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寿さんの雑記帳  作者: 寿
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パーティー追放モノ その5

パーティー追放モノ



たかだかゴブリンの一頭すら仕留められなかったチーム・スクラップが、一夜にして六頭ものゴブリンを食肉に変えてしまった。これは快挙であり大躍進と言えるのだが、シロウとしては満足のいく結果ではなかった。


「だって君たち、得意のスキルをひとつも使ってないじゃないか」


「くっ! ……痛いトコ突くわね。たしかにアンタの言う通りよ」


「そうだね、ボクの剣術の腕が上がった訳じゃないし、モミジの魔法が強力になった訳でもない。ましてカエデの治癒能力が上がった訳でもないもんね」


「ふぅ、どうすればハイレベルな魔法を使えるようになるんでしょう?」


おいおい魔法使い、君がそれを言ってどうする? とシロウはツッコミを入れたくなる。


「何をするにおいても、基本や基礎は大切だと思うよ? 剣術だと素振りとかさ」


アスカは片刃の剣を抜くと、ヒュンヒュンと振って見せた。

剣の素人でしかないシロウの目には、パーティーを追い出されなければならないような腕前には見えなかった。むしろ以前シロウが所属していたパーティーの剣士などよりも、よほど上に見える。


「なんにしても、次の探索ではそれぞれのスキルを用いてゴブリンを仕留めてみよう。手投げの矢は最後の武器だ」


モミジに魔法でランプを着けてもらう。マッチをこすった程度の小さな灯火を芯に移すと、シロウのランプは周囲をほんのりと照らした。

ランプの灯りの下でゴブリンは解体する。血液や脂で汚れることも厭わず、三人の小娘たちはゴブリンを食肉に変えた。今回は冷凍魔法の護符もある。ということでシロウは臓物も売ることにした。腸を絞り、内容物をひねり出した。早い話が、ゴブリンのウ〇コである。さすがにその作業はシロウが買って出て、一人離れた風下で行った。


食物となったゴブリンを部位ごとに分けて袋詰、さらに冷凍魔法の護符を貼り直し四人で担ぐ。

夜の帰り道は大変に危険だ。できれば朝日がのぼり明るくなってから帰りたいところであったが、冷凍の護符が品切れである。簡易魔法でしかないということもあり、朝日を待ってはいられなかった。出発、間もなく早速モミジが足を捻った。カエデが治癒にかかる。

命の危険という負傷ではないが、それでもカエデの手際は良かった。これもまた、パーティーを追い出される理由がわからない。そして効果も大変に満足いくものだ。


「そうね、アタシが明かりを灯せば、これ以上ケガしなくていいんじゃない?」


そう言ってカエデは右手の人差し指を掲げた。握り拳ほどの白い発光体が現れて、周囲を昼間のように照らした。シロウのランプはもはや不要である。モミジやアスカは、歩きやすくなったと喜んでいる。もちろんシロウもだ。

ゆっくり、ゆっくりと森や山を進み人里におりた。人間作った道は、月明かりの下で白く輝いて見える。カエデは疲れたと言って発光体を消した。シロウのランプ、再度登場である。前を行く者の服のすそを摘んで、一列になって歩いた。


ギルド、到着。人の明かりが懐かしい。そしてギルドは夜間の探索に出る冒険者たちのために、二十四時間開いている。昼間ほどではないが冒険者たちの出入りもあり、バーで飲んでいる連中もいた。

活気衰えぬ受取場で、シロウたちは獲物を引き渡す。昼間とは違う係員が受け取ってくれた。


「査定が済むまでバーで飲んでようか」


大人同士の会話のように、シロウは当たり前に言った。だが小娘たちはやはり尻込みする。


「あぁ、済まなかった。君たちに酒はまだ早過ぎたな」


仕方ないのでポケットウイスキーのバーボンを購入。一人でやらせてもらうことにした。

三口元味わったところで、受付で呼び出される。ゴブリン肉に値がついたのだ。冷凍肉は品質が良く、なおかつ臓物も揃っている。一体六〇〇〇ウェンの値がついた。六体揃って三万六千ウェン。一人頭九〇〇〇ウェンの取り分である。


初めて見る学問に、モミジなどは目を回してしまった。たかだかニ〇〇〇ウェンしかしないようなゴブリンが、いきなり三倍の値段に跳ね上がることに疑問を感じるだろうが、本体の値段はそれほど上がっていない。今回の高額査定には、痛みやすいレバーや希少価値のある睾丸ホーデンといった部位が含まれているので、そこが光ったのである。特に、今回のゴブリンの中で肥満した者が一体いた。そのゴブリンの肝臓に良い脂がのっていたのだろうと、シロウは考える。


