第10話『完封勝利』
今回の任務は残すところ輸送船五隻となった。
こちらの残弾……ぶっちゃけ僕の欲望……は十分。魚雷も六発残っている。
敵の護衛は皆無ということで、アドバンテージはこちらにある。
「とはいえ麻実也艦長、輸送船にも主砲の武装はありますので油断は禁物ですよ」
潜望鏡を覗きながら乙姫が言う。
確かに。
僕の被るヘルメットのバイザーに映し出される輸送船は、駆逐艦のような主砲を散発的に撃っている。
あんな豆鉄砲でも、装甲の脆い潜水艦が食らったら致命傷になってしまう。
ということで。
「輸送船団の直上に移動します。潜水艦乙姫、潜行開始」
亜空間を使って輸送船団の甲板方向、真上にポジションをとる。
輸送船の主砲からは、真上方向が死角になるそうだ。
それにこちらの主砲もまともに直撃させられるということでいいことずくめだそうで。
亜空間を移動している最中に副長、砲雷長、船務長の三人で位置どりと主砲の向きの打ち合わせを済ませていた。
浮上と同時に発砲。
敵が手も足も出せないウチに殲滅するつもりらしい。
潜水艦乙姫は敵の直上、進行方向が同じ同航戦の態勢で半身浮上。
位置関係を確認するや砲雷長は主砲の発射を命じる。
その一発は輸送船の積荷を吹っ飛ばした。
船体にも損傷があるのだろう、被弾した輸送船は大きくよろめいた。
二発、三発。
尽きることのない僕の欲望はエネルギーに変換されて、輸送船団に叩き込まれる。
飛び散る積荷。
爆発する船体。
そして僕たちは、ついに輸送船団を全滅させた。
「よっしゃ! これで帰れるぞ!」
一番喜んでいるのは砲雷長とその部下たち。
赤いセーラー服の乗組員たちだった。
潜望鏡にとりついていた乙姫も、ホッとした様子だった。
「おつかれさまでした、麻実也艦長。無事初陣を飾れましたね」
「僕なんかなにもしてないよ。全部君たち、潜水艦乙姫の手柄さ……」
「そんな、麻実也艦長あってこその私たちです……」
君たちがいてこそ、僕がいる。
その思いに変わりは無いけれど、乙姫からすれば僕いてこその潜水艦のようだ。
誰かから必要とされることがこんなに心地いいとは、会社で働いていた頃はちっとも感じられないものだった。
「あ〜〜、エヘンエヘン。副長も艦長もラブコメはそのくらいにしてさ……」
砲雷長が割り込んできた。
そのおかげで、僕と乙姫が見詰め合っていたことに気がつく。
「さっさと艦首をムシル泊地へ向けようぜ」
「そそそそうでしたね、船務長。潜水艦乙姫、潜行開始。丙種欺瞞航路を使い衛星スカ領域へ進路をとってください」
「はーい、副長がラブコメやってる最中に、もうとってま〜〜す」
船務長、君まで副長乙姫をイジるのか。
「せせせ船務長、スカ領域に入ったら戦闘詳報をムシル泊地へ送信するんですよ? まとまっているんですか?」
「当然ですよ、それより副長。戦闘後の艦内点検を命じなくていいんですか?」
「いいいいましようと思ってたんです!」
なんだか副長乙姫、メッタ打ちである。
イジられる優等生が慌てふためくような乙姫を面白おかしく眺めていると、発令所に呼び出しのブザーが鳴った。
「主砲塔です、砲雷長、よろしいですか?」
「どうした」
「主砲に不具合です。旋回軸がヒン曲がったというか、あちこちガタがきているようなので、確認をお願いします」
「わかった、すぐ行く。副長、もしかしたら主砲は載せ替えになるかもしれん。そうなったら泊地に申請を出してくれ」
「わかりました。詳しく見てください」
砲雷長は発令所を出ていった。
「どういうこと、乙姫?」
「まだはっきりとはしていませんが、麻実也艦長のエネルギーが強大すぎて、主砲が耐えられなかったのかもしれません」
「もしそうだとしたら、乙姫の主砲は使えなくなるねぇ」
「どうしましょうか……」
弱り切った乙姫の表情。
僕がなんとかしてあげたいけど……。
「艦長、考えがあります」
助け船を出してくれたのは、青いセーラー服の乗組員。
機関科の技術班長である。
「主砲一門で負担が大きいならば、艦橋後方の上甲板に主砲を追加してはいかがでしょうか?
さいわいなことに、乙姫の後甲板には、まだ三門は搭載スペースがあります」
「ですけど、それでは麻実也艦長の負担が……」
「副長、乙姫の残存エネルギー量が算出できました」
バインダーに閉じられた書類が回ってくる。
それを見た乙姫は、目を丸くした。
「ななな、残存95%⁉ 麻実也艦長、全然欲望が満たされてないじゃないですか!」
「え? 地球の日本人は欲求が満たされることなんてほぼほぼ無いけど?」
それに欲求が満たされたところで、乙姫ズに囲まれていたら、新たな欲望が生まれ出ることだろう。
それも無限に……。




