惑星間戦争に巻き込まれたけれど、僻地でノンキに輸送船狩りをしています
第13話『艦隊結成』
「おう、桜姫には会ったかい?」
司令官室に入ると、ジョー司令官が「ざまぁみろ」とばかり笑っていた。
「はい、すっごく驚きました! しかも私と同じように艦長スカウトに出かけていただなんて、乙姫ももうビックリでした!」
「そうそう、で、桜姫がなんでドックに入ってるか分かるかい?」
「そういえばサクラちゃん、ドックに入ってましたねぇ」
今度は乙姫の方が僕に「心当たりはありますか、艦長?」という視線を向けてくる。
もちろん僕にはそんなものは無い。
ジョー司令官は語る。
「桜姫はなぁ、お前さんと同じ兵装改造を施すのよ」
「というと、主砲のエネルギーを艦長の欲望に依存するという?」
「ライゾーにそれだけの欲望があるんですか、司令官?」
思わず僕も口を挟む。
そうでなけりゃ艦長として採用されねぇだろ。
ジョー司令官はさらに笑った。
「さらにサプライズを言うとな、イトウ少尉、ライゾー少尉とタッグ組んでもらいてぇのよ」
「え? 僕とライゾーで?」
「そうだ。ムシル泊地司令官直轄部隊、第二十一潜水艦隊の再結成ってヤツよ」
そして年長のお前が、ライゾー坊主を引っぱってやってくれ、ときた。
「年長なのはわかりますけど、僕も戦争や潜水艦はド素人なんですよ。無茶が過ぎます」
「だけどお前ぇさん、潜水艦一隻で輸送船団と水雷戦隊を葬った、名艦長って評価なんだぜ」
「それは乙姫たちが有能だっただけで、僕はなにも……」
「まあ、一度戦闘を経験してんだ。小僧に関しちゃまったくの未経験。その差と思ってくれ」
そんなやり取りをしていると、司令官室のドアがノックされた。
「潜水艦桜姫艦長ライゾー、副長、入ります!」
桜姫をともなって、夏服のライゾーが入ってきた。
褐色の肌に真っ白な略衣がとてもまぶしい。
しかも半ズボンのハイソックス少年。
僕でなくとも少年時代が遠く眩しく感じられるはずだ。
「おう、桜姫の改造は進んでるかい!」
「はい、現在上甲板を外して新しい穴開きの甲板にとりかえてます〜〜♪」
「桜姫も主砲を多数搭載するんですね」
「はい、お姉ちゃん♪ ですけど艦長さんの欲望が強いと〜〜、お姉ちゃんみたいに大砲が曲がっちゃうんですよね〜〜?」
「その辺りの工夫は、コイツに説明してもらおうじゃねぇか。ヘイ、カナザワ! かまん!」
司令官がパチンと指を鳴らすと、技官でありながら博士と呼ばれる男、カナザワ技官が現れた。
どこからともなく、「へい、お待ち!」と。
というか、これは絶対に仕込みがあったのだと僕は思う。
そうでなければこのタイミングで登場できないからだ。
「まず今回搭載する大砲は砲身後退式6インチ単装砲を五門。砲身後退式というのは発射エネルギーが砲口から飛び出すときに砲身を後退させることで、軸への衝撃を緩和する中央で開発された新式砲なんだ」
「それをなんと五門も搭載ですか⁉」
乙姫が目を丸くする。
そりゃそうだ、これまでは主砲とは名ばかりで、6インチ未満の大砲をひとつオシルシ程度に据えていただけなのだから。
そう、旧式軽巡だと四門しか搭載していないのにだ、とカナザワ博士は胸を張る。
なんだかそれだと、潜水艦なんだか軽巡なんだか分かったものではない。
まあこれは宇宙空間で亜空間へ潜行する乙姫型だからできることだ。
海上航行の潜水艦では、砲身に水が入ったり収納スペースが足りないなどで、実現不可能である。
それに潜水艦に求められるのは魚雷の一発であって、大砲の一発ではないのだ。
しかし軽巡クラスの大砲を連射することで、乙姫は難を逃れることができたのは事実。
軽巡砲あったればこそ、天敵である駆逐艦たちを排除できたのだ。
ちなみに軍艦というのは自分と同等の船の砲弾には耐えられるだけの装甲を有しているというが、それは戦艦や重巡洋艦の話らしい。
軽量快速を旨としている軽巡、駆逐艦は装甲なんぞ似たりよったり。
一発いただくと大損害という点ではどちらも同じなのだそうだ。
まあ、水雷戦隊の旗艦を務める軽巡洋艦が、少々打たれ強いというくらいのものらしい。
ということで、軽巡砲を五門も盛った乙姫、桜姫は自衛手段のある潜水艦ということになる。
「ですがカナザワ博士、僕の感想では、乙姫の優秀性は主砲もさることながら、電探……つまりレーダーにあったと思うんですが」
ちょっと口を挟ませていただく。
なにしろ自分たちが生き残るかどうかの話し合いだ。
本音をぶつけさせていただく。
「敵の護衛艦隊は僕たちの存在に気づいてませんでした。だけど乙姫は敵の存在を90宇宙キロも離れたところで感知してたんです。あの目がなければ、正直勝てたものかどうか……」
「イトウ少尉!」
ガッシリと肩を掴まれた。
真正面から僕の目を見詰めてくる。
グリグリ眼鏡で視線はわからないけど。
「電探の重要性をわかってくれるのは、キミだけだよ!
頭の悪い海軍連中はやれ攻撃精神だの敢闘精神だのと、命を無駄にする御題目を念仏みたいに唱えやがって、電探になんか目もくれなかったんだ」
なにか恨みがこもったセリフだ。
しかし嬉しいことも言ってくれる。
「まかせとけ、盛ってやる。電探もう一丁盛ってやる! だから絶対に生きて帰ってこい。キミのような聡明な人間が、戦後必要になってくるんだから」
聡明な人間と言われるのは嬉しいけど、これは現代日本人なら普通の知識と感覚だ。
僕たちはあの大戦から、さまざまなものを学んでいるのだ。
僕が特別というものではない。
「改造が済んだら艦隊行動訓練と射撃訓練だ。みっちり絞ってやるから覚悟しとけよ」
ジョー司令官が笑うが、ライゾーと桜姫はきょとんとしている。
「司令官、私たちが艦隊行動訓練ですか〜〜?」
「おう、言ってなかったか? 桜姫は乙姫とタッグ組んで活動するのよ。イトウ少尉の言うこと聞くんだぞ、小僧!」
「わかったよ、親分!」
ライゾーの文化圏には、司令官という言葉は無かったようだ。