いずれにせよ、冷凍魔法の護符さまさまである。思い切って購入して良かったと言えた。

モミジは取り分のな方から護符の代金をシロウに渡してきた。他のメンバーも、買ってくれた矢の代金を払う。明朗会計はパーティー存続の鍵だ。シロウは遠慮なく受け取った。


小娘たちは、冒険者になって以来初めて宿に泊れそうだと喜んでいる。もちろん雑魚寝の安っぽい、木賃宿である。木賃宿というのは風呂つきの宿のことだが、風呂を沸かすための薪㈹が別途かかる宿である。ギルドのなかなかのの売店で食料を買い込み、アスカを先頭に宿を目指した。

木賃を浮かすため、小娘たちは三人まとめて風呂に入る。薪掛かりはシロウだ。そしてシロウが入る段になると、アスカたちが薪を焚べてくれた。


真夜中、他の宿泊客の迷惑にならぬよう、ささやかな宴が開かれる。チーム・スクラップの存続とシロウの歓迎会。そして大漁を祝っての宴である。だがそこはまだ子供である。一人、また一人とフネを漕ぐように居眠りし始めた。シロウは子供たちを寝かしつけ、自分も横になる。


とりあえず、冒険者としての自分のクビはつながった。

あとは子供たちがどのような冒険者に成長するか? それを見守るばかりである。


翌朝、冒険者としてはいささか遅い起床時間で、チーム・スクラップは目覚めた。

洗顔などの身支度を整えて、昨夜の残り物で朝食を済ませギルドへとおもむく。

掲示板で本日の依頼を確認。いつものように、ゴブリン肉の採取という依頼を受ける。それだけゴブリン肉は庶民に好かれていて、なおかつ技能の上がった冒険者たちは見向きもしない肉なのだ。

しかし依頼が途切れることがないので、山菜採り感覚の冒険者などはコツコツとゴブリンを狩り、ひと財産蓄えた物好きもいたりする。もちろんシロウもゴブリン肉など見向きもしない派だった。しかし今はパーティーメンバーの技能を考慮すると、そんなことも言っていられないのである。

そして庶民の娯楽というならば、博打ギャンブルというものがある。

冒険者たちが探索に成功するかどうか? あるいは狙った道具アイテムを獲得できるかどうか? それが賭けの対象になっていたりする。

チーム・スクラップも賭けの対象になっていた。しかも煽り文句付きである。


「つい先日までゴブリンの一頭すら狩れなかったポンコツパーティーが、ベテラントラッカーを採用した途端一日でゴブリンを七頭も狩る快挙!

事故なく無事にゴブリン肉を採取できるか!? 現在最大の注目株、赤丸急上昇!」


賭けは半々。トラッカーを採用したところでポンコツはポンコツ。昨日の成績を越えられない、という考え。そして、優秀なトラッカーがいるからキッチリと成績がでたのだ、という考え。ちなみにシロウとしてはあまり触れられたくないところなのだが、トラッカーの戦闘能力は低いという情報まで流出していた。

シロウたちチーム・スクラップがゴブリン肉の採取という依頼を受けた途端、賭けの対象として公開されたのだ。まったく迷惑な話ではあるが、シロウ自身が冒険者賭博で稼がせてもらったこともあるので文句はいえない。


「ななななんだか私たち、きゅきゅきゅ急に有名人ですね」


チーム・スクラップの評価は低い。故に小遣い銭程度の賭け金でギャンブルに参加できる。その手軽さも手伝って、チーム・スクラップの投票券は飛ぶように売れていた。モミジが逃げ腰になるのもうなずける人気である。


「それだけボクたちに期待がかかってるのさ。ん〜〜緊張しちゃうなぁ」


「周りのことなんて気にする必要は無いさ。マイペースマイペース、こうした注目が原因で探索失敗なんてこともよくあるからね」


特に若いパーティーはそこからスランプに陥ったりする、とシロウは付け加えた。

ということで、ギルドで大八車、いわゆるリヤカーを借りる。今日はゴブリン肉を二桁採取するのがシロウの目標である。もちろん魔法商に出向き、冷凍魔法の御札も購入。その他雑多な買い物を済ませると、今夜の宿代まで無くなってしまった。


しかしそんなことは気にしない。冒険者という生き物は、探索に成功すれば収入があるからだ。

故に今日も探索へ出かける。昨日とはまったく違う狩場だ。


「まったく、どんだけゴブリンの狩場を知ってんのよ?」


カエデは呆れていたが、トラッカーにとってゴブリンの狩場など拠点……つまり巣穴の数だけ知っているようなものだ。というか、ゴブリンは最弱クラスのモンスターだ。つまり人里近くに棲息している。森の最奥などにはドラゴンなどの強面が棲んでいるので、人里近くにしか棲息地が無いのである。


先日の探索では東の森で狩りをした。その狩場は今日は休ませる。いかに豊かな餌場であっても、危険となればゴブリンは現れない。まして昨日の狩場にはゴブリンの残滓を残してある。その死骸の残りが、野生動物や他のモンスターによってきれいさっぱり掃除されてから、狩場とする方が効果的なのだ。


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