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触れることが  作者: Kadoma
第1章 あなたと
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始まりと男女

やけにガタガタした地面を、一台の鉄馬車(てつばしゃ)が走っていく。凸凹の激しい地面を走る種類なので、車輪も車体も、通常に比べ大きい。すぐ側には山があり、木々が無造作に並んでいる。

乗っている1人の男の服装も含め、その鉄馬車はたった1台緑に囲まれて、大きな存在感と拭いきれない異物感を醸し出していた。

やがて、その道路の端で鉄馬車が止まり、軍服を着た1人の青年が車から降りた。

彼の名前はレン。もうすぐ20歳になる軍隊の新兵だ。所属する部隊長のグリス少尉から命令を受けて、王都から遠く離れたロスヴァイルに来ている。任務の内容は、「異質物(イレギュラー)の捜索及び回収」。かっこつけた名前だが、要は一般に生活で使われていない用途不明の物体を回収するということだ。階級ゆえに、その行為の必然性やその他についての解説は受けていない。推察も困難だ。

ともかく、レンはこの一帯をある程度散策、もとい捜索する必要があるわけだ。地図と念のための銃剣を取り出し、鉄馬車に鍵をかけて寝かせる。


「えっと…この山は…」


地図を確認する。セルヌ山。すぐそばの山の名前だった。レンは、ここを最初に探ってみることにした。


我が国(トネスト)は、広大な領土を持ちつつも、王都ハースラー周辺に人口が集中している。このロスヴァイルのように辺境に近い地方であれば、住むのは物好き、家業や土地を継ぐもの、後は「フーラ」ぐらいだ。ロスヴァイル全体でも、「フーラ」を除けば住民は1000人にも満たないだろう。

それ故だろうか。山道はかなり荒れており、あちこちに雑草が生え、中腹あたりの道は岩でふさがっていた。


「やれやれ…」


普通なら引き上げるなりもっと困るはずなのだが、レンはそれをしない。レンは集中した表情になり、岩に手をかざし、そっと上げた。その動きに従い、岩が重力を無視してふわりと浮き上がる。それを横に移動させ、かざしていた手を下ろす。途端に、解放されたように岩が落ちていく。


「ふうッ…ハァ…ハァ…」


一連の動作を終わらせ、レンは疲弊した表情で肩を鳴らしていた。


触れ得ぬ力(ムーブメント)」。これの呼び方の1つだ。対象1つに対して、あらゆる力を好きな強さでどの方向からでも加えることができる。しかし、どんな物でも動かせる代わりに、その重さや力の分、かなりの集中力や体力を消費する。極めれば梃子のように少ない力で動かすことも可能だが、不器用なレンはまだまだ扱いが上手くない。

触れ得ぬ力(ムーブメント)」に限らず、この世界では大体の人間が、10歳を過ぎると何かしらの「力」が目覚める。恩寵(ギフト)奇跡(スペシャル)、呼び方は様々だ。レンは、単に「力」と呼んでいる。

そして--こういうものの常か、それが目覚めない者もいる。それが「フーラ」だ。彼らも確かに人として扱われる。最下層の、一般人が殺しても重罪とはならない程度の人間として。


おかしい。

俺はなんでこんな時にとうに知っていることを再認識するんだ?

『疲れた』でもなく、『まだまだ練習しないとな』でもなく、なぜ「力」の説明など考えている?


A.B.281年現在、国家は議会のシステムを確立し、安定の時代に既に入っている。王都のインフラも整備され、自動車とバイクは、軍を始めとして徐々に上流階級などが、相当な長距離を走る時に利用され--


インフラ?自動車?バイク?俺は何を言ってる?そんな言葉は無い。少なくとも俺は知らない。


大気中に存在する-----適合---ハースラーの向こう---ー


思考の暴走は止まらない。単純な感情がどんどん別のものに書き換えられていく。

何かを流し込まれるような感覚が全身を貫いた。

殆ど反射的に辺りを見渡す。見つけるのに、時間はかからなかった。

離れた場所に、それはいた。服装も顔立ちも、それらは雰囲気に溶け込んだごく自然なものだった。だが、それ--その極端に無表情なその若い女性から溢れ出る異様な存在感は、彼女の周囲にある種異質な空間を形成していた。

ついてこいと言わんばかりに歩き出すその女性を、レンは呼び寄せられるように追いかけた。

奥へ、奥へ、奥へ。

疲れも、ここに来た理由も忘れ、ただ女性を追いかけ続ける。向こうは歩き、こちらは走っている。なのに、いまだに距離が縮まらない。いつの間にか、レンは自分の現在地が分からなくなっていた。

山道とは違い、樹が高く、大量に枝分かれしているせいか、まるで光が入らず、昼間なのに薄暗い。辺りには、鉄の巨人としか形容できない巨大な鎧が倒れ、そのそばでは、その鎧でないと到底使えなさそうな巨大な銃が転がっている。その奥には入り口の塞がれた祠のような場所がある。その前で女性は止まり、こちらを振り向いた。口が動く。女性とはそこそこ離れている上に、その声はとても小さく、なのにはっきりと聞こえ、やけに耳に残った。


「あなたは鍵」


次の瞬間、獣の唸り声が聞こえ、銃を持っていた右腕に猛烈な痛みが走った。大きく切り裂かれている。咄嗟に振り向き銃を構え--る前に銃が弾かれた。下に落ちた銃が、目の前の熊に踏みつけられた。

