パーティー追放モノ その4
パーティー追放モノ
ゴブリン肉を採取したシロウたちは急いで森を抜けた。血の匂いを嗅ぎつけて、より危険なモンスターが現れるかもしれないからだ。そんなものを相手にして勝てるほど、チーム・スクラップのメンバーは強くない。シロウもだ。
それにゴブリン肉を鮮度が高いうちにギルドへ卸したいというのもある。一度の探索で得られる報酬は高い方が良いに決まっている。正直に言えば、ゴブリン肉を捌かずに血抜き腸抜きだけで持ち帰ることもできた。しかしそれではギルドに卸したときに解体料をさっ引かれるし、荷物にもなる。
今は軽装で行動する方を優先させる。身軽な方が生還率は高いのだ。
そしてギルドに到着。枯葉や小枝をきれいに払って、食肉回収所に提出した。
一行は受付前に移り、どれだけの値段がつくかと興奮気味に話し合っていた。しかしシロウは熟練。おおよその相場は心得ている。四人で割ったら小遣い是ににもならない金額でしかないことは分かっていた。
チーム・スクラップが呼び出される。
初期処理の良さでニ〇〇〇ウェンの値がついた。
一人頭五〇〇ウェン、バーボン一杯分にもならない金額だ。しかし小娘どもは大喜びだ。一度の探索で得た金額としては最高値なのだそうである。
そしてもうひとつの喜び、受付嬢から冒険者継続の許可がおりたのだ。
「よかったな、アスカ。俺もメンバーの一人として、役に立てて嬉しいよ」
「あら? シロウさんはまだこのパーティーのメンバーじゃありませんよ?」
受付嬢が冷水を浴びせてきた。
ちょっと意地悪く、ニヤニヤしながら言う。
「だってシロウさん、パーティー登録もしないで飛び出したでしょ? メンバーになるなら登録しちゃいますから……」
バインダーにとめられた書類を押しつけてくる。
「書類を提出してくださいね」
少しだけ嫌な顔をして、それでもシロウは従った。面倒くさい手続きなどはすべて手作業。ステータス画面も無ければ便利な魔法も存在しない。登録証をかざしただけで事足りるようなシステムも存在しない。そこまで魔法文明が発達していれば、モンスターも魔王も恐るるには足りないだろう。
人類の魔法文明は、まだまだヨチヨチ歩き。学べば誰もが使えるという道具などではない。個人の資質や才能というやつに依るところが大きいのだ。
さて、手続きも済ませ晴れてチーム・スクラップの一員となったシロウだが、これで終わりというものではない。手にした報酬はごくわずか。これでは今夜の寝床も確保できない。
「少し背伸びして、夜の狩りに出かけるか?」
第2ラウンド宣言である。
小娘たちは頭を寄せ合って、ヒソヒソと会議を始める。
「どうしよっか?」
「やるしか無いわよ、だってアタシたち今夜の宿代も無いんだから」
「……で、でもでも、男の人と野宿だなんて、こここ怖いですぅ」
「なんかあったら蹴飛ばしてやればいいのよ」
「そーそー、シロウさんからすれば、ボクたちなんて子供……」
アスカはたわわに実ったモミジの胸を見る。
「……うん、モミジは蹴りの練習をしておいた方がいいかもね」
会議がまとまったようで、アスカが申し出る。
「シロウさん、お願いします!」
「ただし、モミジにちょっかいかけたらアタシが許さないわよ!」
「子供になんて手は出さないよ」
というか、これまで独身を貫いてきたシロウだ。いまさら女房どのなど欲しいとも思わない。後腐れなく、金で済ませる商売女の方が、よっぽどお似合いだと心に決めていた。
では、夜の狩りで何を狙うか?
