パーティー追放モノ その6
パーティー追放モノ
今回の狩場は南の森。キャベツ畑やジャガイモ畑が近接した、モンスターと野生動物の稼ぎが活発な森である。事実、畑の中にも外にも無数の足跡が残っていた。熟練したトラッカーであるシロウの目には、人間とゴブリンが争ったものだと見抜いている。
そう、闇夜にまぎれて農作物を荒らそうとするゴブリンを、人間が追い回していたと知れる。
事実、畑のそこかしこに農家の次男三男と思われる番兵が、長い棒を構えて立っている。交替で番をしているのだろう。あくびを堪えている者もいた。その中の一人に声をかける。
「俺たちは冒険者なんだけど、ここいらではゴブリンの動きは活発なのかな?」
番兵はあくびを噛み殺しながら答える。
「あぁ、昼間でも番をしてないとならないくらいさ。いまでもあの雑魚モンスターども、森の中からこちらの隙をうかがってるよ」
少し動きが活発すぎるな、とシロウは思った。確かに、稼いでいないゴブリンよりも稼いでいるゴブリンの方が有望だ。しかしこうなると罠は使えない。モゾモゾと罠など仕込んでいようものなら、ゴブリンたちに発見され、襲われてしまうからだ。今回の狩りではメンバーの能力を拝見させていただく方針である。しかし未知数のメンバーにゴブリンの群れが襲いかかってきては、生還が危うくなる。
ではどうするか?
シロウの答えは簡単だ。襲われる側ではなく、襲う側になればいい。それも迅速に決着をつける、電撃作戦だ。それを成功させるには、索敵である。先に敵を発見すること。それこそがトラッカーの身上である。
「というプランを立てたんだけど、どうかな?」
メンバーに相談してみる。
「そうなると、突撃手はボクですね」
アスカの返答は、乗り気を意味していた。
「もしも目眩ましが必要なら言ってよね、アスカ」
カエデもやる気である。
しかし魔法使いのモミジは?
「わわわ罠も無し、投げ矢も制限つきで、かかか勝てるんでしょうか?」
「勝てないと思う?」
小柄なアスカが、モミジの瞳をまっすぐに除きこむ。モミジ前髪越しにだ。
「ででで出来るのでしょうか、私なんかに……」
「ボクは信じてるよ、ボクのピンチにはモミジがきっと駆けつけて得意の魔法で助けてくれるって!」
「ががが頑張ってみましょうか……」
これで決まりである。シロウを含んだチーム・スクラップは、南の森でゴブリン討伐に入る。
とはいえ、いきなりズボッと森の中に入ったりはしない。当然だ、ゴブリンたちはこちらの様子をうかがっているのである。そんなことをしては逃げられるか襲われるかのどちらかで、勝負にはならない。
まずは藪の具合を見て、ゴブリンたちが通り道としていなさそうな、つまりゴブリンたちがいなさそうな場所からアプローチする。できるだけ音を立てずに、ゆっくりとだ。藪は人の世界とモンスターの世界を区切る境界線である。ここを越えると森の中、つまりモンスターたちのエリアだ。
森の中に踏み込んだシロウは、頭を動かすことなく目だけで様子をうかがった。細かくは調べていないが獣道などは無さそうで、ゴブリンも不在と考えられる。大八車は森の外に置いてきた。シロウたちチーム・スクラップは身軽である。
「音を立てないように」
小さな声で指示して、静かに歩き出す。森の奥へ踏み込むのではない。境界線である藪に沿うような形で歩き始めたのだ。農夫というか用心棒代わりの見張り役の言葉が当たっているならば、ゴブリンはすぐそばにいるはずだ。
茂みに身を隠して向こう側を透かして見る。やはりいた。三頭のゴブリンが、畑の野菜に目を向けている。シロウたちには気づいていない。
カエデに「閃光」は使えるかと訊いた。使えるとカエデは答える。それだけの技が使えるというのに、何故パーティーを追い出されているのか?
疑問には感じたが、今はそれどころではない。
まずはカエデの閃光によりゴブリンたちの動きを封じる。そこへシロウがボウガンを打ち込み、命中を確認してからアスカが突入。残る一頭はモミジの魔法攻撃にまかせる。魔法に自信が無ければ投げ矢を解禁してもよい。
シロウのプランに全員が納得、賛成した。モミジは魔法の詠唱を始めたが、キッチリ投げ矢も握っている。シロウは苦笑を堪えながらボウガンを準備した。
そして作戦の発動だ。
パッという閃光にゴブリンたちは動きを止めた。驚いているばかりではなく、目も眩んでいるようだ。閃光を背中に、シロウは矢を放つ。動かない標的だ、矢はゴブリンの胸を貫いた。
アスカとモミジが飛び出す。アスカは刀を抜くや片手でゴブリンの首を飛ばした。モミジは水の魔法だろうか?
