パーティー追放モノ その8
パーティー追放モノ
アスカのアスカによるアスカのためのワンマン・ショー。
あの小さな身体の一体どこに入ってゆくのか? という大食をアスカは見せつけてくれた。見ていてほれぼれすると言っていいのだろうか?
できればメニューの端から端まで平らげたそうであったのだから、アスカとしてはこれでも満腹の半分の量でしかない。
しかし槍師マックも男である。一度「奢る」と言った以上、アスカが満腹するまで御馳走してくれるつもりらしい。店員を呼んで「おい、追加注文だ」とアスカが頼み損ねた分をオーダーしてくれた。
シロウとしても申し訳ない限り、今度儲けたらマックに何か奢ってやろう、と心に決める。
テーブルに並んだ料理が見る見るうちに消えてゆく。カエデやモミジはそれぞれの皿から一口分をよそって、「美味しいですねぇ」などと言っていたらアスカが皿を空にするのだ。
「ちょっと、シロウ」
カエデがこまっしゃくれた態度で呼び捨てにしてくる。
「見てるだけだと食べ損ねるわよ? 一口ずつでもいいからお腹に入れないと」
確かにその通りだ。見ているとカエデやモミジが一口分をよそってから、アスカが皿を奪っている。本当ならばどれもこれも一口たりと残すことなく食べたいアスカだろうが、そこは周囲に配慮しているのがわかる。
そして食べながらアスカは汗をかき始めた。胃袋に詰め込んだ食糧が、消化吸収されてエネルギーに変換されているのだ。食即燃である。壮絶なまでの肉体とでも言おうか、ある意味天才とか特殊な才能の持ち主と考えられる。
その様子も眺めていたマックも、思わずもらす。
「おいおいシロウ、このお嬢ちゃんを満腹にしたら、ミノタウルスにレスリングで勝てそうだな……」
マックもアスカの汗の原因を理解しているようだ。「飲めば飲むほど強くなる」という奇っ怪な武術が東の果ての大国に存在すると聞いたことがある。しかしアスカの場合は、食べれば食べるほど強くなりそうだ。
しかしあまりにもウチのテーブルが料理を独占しているので、よそのテーブルから苦情が出た。
「おい、料理はまだか! こちとら腹ペコなんだぞ!」
「へい、すんませんお客さん! なにしろこちらのお客さんがよく召し上がるもんで!」
当然のように不満はシロウたちのテーブルに向けられる。
苦情を訴えた客はアスカを睨みつけると、のっそり立ち上がって近づいてきた。
料理が並んだテーブルに手をかけて、難癖をつけてくる。
「大した食いっぷりだな、お嬢ちゃん。だけど飯の独り占めは良くねぇぜ」
「ごめんねオジさん、でもボクもまだ空きっ腹なんだ」
そう言ってアスカはカルボナーラを飲み込んだ。その襟首を巨漢の冒険者である客が掴んだ。
「それだけ食ってまだ足りねぇのかよ! なんなら全部吐き出させてやろうか!」
「ごめんねオジさん、ボクまだ御飯の最中なんだ」
なんという気も無し、アスカが襟首を掴む巨漢の手首をつかんだ。本当にヒョイという感じで、まるで洗濯物のハンガーを外すみたいにである。そしてその手首がもの凄い力で握られているというのは、麻痺でもしているかのような巨漢の震える指先で見て取れた。
店内の不穏な空気を感じ取って、他の客がざわめき始める。
そして巨漢を腕力で圧倒しているのが、小さな女の子だと知ってまたざわめく。
「おい、怪力ボビーが力負けしてるぞ」
「誰だよ、あの小娘?」
「いや、わからねぇな……」
注目が集まっているのに無様な姿をさらしている。巨漢のボビーは顔を真っ赤にしていた。どうやらこれは助け舟が必要なようだ。シロウから声をかける。
「こちらのテーブルで料理を独占していることは、俺も謝る。済まない……だがここはくつろぐ場所だ。矛を納めちゃもらえないかな?」
巨漢ボビーは怒りを抑えたようだ。アスカの手も緩む。
痺れた手を揉みながら、ボビーは「チッ、仕方ねぇな」とだけ言い捨てて席にもどる。
片手を食事以外に使っていたアスカは、食べる速度が落ちていたのだが、また猛然と食事に取り組んだ。そしてレストランのメニューを端から端まで平らげると、ようやくアスカは食べるのをやめた。
「ひゃ〜〜♪ 久しぶりにお腹いっぱい食べたよ! マックさん、ごちそうさま♪」
シロウは断言できる。
アスカを満腹にすれば、素手でミノタウルスと取っ組み合いができる、と。
支払いはマックの予定であったが、シロウも半分出そうとした。しかしそれをマックは断る。これから先もチーム・スクラップに賭けて儲けさせてもらう、と言うのだ。
それならばシロウにはやるべきことがある。アスカの秘められた力は解明されたが、もう一人の才能を見抜かなければならない。
モミジだ。
秘められた資質は一級品ではないかと、シロウは見ていた。しかしその資質が何かの理由で制限されている。それを解除できれば、モミジはひと皮もふた皮も剥けるに違いない。シロウはポケットマネーから出すと言って、モミジたちとともに魔法商におもむいた。
薄暗い、ランプの灯火だけであかりをとる魔法商。
いつもここで簡易魔法術札の冷凍を購入するのだが、日が落ちてからの来店はいつも以上に雰囲気がある。神秘と幻想、この世の理とはまたちがう理が働く世界。そんなことを言葉ではなく雰囲気だけで納得させるのが魔法商という空間だ。
「ウチの魔法使いなのだが」
シロウはカウンターに肘をつき、店主に話しかける。
「ポテンシャルは最高だと思うのだけど何か制限がかかっているみたいなんだ。鑑定できるかな?」
「どれ、観てみますかな?」
