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寿さんの雑記帳  作者: 寿
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BARするめいか

その店はいつ開くのか、誰も知らない。そしてどこで開かれているのかもわからない。

ただひとつ言えることは、その店では極上の美女がシェイカーを振り、極上の美女がグラスを傾ける。

本物だけが入店を許されるという店、『BAR するめいか』。

今宵もまた、美女二人が男っ気もなく語り合う。



「面白い世の中になったものよね、かなめ」

客である豊満ボディの美女が語りかける。

「なんだかダンジョンだかマンションだかが現れて、人間社会が大混乱らしいじゃない」



「面白いもんですか、月夜ツクヨ。電気ガス水道、一部でライフラインがストップしたり、物流が停止してる場所もあるんだから。笑い事じゃないわ」

カウンターの中からバーテン姿のスレンダー美人が返事する。

昨日、巨大地震とともにダンジョンが現れた。しかもダンジョンだけではない。そこから無数の魔物が出現して、人間を襲い始めたのだ。




「で、どうするのよ。かなめ、アンタのとこ。アンタのとこの大将、こういうの大好物じゃないの?」

「えぇ、とりあえず会社で有志を募って、ダンジョン攻略に出るみたいよ?」

「どれだけ好戦的なのよ、アンタんとこの会社?」

「非常識事態にこそ強いミチノックだからね。有志を募ったら社員の大半が志願しそうなところが素敵なのよね」

「テロ組織として認定されないようにね……」



カクテルグラスが空いた。おかわりはどう? とバーテンが訊く。

「そうね、おかわりとして面白い話が聞きたいわ」

客は答えた。

「そうね……ダンジョン攻略の斥候として、今夜子飼いの忍者を放つわ」

「忍者って、お嬢のこと?」

「そ、私の姪、いずみよ。面白そうじゃない?」

「面白そうよね! かなめ、お嬢の応援に行かない?」

「いいわね、行きましょうか♪」



忍者、準備中。

いつもの忍者装束に巧無と呼ばれる手裏剣を多数。ロープに小型ライトに忍者刀。

なにが起きるかわからないので、傷薬も忍ばせておく。

「ダンジョンか……」

気が重かった。地上人類で、おそらく最初に、この謎の地下迷宮に挑むのが自分なのだ。

なんの情報も無い。すべては手探り。ただ確実なのは、ここから現れる魔物というのが、人間を食べるということだ。



忍者新堂いずみ、17歳はため息をついた。

「あらいずみ、暗い顔して、どうしたの?」

「かなめ姉ぇ?」

「忍者たる者、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、いつでも笑顔でいなきゃ♪」

「逆に訊きたい。私が未知のダンジョンに挑むってのに、どうしてかなめ姉ぇはそんなに明るいんだ?」

「どうしてって……他人事だからよ?」

美人ではあるが、それだけに可愛らしく小首をかしげる仕草が憎らしい。



「ハ〜〜イ、お嬢、元気かしら?」

「あ、姐さんまで?」

姐さんと呼ばれたのは客であった豊満ボディの美女、月夜である。

「これから斥候に出るんですってね。お姉さんお嬢の活躍に期待しちゃうわ」

「斥候には派手な活躍なんて無いべさ」

「無ければ作ればいいのよ」

「断っておくけどな、姐さん。絶対について来るなよ」

月夜と呼ばれる美女はフルネームで天宮月夜。実は新堂家を守る神さまであるのだが、無駄に神格が高く無駄に強いのである。そのせいか理不尽なまでにワガママであったりするところが頭痛のタネであった。



「え〜〜っ、それじゃあお嬢が活躍するとこ見られないじゃない!」

「駄々こねるな、乳を揺らすな、踊るな! 踊るなって言ってるべよ!」

「いいわ、クスン。お嬢が帰ってきたら武勇伝をたくさん聞かせてもらうんだから」

「だから斥候に武勇伝は無いっつーの」

「徹夜で……」

「寝かせろよ! ったく……私は緊張感一杯だってのに、なんでコントに付き合わにゃならんのだ」



「いずみ、巧無は持ったわね?」

「あぁ、たっぷりとな」

「ロープは?」

「ある」

「携行食」

「一食分だけ」

「月夜から祝福のキスは?」

「いらねーよ」

「御利益あるわよ?」

「その御利益って私の寿命を対価として支払うやつだろ?」

「じゃあ寂しくなったときに見つめる私の写真は?」

「いらないから!」

「サービスで胸の谷間を強調してあるわよ?」

「やめてくれ、私が悲しくなる!」

忍者新堂いずみの胸は、天地がひっくり返っても『豊か』とはいえないものであった。



「じゃあ行ってくるからな。おとなしくまってるんだぞ」

「お嬢?」

「なんだよ今度は!」

「まるで新婚さんの出勤風景ね?」

「やかましいわい!」



そして忍者は出て行った。

人類初、前人未到のダンジョンへと。

「でもね、かなめ」

「なにかしら、月夜?」

「どうしてお嬢って、私に斥候を頼まないのかしら? 私、神さまだから食べられること無いのに……」

「月夜、あの娘も生粋の冒険者なのよ♪」

「かなめ、あなた全然褒めてないでしょ?」

もちろん、とかなめは答える。

そして二人の美女は顔を見合わせて笑った。

「さあ、飲み直しましょう月夜」

「そうね、お酒を飲みながらお嬢の帰りを待つとしますか♪」

忍者新堂いずみが天宮月夜を連れて行かない。あるいは斥候を頼まないのには理由があった。

この神さまに任せると、斥候が斥候で終わらず、破壊行動にしかならないからだ。




そして忍者は疲れて帰って、天宮月夜に訊かれるのだ。

「あなたおかえりなさ〜〜い、お風呂にする? ご飯にする? それとも、ワ・タ・シ?」


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