パーティー追放モノ その7
パーティー追放モノ
五頭で群れを作るゴブリンを発見したとき、シロウは投げ矢を解禁した。とはいえ、手順はさほど変わらない。まずはカエデの光球で目眩まし。ただ、シロウにほめられて自信を取り戻したか、ゴブリンたちにダメージを与えていたようだが。
そこから解禁した投げ矢とシロウのボウガン。これで三頭を仕留める。それから突入、カエデも投げ矢で一頭仕留めた。最後はモミジが風魔法でゴブリンの足元をすくい、転んだところをアスカの剣が首を飛ばした。
これできっちり五頭を頂いた。
1ラウンド目と合わせて、合計八頭。どうせならあと二頭は行きたいところだが、子供たちの様子はどうか? 肉を捌きながら三人を見る。
アスカは元気だ。しかし魔法を連続で使用したモミジとカエデは明らかに疲労している。そして疲労というのは、魔法の連続使用だけではない。ラウンドを重ねるごとに蓄積する、緊張感による疲労。おそらく彼女らは、まだ大丈夫と言うだろう。
しかし、それが危険なのだ。
疲労は鈍足を生む。一番最初に来るのは足である。突撃すべきときに突撃できず、回避すべきときに回避できない。そして負傷でもしようものなら、不利な状況は加速するばかりだ。ファーストコンタクト。これに成功するか否かで勝負は決まるのだ。
しかし疲労は、ファーストコンタクトの成功を阻むものなのだ。動き、という点を見ただけでもこの始末。ここに攻撃力の低下を加えれば、もう答えが決まっている。
「今日のところは、ここでひと区切りとしよう」
シロウが言った。
「あによそれ! あと二頭狩れば二桁の大台じゃない!」
「そそそそうですよ! 私のカエデさんも、まだまだやれます!」
疲労者の常套文句である。
「ダメだ、二人ともくたびれてる。ここで欲をかくのは得策じゃない」
そう言って、少し反省した。こうした物言いが若者たちの反感を買ったのだろう。その結果、パーティーを追い出されたのだ。しかし時すでに遅し、二羽の子雀はピーチクパーチクとわめき出した。
「あによ!アタシはまだやれるわよ!」
「そそそそうですよ! 私だってまだまだ戦えます!」
「うんうんそうだね。確かに君たちはファイト満々だ。しかし闘志は充分でも足跡を見ればわかるよ」
そう言うと二人は、トラッカーに足跡を見られたと知り、目を丸くして驚いていた。
シロウは畳み掛ける。
「ほら、見てごらん。かかとを引きずった跡があるだろう? これは1ラウンド目には無かったものだ」
「そ、そりゃあ最初と比べれば足くらい引きずるわよ!」
「ですがそこは、有り余る精神力でカバーします!」
「えらいモミジ! よく言った!」
カエデは手放しで喜んだが、アスカが首をひねる。
「ねえカエデ、本当に戦える? 今のカエデならボク、片手でもやっつけられそうだよ?」
素直なアスカの素直な言葉に、カエデは返答を言い淀む。
「モミジもそうだよ? 精神力でなんとかするなら、今からボクと一戦してみる?」
「いいいえそそそんな、私はアスカさんと相性が悪いともうしますかなんというか……」
そうだよね、とシロウは言った。
ベストコンディション、そこを強調する。そして事故というものがどのようにして起きるか、教習所で習ったよね?
と問いかける。先程までやかましかった子雀どもは、シロウの言葉に素直にうなずいた。
「な〜に、君たちならすぐにでも二桁ゴブリンを狩れるようになるさ。若い冒険者ってのは成長が早いものだからね」
「そそそそうでしょうか?」
「そうだとも、現に君たちは数日前までゴブリン一頭狩ることもできなかったのに、今は複数頭のゴブリンを狩っている」
「それは言いたくないけど、アンタのリードがいいだけじゃない!」
「お褒めの言葉、光栄の至り」
シロウは戯けたようにうやうやしく頭を下げた。
「しかし現実的には君たちなら魔法がゴブリンを痛めつけ、君たちの攻撃でゴブリンを仕留めているんだ。俺にはリードをしてるだけ。やはり君たち。成長には目を見張るものがある」
そう言って、シロウは藪越しに森の中を見た。アスカはすでに、刀の柄に手をかけている。モミジとカエデが目を向けたそのときだ、二頭のゴブリンが飛び出してきたのは。
アスカは抜き打ちでゴブリンの手首をはねた。シロウはゴブリンの口に解体用のナイフを突き込む。カエデとモミジが投げ矢を放って、ようやくゴブリンは息絶えた。
一瞬の出来事であった。これまでは襲う側であった自分たちが、一転襲われる側になったのである。あわやという偶発的な事故に遭遇して、モミジとカエデは震え始める。アスカも肩に力が入っていた。
「おめでとう、みんな。これで二桁ゴブリンに到達だよ」
そう言ってシロウは笑う。この程度の事故など慣れっこである。というか、こうした事態を想定しての撤退指示だったのだ。もしもあと1ラウンドを欲張って、その後でこうした事故に遭遇したならば……。それを想像すると、シロウでさえ震えがくる。
とりあえず二頭のゴブリンを大八車に載せて、安全な場所へ運んでから、解体に取り掛かった。もちろん精肉は袋詰にして、冷凍魔法の御札を貼り付けておく。
さあ、凱旋だ。
解体の後は小休止をはさんで、元気を取り戻してから帰路につく。チーム・スクラップとしては凱歌を上げたくなるような大戦果であった。ギルドの受け取り場で、ゴブリン肉を卸す。良い値がつくことは確定だ。シロウたちは期待に胸を膨らませながら受付の待ち合いに入った。
すると受付嬢がハンドベルを鳴らしていた。
「チーム・スクラップ、わずか一日でゴブリン肉十頭分を卸しました! オッズはなんと単勝ズバリでなんと百二十倍!