店主は引き出しからメガネを取り出すと、大きな鼻にかける。
「お嬢さん、宗派は何かな?」
「は、はい! へニョコル神へペ派です!」
カウンターの椅子に座らされたモミジは答える。
「他のお嬢さんとは仲間とか友達という感覚はありますかな?」
「ももももちろんです!」
「ではそのお友だちに内緒にしていることは?」
「…………あ、あります……」
消え入りそうな声であった。
「そうでしょうな、そこに後ろ暗いという感覚があるのでしょう」
店主はメガネを畳んでケースにしまう。
「だから魔法を全力で発揮できないのです」
「どういうことだ?」
シロウが訊くと店主は分厚い魔導書を棚から引きずり出す。そしてページを開いて男性のイチモツを象った生き物の挿絵を指差す。
「これが彼女の崇め奉るへニョコル神。人間の性欲を肯定する神さま、あるいは魔神ですな。この神の好物は人間の性欲色欲で、強い性欲であればあるほど、それと引き換えに強い魔力を与える神ですじゃ。その中でもへペ派というのは教会が背徳的とする色欲を妄想することで魔法を強く使う宗派となっております」
「ということは、モミジはスケベ?」
「けしからんですな、そのような物言いは。性欲色欲は子孫繁栄の基本ですし、より良い異性を求めて人は努力するのです。すなわち人の欲望を善用できるか否か。それが肝心なのです」
「しかし教会が背徳的とすればするほどというのは……」
「そのような狭い見識ではへニョコル神の教えは学べませぬ。男が女を求め女が男を求めるのが当然であるならば、人類の可能性は半分でしかありませぬ。すべてを解き放つことにより人類の可能性は大きく広がるのですぞ?」
「それは具体的にどういうことですか?」
同性愛の肯定ですなと、店主は言った。
なるほど、それは背徳的だとシロウも納得する。
「ですが世の中の良俗というものがありますので、それがブレーキとなってお嬢さんは魔法を発揮できないでおりまする」
「すごく簡単に言うと?」
「お嬢さんに存分にエロ本でも買い与えなされ。とんでもない魔法を使うようになりますぞ」
そんなことでいいのかよ? シロウが問うと店主は憤慨した。
「なにを仰る! この娘さんは自分らしくあることもできずに苦しんでおるのだぞ!
自分らしくあれない、そしてポテンシャルを秘めていながらそれを発揮できない苦しみ! お前さんの見識はどれほどのものか、へニョコル神の前で訴えてみよ!」
怒られた。滅茶苦茶怒られた。しかしそれはもっともだ。モミジは自分らしくあれない苦しみと、役立たず魔法使いという両面で、心底苦しんでいるのだ。
「なぁ、モミジ……」
次の言葉など用意もせず、モミジに語りかけてみる。
こころなしか、モミジはかすかにビクッとみを震わせる。
「いや、怯えることなんか無いよ。アスカやカエデを見てごらん? いつもと同じだろ? 君の秘密を知ったところで、誰も態度を変えたりなんかしないさ」
「ではでは、私がアスカさんやカエデさんに恋をしていても、受け入れてくださるんでしょうか?」
真摯な問いかけを受け止めきれず、期待の一番手アスカを見る。
「え? モミジって、ボクのこと好きなの? ……照れちゃうなぁ♡」
アスカは好感触だ。
しかしカエデは違う。
「ダメよ、モミジ! ダメダメ! アタシはどちらか一人なんて耐えられないわ! どうせならアタシもアスカも好きになってよ!」
「なんだモミジ、君はモテモテじゃないか」
シロウも思わず苦笑する。
そうだ、何も心配することは無かったのだ。
なにしろこの三人は、冒険者廃業の危機にありながら、それでも三人一緒だったのだから。
昨日今日連名したシロウなんぞより、よほど固い絆で結ばれているのだ。
ハッキリとは聞いていないが、もしかしたら三人同じ孤児院で育ったのかもしれない。
「いやぁ、困りましたねぇ……」
ポリポリと髪を掻くモミジは、それでも満更でもなさそうだ。
「本当にどちらか一人を選べないくらいに、お二人のことが大好きなんです。そりゃあもう、性欲処理の対象にするくらい……いけませんか?」
「勝手に使われたのはちょっとショックだけど、モミジが困ってるならそれくらいかまわないわ!」
「せーよくしょりって意味がわからないけど、ボクは全然かまわないよ?」
「二人の許可がおりたぞ、どうするモミジ?」
「はい! それでも健全に、美しい殿方同士で愛し合う小説で発散させていただきます!」
それって健全なのかよ? オイ。
シロウの疑問は解答無し。モミジはいそいそと本屋に出向き、いかがわしい小説本を買い込んできた。
食べれば食べるほど力を発揮するアスカ。
すけべ心が魔法の原動力となるモミジ。
この二人のリミッターは解除した。
となると残るはただ一人である。
「アタシ? アタシはこんな格好してるけど、本当は異教徒だからよ。教会なんかに祀っている神さまとは違う信仰なの」
あっさりとした返答であった。道理で十字架のペンダントなどをぶら下げてないと思った。
「その神さまっていうのは『癒やし? なにそれ? 傷口なんて塩つけて舐めておきなさい』って神さまだから。ヒーラーとしてはイマイチなのよ」
むしろ神属性の攻撃の方が向いてるかもね。
そう言ってカエデは笑う。
もしかしたら教会や神殿で購入する道具などより、魔法商で手に入れる呪術道具の方がカエデの能力を引き出してくれるのかもしれない。
三人娘の強化方法が見つかりそうなところで、このエピソードはここでお終い。作者寿、友人出雲鏡花に出されたお題も取り組まねばなりません。悪しからず。