夜間はモンスターも活発に活動する。選り取り見取りという奴だ。しかしここは、複数のゴブリンを狩るということを目標にしておこうと思う。
「どうかな、みんな?」
「そうね、アタシたちは今さっきゴブリンを仕留めたばかりなんだから、あまり高望みはしないことよね」
「ボクもその方がいいと思います。でもシロウさん、夜は危なくないですか?」
「野営の道具は俺が貸すよ。それよりも魔法使いと治癒者には、少しレベルアップを頼みたいんだ」
治癒力も魔法も最低レベルでしかないことは、午後のゴブリン狩りの道中で聞いていた。だが、今回はそれでは困る。早速魔法商に出向いて、冷凍の簡易魔法と閃光系魔法を二人の後衛に買い込んでもらった。魔法は個人の資質に依るところが大きいと言ったが、初級、もしくは即席の魔法はこうして護符を購入することで使用できる。もっとも、シロウのような才能無しが購入、使用しても意味がない。魔法使いや治癒師が使わなければ効果を発揮しないのだ。
「モミジの冷凍魔法はわかるけど、アタシの閃光系魔法ってなによ?」
「簡単に言うと目眩ましさ。弱小モンスター相手なら、それだけでダメージを与えられる。今回は使わないかもしれないけどな」
というか、目眩ましを使うということはパーティーの危機という状態だ。できれば使わないに越したことはない。シロウは手持ちのリュックサックから、ランプを取り出した。満タンに油を入れておく。灯りは暗闇の中で貴重だ。星あかりや月あかりしか無い森の中では、人間の心は灯りを欲する。ほんのささやかなランプの灯りでも、人間は冷静に判断できるようになる。
午後、もうティータイムに入る時刻。
シロウたちは再び森に入る。安価で売買できるゴブリン肉は、常にギルドで買い取ってくれる。というか安価なゴブリン肉はパーティーのレベルが上がると自然とゴブリン肉を取らなくなる。庶民の味は常に品不足なのである。
ナイフ、ランプ、それにロープ。
冒険者の三種の神器を用意して、いざ森を目指す。道中シロウは巨乳のモミジに罠を覚えてみないかと誘う。
「わわわ、私でもできるでしょうか?」
「君は自分をドン臭い人間だと思っているだろ? そういう人間ほど罠は合ってるんだよ」
シロウはかつてのパーティーメンバーにも、そのように誘ったことがあった。しかし「地味だ」という理由でけんもほろろ。あっさり断られてしまった。確かに、罠は獲物がかかってこそ華である。罠に獲物がかかっているかどうか、それを定期的に巡回。というか毎日見て回らなければならないのだ。
シロウを追い出したパーティーメンバーたちは、とにかくバトルを好んでいた。だからシロウは探索のコーディネーターとして、ゆっくり歩くことと合戦前の休憩を推奨してきたのだが、その思いは彼らに通じなかった。ではチーム・スクラップはどうか?
「ほ、本当に私のようなポンコツ人間でも、罠を覚えられるんでしょうか?」
かなり意欲的だった。
「モミジはボクたちの役に立とうと必死だねぇ」
アスカがのんきに笑う。
「だってだって! 私はアスカさんのように明るくないし、カエデさんのように利発でもありませんし! それでも私だって、皆さんのお役に立ちたいんです!」
そう思うのは当然か、この娘たちは「お前いらねぇ!」とパーティーを追い出されてきた娘たちなのだから。
まだ夏を過ぎたばかり、午後のティー・タイムに街を出たシロウたちは、薄暗くなる程度の時刻には森に入ることができた。とはいえ、先程からの曇天。しかも森の中は薄暗い。
「さっきとは違う森なんですね?」
アスカの問いに、「あそこにはゴブリンの残滓があるからね」と答えた。
「アスカだって人間の死体が落ちてる場所には近づきたくないだろ?
ゴブリンも同じさ。死骸を放置しておいたらゴブリンは寄り付かなくなる。もっとも、早々にもっと強いモンスターが餌にしてしまったかもね」
「ゴブリンも大変ですねぇ」
アスカはナイフで小枝を削っていた。シロウに言われていたのだ。そういうシロウも、ゆっくりと歩きながら小枝を削って先端を尖らせている。モミジやカエデも、同様に小枝を削りながら歩いていた。罠に使うのである。
少し開けた場所に出た。そこがシロウの狙っていた場所だ。1ラウンド目と同じように、木ノ実がそこいら中に落ちている。木ノ実を踏まないように、と注意を与えてから広場に入ってゆく。
藪が押し倒されたような獣道が、そこかしこにある。半分はイノシシ、残りはゴブリンのものだ。足跡でわかる。そして人間が職場へ通勤するかのように、毎日ここへ通っているのか、足跡は比較的フレッシュなものが多い。
シロウはゴブリンの通り道に、罠を仕掛けた。足元のロープに引っかかると、たわめた枝が飛び出して、先端を尖らせた枝がゴブリンの腹に刺さるというものだ。この餌場だけで、四箇所に罠を仕掛ける。シロウたちは近くの茂みに身をひそめて待った。本来罠はその場を離れているのが良い。人の気配が無い方が、モンスターも油断する。しかし相手はゴブリンだ。あまり頭もよろしくなければ、警戒心も薄い。
現に日没とほぼ同時に、聞き慣れた足音、藪を漕ぐ音が聞こえてきた。シロウはボウガンに矢をつがえてまった。アスカたちも、先程血の味を覚えた矢を握りしめている。
シロウはハンドサインで、ゴブリンが二頭いることを示した。
一頭は罠にかかるだろう、しかしもう一頭はどうする? 問われるまでもなく、シロウのボウガンで射るつもりである。
「俺のボウガンが当たってから飛び出すぞ」
小さな声で告げた。果たして、先を歩いていたゴブリンが罠にかかった。小枝が腹部に突き刺さり、「ギ……」と言ったきり動けない。後ろのゴブリンがどうしたのか?
とばかり回り込んできた。その胸に、シロウの矢が刺さった。
一斉に飛び出す。動けないゴブリン二頭、アスカはかなり接近してから矢を打ち込んだ。モミジとカエデもそれに習う。シロウもまた、新たな矢をつがえてゴブリンにトドメを刺した。
亡骸となったゴブリン二頭。それを茂みまで引っ張ってゆき、初期処理をおこない即席の冷凍魔法をかけた。矢を回収して、再び罠を仕掛け直す。
この繰り返しで、一晩のうちに六頭のゴブリンを仕留めることに成功した。




