことごとく殲滅しろ。期限は十二時間、一回でも沈没なんてヘマすんなよ!」
連続十二時間の訓練が言い渡された。
それだけ保つのか、僕の欲望?
しかしすでに桜姫は、ブイの電探を伸ばして潜行を始めていた。
「艦長、私たちも」
「うん、ブイ深度、潜水艦乙姫潜行始め!」
こんな号令でいいんだろうか?
そう思う暇すらなく、潜水艦乙姫はブイを伸ばして潜行を始めた。
のだけど。
訓練開始から一時間。
司令官の言っていた補給艦隊は一向に現れず、僕たちは無為の時を過ごしていた。
「来ないね、乙姫……」
「このパターンは司令官お得意の奇襲訓練です。いきなりレーダーに引っかかりますから、油断禁物ですよ、麻実也艦長」
乙姫の言う通り、いきなり電探要員から報告が上がった。
「艦長、敵航空機多数。ソナーを引きながら接近中です!」
「砲雷長!」
「大丈夫、全部ハッキリ見えてるよ……」
応えてくれる砲雷長の横顔に、余裕がない。
桜姫から通信が入る。
「親分も御大層なお出迎えだね、マミヤ兄ちゃん!」
えらく気楽な声だ。
「任しとけって、あんな蚊トンボ、オイラがみんな落としてやるよ♪」
「だそうです、艦長」
乙姫が僕を見ている。
「砲雷長、クッキリ飛行機が見えてるって言ったよね?」
「あぁ、桜姫になんか負けねぇよ。カナザワ博士が電探ふたつも載せてくれたからな」
「乙姫、総員対空戦闘用意」
「はい、麻実也艦長! 総員対空戦闘用意!」
艦内放送、そして警報。
乗組員たちはそれぞれ持ち場についた。
「乙姫、ライゾー艦長に確認。どれを狙うつもりか!」
「はい、確認をとります!」
乙姫はやはり潜水艦の一部なのだろう。
人間に使役されることを喜んでいるみたいだ。
「麻実也艦長、潜水艦乙姫は飛行隊中央から向かって右側を攻めるそうです!」
「ならば潜水艦乙姫は中央を外して左側を狙う! 砲雷長、たのむぞ!」
「了解、戦闘情報局。情報を送れ!」
「射程に入り次第、仮想敵航空機を迎撃する。よければ即座に撃て!」
実はここまでの僕のセリフ、規定の指示命令の丸写しでしかない。
それくらい僕は、乙姫におんぶ抱っこなのである。
輸送部隊を乙姫一隻で全滅させた名艦長などとは、とてもとても……。
桜姫はすでに船体を真横に向け、五つある主砲すべてを航空部隊にむけていた。
もちろん潜水艦乙姫も、それに習って船体を横向きにしている。
「敵航空機、時速250にて接近中!」
オペレーターの声は緊張感に満ちていた。
僕もライゾーも、欲望の量が多過ぎて主砲のエネルギーがすぐに溜まるそうだ。
それをそのまま撃ち出すと主砲軸に負担がかかり過ぎる。
ということで、カナザワ博士がプログラムを組んで、主砲に溜まったエネルギーを任意でにがしてくれるシステムを構築してくれたそうだ。
そのシステムのおかげで軽巡砲と重巡砲を使い分けることができるのだけど。
最初から航空機のお出ましでは、重巡砲の出番が無い。
航空機の数が多過ぎて、重巡砲を使い過ぎると結局軸に負担がかかってしまうのだ。
ということで、射程距離10宇宙キロしかない6インチで連射対応するしかなかった。
一発で一機しか落とせない大砲だけど、ふたつの電探ならより正確な位置と速度を計測できるので、かなり正確に射撃することができた。
何故かはわからないけど、航空機は三機一編隊を崩さずに飛んでくる。
こちらの主砲は五基五門。
割り切れない数字なので、嫌がらせの編隊かと思うほどである。
しかも……。
「敵が三機一編隊の理由を考えろ! そうすりゃ敵の動きを先読みできるぜ!」
などと、ジョー司令官は役に立たないアドバイスを送ってくる。
僕たちが二隻一艦隊を編成してるのは、追い立て役と仕留め役に分かれているからなんだけど、航空機の編隊飛行には、それは無さそうだ。
編隊が分かれることなく、生真面目なくらい編隊を崩さずに突っ込んでくる。
戦闘機も、爆撃機も、雷撃機もだ。
だから僕もライゾーも、慌てることなく正確に、動く標的を撃ち落とすだけだった。