ゴブリンの開いた口コミに手桶一杯ほどの水を叩き込んだ。その見ずが気管に入ったのか、ゴブリンがむせている。その首に、またもやアスカの一太刀が入った。
作戦完了。
とてもではないが、昨日までゴブリン一頭倒せないでいたパーティーとは、とても思えない手並みである。いよいよこの子供たちが、それぞれパーティーを追い出された理由がわからなくなる。疑問は尽きないが、しかし今はゴブリンの死骸を回収することだ。
カエデに森を出て、大八車を取ってくるよう頼んだ。ぶーたれる振りをして、カエデは唇を尖らせながら森を出た。シロウは飛んだ首を集めてゴブリンの胴体まで運ぶ。血抜き腸抜きの初期処理は、森の外で行う。その方が森の中に匂いが残らない。ゴブリンが近づいてくれるからだ。
ゴブリンを肉に変えて袋詰め。
冷凍魔法の御札をモミジに貼ってもらい、一丁上がり。
仕事が一段落ついたところで、アスカをほめる。
「いい腕だな、アスカ。俺が以前いたパーティーの剣士よりも、腕が立ちそうだ」
えっへっへっと頭を掻いて、アスカは照れくさそうに笑う。
シロウは本題に入った。
「それだけの腕を持っていて、なんでパーティーを追い出されたんだ?」
するとアスカは少しだけ悄気げたような顔を見せた。
「ボク、身体が小さいから。大型モンスターに一撃入れるには小さすぎるって言われて、パーティーの主砲である剣士としては頼りないって言われたんです……」
「それだけの理由?」
「だってボク、身体が小さすぎるから、大きな荷物も運べないし、役立たずだって!」
「いや、すごい約に立ってる。というかアスカって、実は凄く強いんじゃないのか?」
「どうなんでしょう? 前のパーティーでは、約立たず扱いしかされてませんから……」
なるほど、それですっかり自信喪失。実力を発揮出来ずにゴブリンすら倒せなかったのか。
そんな会話をしていたら、カエデがヨコから口を挟んできた。
「ちょっとアンタ、女の子相手に根掘り葉掘りとデリカシーが無いわね!」
「おっと、こりゃ失礼。なんだったら俺がパーティーを追い出された理由を話そうか?」
「あ、それは興味があるわね」
カエデの好奇心を満たす目的ではなく、アスカへの罪滅ぼしという意味合いで、シロウは自分のパーティー追放の話をした。
ひとつ、年だから。これは彼らが言っていた主立った理由である。そこに付随して、トラッカー特有のゆっくりとした足取りも気に入らなかったようだと付け加える。さらには、戦闘前の休憩。これはパーティーの疲労を拭うためのものだった。今回のゴブリン狩りではあえて休憩はとらなかったが、それはパーティーのリズムを重視していたと加える。
そして前のパーティーは男二人女二人、プラスシロウというメンバー構成だったこと。男女二組のカップルが誕生して、シロウが一人のけ者になってしまったことを告げた。もちろんそのことをどうこう言うシロウではないのだが、パーティーメンバーからすればウザいオッサンが一人いる、というのは障害と感じたのだろうと判断した。
つまり若いメンバーにトラッカーというよくわからない職種のオッサンが混ざっていて、人間関係がギクシャクしたものだ、と説明した。
「なによ……そんな理由で仲間を捨てるって言うの?」
カエデは明確に不機嫌な声で言った。
「ほんと酷いよね。そのパーティー、シロウさんの価値がわかってないよ。確実にモンスターのいるところに案内してくれるし、作戦プランも練ってくれる。それにボクなんかを評価してくれるのに……」
「でででもでも、私たちにはこここ好都合でした。こんなに上級な冒険者さんを仲間にできたんですから♪」
アスカとモミジも同情してくれた。
シロウとしては冒険者として後がなかったので、アスカたちに拾ってもらえて本当に助かった。そのことには素直に礼を述べておいた。
「でもシロウ、そのパーティーって今はどうなってるの?」
「さあね、昨日の今日じゃまったくわからないよ。興味も無いしね」
「白き若獅子だっけ? そのうち賭けの掲示板で成績がわかるんだろうね」
その通り、とシロウは言った。お目当てのモンスターの出現場所がわかったとしても、必ずそこに現れる訳ではない。モンスターが餌を稼ぎ終わっていなくなってしまってから、その狩場に入っても、獲物は現れないだろう。トラッカーという職種は、そこまで考えてプランを練るものなのだ。それを蔑ろにした報いは……。
「報いは?」
チーム・スクラップは固唾を飲んでシロウの言葉を待った。
「そのうちあらわれるかもね」
「かもね、ってなによ! かもねって!?」
「運よく獲物との出会いに恵まれれば、トラッカーという職人は必要なくなる。恵まれなければ、その報いはすぐにくる。ボウズ街道まっしぐらになってもおかしくは無い」
「なんだかハッキリしないわね」
「そういうものさ、だから他人の不幸を喜んだりしちゃいけないんだ。例えそれが、自分を無職にした張本人でも」
ということで、今度はカエデが告白する番だ。
「アタシのは簡単よ。この性格だもん」
以上、カエデ終了。
ではない。
「いやいや、それでもカエデの手際の良さはただじゃない。俺ならメンバーとして手放したりしないよ」
「その辺りはシロウと反対の理由もあったみたいね。子供の前でカップルがイチャつけないって」
パーティーの成果よりもイチャつくこと優先かよ? 世も末だなとシロウは笑った。
そしてモミジの番だ。
「わわわ私は魔法が下手くそだからです!」
何故かは知らないが、モミジは顔を真赤にして言った。
だが、シロウの目にはそうは見えない。モミジもまた、ありあまる才能に恵まれていそうだ。その成長を邪魔しているのは、彼女の引っ込み思案な性格なのでは?
と睨んでいる。一度魔法商あたりで調べてもらう必要がありそうだ。




