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寿さんの雑記帳  作者: 寿
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パーティー追放モノ その3

パーティー追放モノ


まずは野を越え山越え、人里から離れる。

現代日本というか日本列島改造論以降の日本と違い、アスファルト道路など通っていない。

別な言い方をすれば人間の生息圏は、現代と違ってものすごく狭い。


現代世界の時間で言えば、三十分も歩くとそこはモンスター蠢く森の中であった。

まずシロウはモンスターの餌となる、木ノ実が成る樹木の生えた区画に入る。

そこならば今の時期、ドングリやトチの実が転がっているので、ゴブリンが出没しやすいからだ。


現に足跡が残っている。

石ころが転がった跡もある。

ただし、踏みつけられた草が少ししなびているので、ゴブリンが今朝つけた足跡と判断できる。


夕方も来るであろうか?

足跡を丹念に観察した。

現在落ちている木ノ実とは全然別な場所に足跡は向かい、何かを拾ったかのように重心移動した痕跡がある。


つまり今朝ここに現れたゴブリンは、木ノ実を採取することに成功。

そして餌場として記憶している、とシロウは考えた。

ではどこから来る?


実を言うとシロウには、ゴブリンが群れで暮らしている場所に心当たりがある。

この近くには洞窟があり、そばを川が流れているのだ。

夕方近く、棲家を出てこの場所へ来るならば……、あった。


藪の中にトンネルのような、ゴブリンが通った跡が。

この場所を餌場と記憶したゴブリンは、例え物忘れしたとしても自分の通った後にしてを辿り、またこの場所に来る。

いや、物忘れしていなくとも確実に餌場へ来たいのなら、必ず同じ場所を通るはずだ。


確信である。

よってシロウは穴を掘った。ちょっとした落とし穴だ。

その中にへし折った矢を立てておく。

それから丁寧に穴を隠し、ゴブリンが来る方向に木の枝を置いた。


「なによ、その木の枝?」


カエデはこまっしゃくれた口をきく。


「ゴブリンが確実に落とし穴を踏み抜くためのおまじないさ。それよりもこっちへ、ゴブリンに見つからないように隠れるぞ」


「それはいいんだけど、ボクたちはこの矢をどうするんですか?」


「ゴブリンが罠にかかって動けなったら、中指の腹を矢の尻にあてがって投げつけるんだ。専門の道具は無いけれど、かなりの威力があるぞ」


「こここ……この手でモンスターの命を奪うんですか?」


「奪わなければ君たちの資格剥奪は決定。餓えてのたれ死にするか、売春宿で客を取る羽目になる。……できるかい?」


三人の小娘は、怖気づきながらもうなずいた。

小娘たちの決意を確認すると、シロウは空を見上げる。

鬱蒼とした森林だが、木々の枝の隙間から重たい雲が見えた。


日没が早い。

というか暗くなるのが早い。

つまり薄暗さに誘われて、日没時刻よりも早くゴブリンが現れそうだ。


シロウは音も無くボウガンの弦を引いて矢をつがえた。

それから間もなくだ、不細工で不器用な足音が聞こえてきたのは。


「いいかい、俺が矢を射てからみんなで飛び出して矢を投げつけるんだ」


シロウはゴブリンが現れる予定の場所にボウガンの狙いをつけた。

藪がガサガサと鳴る。

そしてアスカと背丈がそれほど変わらぬゴブリンが現れた。


アスカに比べて、手足のバランスは取れていなく、不格好で猫背なのだが。

そしてシロウのねらい通り、ゴブリンはおまじないである木の枝をまたいで、地面に足を下ろす。

しかしドンピシャ、そこは矢を仕込んだ落とし穴だ。


矢を踏み抜いたのだろう。ゴブリンは悲鳴を上げた。一声を上げ終えたところで、シロウはボウガンから矢を放つ。

矢は狙った通り、ゴブリンの腹に突き刺さった。


「いまだ、行け!」


身を隠していた三人が飛び出した。各々が矢を投げつける。モミジとカエデの矢が、ゴブリンの胸に刺さった。

そしてアスカは、ゴブリンの腕が届くほど近づいて、それから矢を投げつける。

アスカの矢が一番深々と、突き刺さる。ゴブリンは血を吐いて前のめりに倒れた。


「全員後ろにさがれ!」


シロウが命じる。すでにニの矢をボウガンにつがえてあった。シロウが狙うのはゴブリンの首。

放たれた矢は、まだ息のあるゴブリンの頚椎を砕いた。

ゴブリンは死んだ。


「アスカ」


シロウがトドメを刺して絶命しているが、ものごとはケジメが必要だ。ゴブリンの頸動脈を切れと命じる。アスカは短剣ダガーを抜いて、すでに息絶えたゴブリンの首を切る。どろりと血液が流れ出て、地面に落ちた枯葉を染めた。


「よし、まずはタンを取ろう」


モンスター肉の中でも、舌は熟成いらずで高価である。

アスカは冒険者教習所で教わる手順そのまま、タンを切り取った。アゴ裏肉がついたままの舌を枯葉で拭い、小枝や枯葉で包んで布鞄に仕舞い込む。

次は解体だ。モミジに命じてゴブリンの足首にロープをくくらせた。しかし下手くそだ。


シロウが手本を見せる。モミジはぎこちないながらもロープでゴブリンの足首をくくり、木の枝をとおして逆さ吊りにした。

首の傷口から、ゴブリンの血液が落ちる。血抜きの作業だ。

次は腸抜きの作業なのだが、これはシロウがやった。腸抜き、つまり内蔵を取り除く作業なのだが、腸の中にはゴブリンの糞が詰まっている。ということで腸に傷をつけると糞がはみ出て、採取する肉が台無しになるからである。


臓物も持ち帰ればいい稼ぎになるのだが、それは鮮度が高い場合だ。魔法使いのモミジが冷凍魔法を使えれば臓物を持ち帰られるのだが、残念ながらそうはならなかった。背骨の凸凹に沿ってアスカにダガーを走らせる。肩甲骨で横に刃を走らせ、骨盤でも刃を横に走らせる。

まずは皮剥きだ。


イヤらしいほどに生き生きとした筋肉が露出する。背骨の出っ張りから背面の肋骨に沿わせて、背肉を切り取る。背ロースと言って、ここもモンスター肉の中では美味とされる部位だ。

これも血を吸わせる目的の枯葉や小枝で包んで布鞄に仕舞い込む。もちろんこの外気温では腐敗しかねない。だがこの場所から町までの距離は、丁度良い熟成時間とも考えることができる。


ということで、シロウは吊っていない側の脚の付け根、もっとわかりやすく言うと尻肉牛のに刃を立てた。肉の端は靭帯や腱となって骨に付いている。シロウは骨盤から肉を切り離した。

モモ肉一丁上がりである。別なロープで傷口を下にして吊っておく。放置もまた、血抜き作業だ。


こんどは吊っている側の脚を骨盤から外す。外すと同時に、ゴブリンの胴体は地面に落ちた。

心臓ハツやら睾丸ホーデンやらの希少部位も、今回は採取を見送る。それらを採取するにはシロウたちチーム・スクラップは未熟すぎた。そしてそれ以上に、今回の目的はゴブリンを三日以内に狩ることなのだ。いらない欲を出している場合ではない。


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