無題第11話『健康維持』
占領地である衛星スカ海域に到着。
ここからは僕たちアルファ軍の海域なので比較的安全だ。
ということでまとめた戦闘詳報と主砲の不具合、改造申請をまとめて送信。
僕たちは一路ムシル泊地へと進路をとる。
「麻実也艦長、ムシル泊地から返信です」
帰還命令と改造の許可がおりたようだ。
ちょうど本星から艦載砲の新作が到着したそうである。
本星が押し売りしてきたのではなく、泊地工作所でもともと乙姫の改造案があったそうである。
「……次回作戦のために、泊地で鋭気を養うべし、か。一体何日休めるんだろうね?」
「私の予想ですが、後部甲板の撤去に一日、新しい後部甲板の取り付けと主砲増設に一日。新しいプログラムの書き換えに一日でしょうか?」
「みんなちゃんと休めるのかな?」
「艦長こそしっかり休んでくださいね。潜水艦乙姫は艦長あっての船なんですから」
「じゃあ少し休ませてもらおうかな?」
「はい、運航業務は乗組員にまかせて、どうぞお休みください」
乙姫の笑顔に見送られて、僕は艦長寝室へ。
アンドロイドの乗組員たちも交代制で充電に入っている。
艦長寝室にひとり。
そしてアルファ海域だからスマホが通じる。
そう、つまりここからは僕ひとりの時間なのだ。
健康的な肉体と精神を所持しているみんなは、もうわかるね?
ここからは健康男子・アワーなのだよ。
胸を弾ませながらタラップを降りて、寝室に入る。
するとベッドの上に見慣れぬ写真雑誌が山積みされていた。
なにやらメモ書きも添えられている。
……なになに?
『ひさしぶりだろ? こいつで一本ヌイときな 砲雷長』
……なに言ってんだか。
と思いつつページをめくるのは男の本能。
しかし僕はそのグラビアでヌクことはなかった。
「……砲雷長……グラビアアイドルの顔、全部乙姫にコラージュしてやがる」
さすがに日頃顔を突き合わせている乙姫でヌクのは気まずい。
抵抗を感じる。
なんだか気分が盛り下がってしまったので、今夜はそのまま寝ることにした。
起床前、乙姫が夢に現れて夢精。
こんなことならスキッとヌイておけばよかった。
乙姫と顔を合わせるのが、なんだか気まずい。
しかし彼女はやってくる。
邪な僕の感情になど気づかずに、スキップ踏み踏みやってる。
「麻実也艦長、副長乙姫です!」
「入っていいよ」
衛星スカを通過した翌日、通常業務を終えた夕食前のこと。
寝室でひとりスマホを操作して、オカズ収集に励んでいた僕のもとに、乙姫が現れた。
「どうしたの、乙姫? その服装は……」
スニーカーに赤いレギンス、レッグウォーマー。
ワンピースのレオタードに大きめのTシャツ姿。
首にかけたモコモコタオルから察するに……。
「麻実也艦長、運動しましょう! 潜水艦は狭いので運動不足になりがちですから!」
えらい張り切りようだ。
「う、運動ったって、どうするんだい?」
そう、乙姫の言う通り狭い潜水艦の中だ。
駆け足も水泳もできない。
ましてマシーンを置いた筋トレ設備も無い。
「運動スペースは艦長寝室しかありませんが、ストレッチや筋トレくらいはできます! さあ、レッツ・エクササイズ♪」
なるほど、そういうことなら。
幸い寝室内は毎日乗組員たちがきれいに清掃してくれている。
床に手をついてもねそべっても問題は無い。
「それじゃあ麻実也艦長、脚を伸ばして床に座って、まずは体前屈です!」
床に座ると、乙姫は背中を押してくれるんだけど……。
「あたたっ、乙姫、僕は体が固いから、ゆっくり背中を押してくれないか?」
「申し訳ありません、麻実也艦長! こ、これくらいですか?」
今度はゆっくりジンワリ、筋肉がストレッチされるのがよくわかる。
「それでは次に開脚です!」
僕が脚を開くと、乙姫は正面に座る。
そして開いた僕の脚を内側から足の裏で押さえた。
つまりレギンスに包まれた乙姫の脚が目の前で開かれていて……目のやり場に困ってしまう。
「さあ麻実也艦長、このまま上半身を倒しましょう!」
小さな手が僕の手を握って引っぱってゆく。
当然乙姫の上半身も倒れ込んで、Tシャツの胸元から、レオタードに包まれているとはいえ、乙姫の胸元が!
ささやかだけど、ふ、ふくらんでいる!
だけど至福の時は一瞬。
すぐに僕は「あだだ!」とギブアップ。
まだ二十代前半なのに、情けないくらいに身体が固い。
気がつけば額にしっとり汗をかくくらいストレッチに励んでいた。
「もう少し柔軟性をつけなきゃな」
「なにごとも少しずつですよ、麻実也艦長」
ということで僕のストレッチに付き合うため、乙姫は明日も艦長寝室を訪れるそうだ。
純粋に僕の健康を気づかってくれているのに、乙姫のレオタードに邪な感情を抱くとは……。
明日も楽しみなんだけどね。
とりあえず僕は欲望を一部漏洩しながらも、ムシル泊地に帰ることができた。