武器がない。傷は深い。相手は危険。この距離では「力」を使う前に爪の餌食になる。

危険な時特有の冷静さで、レンは来た道を引き返し出した。方向がわからない。右へ、左へ、次々に走る。その先にあった岩に咄嗟に隠れる。熊の視界から離れているうちに隠れたためか、熊はレンを見失ったようだった。チャンスは一度。汗を握り、深呼吸して、一度手を握りなおし、再び開ける。

岩から飛び出し、熊に手を向ける。最大級の力で、一点集中。とにかく大きく時間を稼げればいい。

こちらに迫る熊を前に、力をぶつけた。手ごたえあり。熊は仰け反り、そのままゆっくりと倒れていく。そのはずだった。仰け反った熊は、そのまますぐに体勢を立て直した。馬鹿な。今の一撃は、その程度で終わるほどの力ではなかった。もっと、もっと大きな効果を期待できる、強い力だったのに。

そんなこちらの動揺など知らず、熊は先ほどより遥かに強い勢いで体当たりしてきた。体がいとも簡単に吹き飛ぶ。よろめきながら立ち上がる時には、もう爪が目の前に迫っていた。

すんでのところで後ろに下がる。それでも遅く、腹の肉が持って行かれた。今度こそ仰向けに倒れる。

熊は目の前でレンを見下ろしている。だが、全身が痛み、眠気まで襲ってきた。


「スロイネ?どこ行ったのー?」


遠くから、さっきとは別の声が聞こえてくる。それをぼんやりと聞きながら、レンは眠気に身を任せた。あの情報の嵐が消えていた事にレンは僅かに安堵を覚えた。









腹部に、切られた時とはまた別の痛みで、レンは目覚めた。

視界がぼやけ、傷口が、ヒリヒリと痛む、その痛みで、思ったより早く意識がはっきりしてきた。

レンは2人暮らしに充分そうな、そこそこ広い部屋の寝台で寝ていた。すぐ側で少女が自分の顔を覗き込んでいる。


「あ、お目覚めですか。大丈夫ですか?」


その少女の顔がさっきの女性と似ていたので、レンはどう返事を返事をすればいいのか、本当にわからなかった。その表情を状況が把握出来ず困惑した表情とでも取ったのだろう。少女は少し緊張した様子で


「あ、あー…。あのっ、スロイネ…あっ、じゃなくて熊を追いかけてたら倒れてたんで運んできたんです。薬草をすりつぶして混ぜ合わせた物を傷口に塗っておきました。あ、あと、熊もちゃんと叱っておきましたから。どうもすみません。」


と早口で話した。よく聞くと、気を失う直前で聞いた声と同じ声だった。


「あ、ああ…。どうもありがとう。よく運んでこれたね。」


「あはは。住んでる場所の関係で、どうしても鍛えられるんです。あ、ああ、まだ安静にしていて下さい!」


起き上がろうとしたレンを、慌てて少女が止める。止むを得ず、また寝転がって、ズボンから小型連絡器を--ない。あるはずの場所にも、どこにもない。


「ね、ねえ、これぐらいの連絡器知らない⁉︎」


少女はただきょとんとして首をかしげている。まさか。唯一の軍への連絡手段が絶たれた。

ハースラーからロスヴァイルまでは、鉄馬車であっても1週間はかかる(もちろん宿泊の時間も込めてだが)。

現在地も把握できていないこの状況で、連絡器を持っていないのは痛手だった。何しろ、あれは自身の座標も把握できる。熊で頭が一杯になっていたのだろう。うかつだった。

そんな表情を見て、少女がおずおずと尋ねる。


「あのー…。もしよろしければ、傷が完治するまでここにいませんか?」


「…え?」


「傷も深かったし、骨も折れてるみたいです。あの薬草でもあの傷は相当な時間がかかります。見たところここら辺の事も分からないようでしたし…。いろいろ案内します。しばらく…私の話相手になってくれませんか?」


レンはしばし考え込む。成る程、少なくともそれが最善だろう。1人では回収できない異質物(イレギュラー)のチェックも必要だ。顔を上げ、


「そうするよ。俺はレン。君の名前は?」


と答える。少女は嬉しそうな表情で答える。


「セレンです。ちなみに17歳です。」


「じゃあよろしく、セレンさん。ちなみに俺は19歳だ。」


「あれ、思ったより若いですね。」


「はは、そうかなぁ。確かによく老けてるとか言われるけどね。」


2人で笑う。また傷が痛み出したので、しばらくそこで寝させてもらった。感謝と謝罪を告げ目を閉じる。

その時にようやく、寝台の寝心地の良さと自分が久々に笑った事に気づいた。

もっとも、その後に恥ずかしがる様子もなくセレンがすぐ側で昼寝を始めたので、ウブな彼は殆ど眠れなかったが。

初めまして。kadomaです。

今回、何故かファンタジー物をやろうと思い。慣れない世界設定を必死に考えて作りました。

短編のつもりだったのですが、自分の短編にしてはなかなかボリューミーだったのと、せっかく必死に設定を考えたからと、短編が分割されめでたく(?)連載になりました。

低レベルな文章力ですが、暖かい目で見守って頂けると幸いです。

それではまた、次に手が触れる時まで。


補足:今後、設定集を投稿する予定ですが、その前に2つだけ用語解説しておきます。

鉄馬車…現実における自動車。レンの乗っていたのはランクルです。

連絡器…文字通り通信機です。見た目に関してはご想像にお任せします。

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