お客さん、いかがですか? その4
しばらく外を眺めていたら、突然カーンカーンカーンという警報。
「総員対艦戦闘用意!」
さらにカーンカーンカーン、「総員対艦戦闘用意! 艦内非常閉鎖」バタバタと乗組員たちがハッチを閉めてバルブを閉めて。すると発令所に各部署から非常閉鎖ヨシの報告が入ってくる。
なにごとかとシールドを上げて乙姫に目をやる。
彼女は微笑みながらこうのたまった。
「艦長、帝国軍の駆逐艦がこんなところまで出張って来やがりました。……討ち取ります」
え? 僕の乏しい知識では、駆逐艦って潜水艦の天敵じゃあ?
「その通りです。艦長。ですがそれは潜水艦乙姫が誕生する以前の常識。今この合戦から、常識は覆るのです」
大丈夫かいな、本当に。
「そもそも艦長、何故宇宙の星の海を鑑賞できたか不思議ではありませんでしたか? 本艦は異次元航行しているのに」
言われてみればそうだ。
「この潜水艦はレーダー、通信装備、遠距離カメラなどを通常空間に残してケーブルで引っ張っているのです。ですから外部との通信も可能。レーダーも稼働している状態なのです」
「つまり、自分たちは身を隠して敵の姿は丸見えと?」
「まったくその通りです。いかがですか? 次元潜水艦乙姫が、いかに優れた兵器か。納得いただけましたでしょうか?」
「そうすると天敵の駆逐艦も?」
「なにをされたかわからないうちに、木っ端微塵です」
乙姫、軽くウインク。美少女がイタズラっ子みたいな表情をするのは、正直ズルいと思う。
恥ずかしながら僕の胸も、ちょっと高鳴っていたりする。
「素晴らしいです、副長! 今のウインクで潜水艦乙姫の攻撃力が25%上昇しました!」
なんじゃいそりゃ? ってこの潜水艦は僕の欲望で動いてるんだっけ? たかがウインクひとつで、安いな潜水艦乙姫! ……いや、僕がチョロいのか?
敵駆逐艦との距離、敵の速度、相対速度が報告される。
「潜水艦乙姫、半身浮上。敵駆逐艦に対し狙いをつけよ。一番、二番、三番右三○度、仰角ニ○度」
艦長の僕を差し置いて、乙姫が指示を出してゆく。もちろん僕に何ができるというのでもないけど。
「申し訳ありません、艦長。こちらのプラグを差し込みますね」
乙姫、僕のヘルメットになにか差し込む。
途端に砲雷長が興奮したように叫ぶ。
「すげぇぜ艦長! 欲望パワーがどんどん流れ込んでくる!」
「それでは撃ち方用意。……よければ、撃て!」
乙姫の号令で前甲板と艦橋横の主砲三門が次々火を吹く。ちなみにヘルメット越しに見る船の状態から察するに、乙姫が命じた半身浮上というのは、主砲や甲板が露出するくらいの浮上のようだ。
これだとなるほど、レーダーには引っかかり難いだろう。
「着弾まで五秒……3……2……1……命中。状況終結、艦内閉鎖用具納め」
確かに、シールド越しの光景でも、まばゆい爆発が確認できた。
ということは……。
「ねえ、乙姫」
「なんでしょうか?」
「僕たちは人を殺したんだろうか?」
「そうでもありません、着弾寸前に駆逐艦から脱出カプセルを確認しましたので」
「そうか」
少し安堵する。だけどその生き残りが、敵の本陣に乙姫のことを報告するのでは?
「その可能性は多分にあります」
もしかしたらこの瞬間から、乙姫は秘密兵器ではなくなったかもしれない。そして情報が漏れたなら、対乙姫兵器の開発に、帝国軍は躍起になるだろうとも言う。
「乙姫、本当にこの戦争は勝てるのかな?」
「情報が漏れない限り、乙姫は無敵です」
「じゃあ情報が漏れたら?」
「……………………」
どうやら僕は、覚悟を決めなきゃいけないようだ。
社畜人生に別れを告げて、最強潜水艦に乗ってヒャッハー! なんて言ってられないだろう。
乗組員たちが僕を見ている。
「まあ、あれこれ考えても仕方ないさ! ガンガン行くしかないよね!」
「対策を練られる前に、敵を全滅させればいいんですよ、艦長♪」
「その敵って、どれくらいいるの?」
「惑星アルファ軍の、ざっと十倍」
「あんたナニ言ってんの!」
僕の叫びは異次元空間にこだました。
シュチュエーションが若干作者好みに傾いていることをお詫びいたします