投票券をお持ちの方は受付までお越しください!」
待ち合いにたむろしていた連中の中に、投票券をビリビリに引き裂いて紙吹雪にしている連中がいた。どうやらチーム・スクラップも賭けの対象になっていたようだ。果たしてどのような勝ち条件がついていたものやら?
賭けに参加していないシロウとしては興味すら湧かなかった。
投票券の紙吹雪が舞う中、一人の男が受付で手続きをしていた。見覚えがある。上位パーティーのマックという槍師だ。以前合同で上位モンスターを狩りに出たとき、シロウがトラッカーを務めたことがある。そのマックが多額の現金を受け取り振り向いたとき、シロウと目が合った。
「よう、シロウ! アンタに賭けて稼がせてもらったぜ!」
「久しぶりだな、マック。その後調子はどうだい?」
明らかに古強者というマックと親しげに談笑するシロウを見て、三人の小娘たちはキョトンとしている。
「お嬢ちゃんたちだな、チーム・スクラップのメンバーは? ずいぶんとイイ拾い物をしたな!」
傷だらけの顔をにモヒカン頭、ギョロリとした目をアスカたちに向けた。
「このシロウって男は君たちが拾わなかったら、上位パーティーが狙っていた腕利きのトラッカーなんだぞ? 俺だって欲しくて欲しくてたまらなかったんだ」
「そんなに褒めるなよ、マック。というかお前の面構えにみんな怯えてるから」
シロウが言うと槍師のマックは豪快に笑った。
「事実だから仕方無ぇ、俺にはお前さんがチーム・スクラップに移籍したって聞いたから賭ける気になったんだからな! おかげで大儲けできたぜ!
おう、飯でも食おうぜ! 奢るからよ!」
そう言ってギルド内のバー兼レストランに入っていく。シロウもメンバーたちをうながして、レストランへ入った。すると背後からアスカの声がポショポショと聞こえてくる。
「ねぇ、カエデ? 奢りってことはお腹一杯食べてもいいってこと?」
「あに言ってんのよ! 他人さまの奢りだから遠慮するんじゃない!」
「そ、そっかぁ……」
どことはなしにションボリとしたアスカの声。それがマックの耳にも届いたのだろう。豪傑を思わせる笑い声とともにマックが振り向く。
「なに言ってんだお嬢ちゃん! 奢りってときにこそ腹一杯食っておくもんだぞ!」
「いいんですか!?」
アスカの瞳が輝く。いや、少しくらいは遠慮しなさいよ! と叫ぶカエデ。
「アスカさんはとてもよく食べるんですよ♪」
モミジは楽しそうに微笑んでいる。
マックは「そりゃ頼もしいな!」などと笑っていた。
席に着くと店員がメニューを持ってきた。それを開いたアスカは指をさす。
「まず肉料理は上でから下まで全部」
エヘンエヘンと、カエデが咳払い。
「あ、すみません……ここからここまで……」
半分くらいに量を減らしたようだ。
「で、魚料理はここからここまで」
かなり厳選したようで、注文は少しまよっていた。
「で、野菜の煮物はこれとこれとこれと……これもいいかな?」
「そこで止めるならね」
カエデの返事はニベも無い。
それからサラダはジャガイモを蒸したものだけをえらんだのだが、それをバケツで頼んでいる。
それがアスカの食事量手加減バージョンであった。
「でもアスカ、昨夜はこんなには食べてなかったじゃないか?」
シロウが聞くと、「だから今日は一日、お腹ペコペコだったんです」と照れくさそうに頭を掻いていた。




