3日目:お部屋探し
うちでモデルをやってもらう代わりに
この世界で自活できるだけの給料は約束することになったのだが
予想以上に選択肢が少ない事に気づく。
女の子なのでオレの自宅に泊めるわけにもいかないし
ホテルだとこの前みたいに食事や
困った時に相談する事ができない。
何より宿泊費の問題もある。
理解のある女性の知人宅を頼る居候の案も考えたが
目に見えないものをどうやって説明するか
という問題がまず出てくる。
信頼関係以前に
さすがに怖がられてしまうだろうと思ったので却下。
なので残された方法はひとつ。
賃貸物件をオレ名義で借りて、そこで自活できるようサポートする。
ちょうどUNHEMでは、小さいサイズが欲しい人向けの『MINI』の商品を企画開発していたところだった。
エナは150cmほどのかなり華奢な体型で普通のXSでも少し大きい。
モデルとしては申し分なかった。
話を戻すが
要するに妖精の人間界独立化計画である。
リアル育成シミュレーションゲームだ。
親心が芽生えたのか
なんか異常に燃えてきて
エナを自立させられるようにしよう!と決意したのを覚えている。
その分仕事もガッツリしてもらうけどな(笑)
エナにも確認したところ快諾してくれたので
さっそく不動産屋巡り&部屋探しスタート。
最初の部屋は6畳の1R。ロフト付きでオートロック付き。
姿が見えないので防犯面の心配は普通より少ないものの
部屋全体が少し狭くて暗いかなという印象を受けた。
キッチン・風呂・トイレ・リビングと見るものすべてが新鮮で楽しかったんだろう。
エナは終始キョロキョロして落ち着きがなかった。
妖精界ではどんな家に住んでたか聞いてみると
意外な答えが返ってきた。
エナの住んでいた国フェアリアでは
自然の影響をモロに受ける環境だったので
台風や天災などが来てもすぐに移動出来るよう
皆、小さくて簡単な、繭のように包み込むハンギングチェア型の部屋に住んでいたようだ。
まずは木の枝を集めてきてそれらを建築魔法で絡み合わせて組みあげる。
強度を強め形が出来たら大木から吊るすように仕上げる。
ほんの5分ほどで完成する簡易なもの。
キッチンは共同で使用し、みんなそこで楽しくおしゃべりをしながら料理を作る。
たまに作ってくれたり逆に作ってあげたりしてみんなで食事する。
お風呂はなく水源が豊富にあった頃は湖で体を洗っていたので、家は夜静かに過ごしたり、寝るためだけの場所だったようだ。
なので狭い部屋には慣れているのだそう。
事情はわからないけど
せっかく妖精界からこっちの世界にきてくれたわけなので
おもてなし精神に火がついたのか?
もう少し日当たりがよくて広々とした家に住まわせてあげたかったのでこの部屋はやめる事にした。
希望を聞くと「お花さんが置けて自然光がたくさん入る部屋」が良いようなので不動産屋にその条件を伝えて探してもらったところいい物件があるとの事だったので次の物件へ移動する事にしたのだった。
最初の物件から車で10分ほど移動した先にあったのはなんとも洒落たデザイナーズマンション。
家賃+初期費用共に高めだが、洗練されたデザイン+家具・家電付きのお部屋。築3年。
まだ新しくて前に人が生活してた感がほとんどない。
しかも駅まで徒歩5分という好立地条件。マンションの1階にはコンビニまで完備されている。
まさに至れり尽くせりの物件だ。
将来的にエナが車に乗るイメージがまったく湧かないので「ここだ!」感は否定出来ない。いきなり2件目で当たりを引いちゃったか?と思ってエナを見てみるとピカピカの廊下のフローリングでくるくる回って気持ち良さそうに踊っている。この子って何なんだろう?根が明るいって表現が的確かはわからないけど、一緒にいるこっちまで明るくなる不思議な雰囲気を持っている。
クローゼットを開けたり閉めたり。玄関の靴箱を半開きにしては勢いよく閉めたりしてひとりで遊んでいる(笑)冷蔵庫もだったが、こういうの好きだなこの子(笑)しかもウォークインクローゼットを内側から閉めてしまい出てこられない事にひとりでパニックになっているエナ。良い意味で呆れてしまった......和む。
そしてついにリビングへと続く扉をオープン。
おお......これはすごい。182cmのオレでも思わず見上げてしまうほどの天井の高さもさることながら、特筆すべきはこの大きな窓4つ!採光性は抜群。エナの言ってたお日様の光がたくさん入る場所を完全にクリアしている。風通しもよく、玄関のドアを開けると心地よい風がベランダへと一直線に流れていく感じ。間取りもリビング10畳の1LDKと一人暮らしには最適な環境だ。
これなら花もたくさん置ける。これはもう出会っちゃったんじゃない?と聞くと(少し間があって)......こんなに贅沢なお部屋は持て余すだけだからな。せっかく探してくれたのにごめんね......と少し申し訳なさそうな表情で答えた。
フェアリアの妖精は水源不足に陥ってから村を構えるのをやめ、水源を探し続ける渡り鳥のような生活を送っていた。そのため、大きな荷物は持たず、いつでもすぐに動けるよう身軽な生活を送っていた。エナは綺麗な部屋や便利な生活を求めてるんじゃなく花やお日様を感じられる暮らしを求めている事がここで分かった。
改めて不動産屋に相談し、次の物件を見せてもらう事になった。ここまで来たら気が済むまで付き合ったらぁ!とオレも腹を括り、エナの部屋探しに全力で付き合う事にしたのだった。
最近、古民家を改装して貸し出しているお部屋があるのですが、いかがでしょう?と不動産屋の担当者、鈴木さんに提案される。古民家とは言っても、一棟をいくつかの個室に分けて貸し出しているので、専用のお部屋は8畳ほどの1Rです。お風呂と台所・トイレは共同になりますが、その分費用もぐっと抑えられますし、何より日当たりの良さは保証します。
目を輝かすエナ。これはもう行くしかないだろう(笑)
2件目の物件から車で20分ほど東へ移動した山の麓にその物件はあった。閑静な場所ではあるが、街からはだいぶ離れていて交通の便は少し悪かった。スーパーも歩いて30分くらいのところに1件あるだけ。
エナの反応は今までとは明らかに違っていた。何より共同スペースや木製の家屋は、エナの故郷のそれと共通点が多かった。
あと決定打になったのはやはり大きな窓から入る自然光。花を置けるスペースもたくさんある。部屋の中も昔ながらの古民家なんだけど、リフォームしたばかりで清潔感もあってとても綺麗だった。
利便性よりもずっと暮らしてきた環境に近い方が住みやすいのかもしれないなと改めてオレは実感した。おしゃれなコンクリート壁のデザイナーズマンションや暗い雰囲気の1Rとはまったく違う。オープンで古風で、どこか風情がある。妖精界を彷彿とさせるものが、この家にはあったのかもしれない。
レン......ここに決めて良い?
エナが決めたんなら、それが一番良い。ちょっと不便だけどそれでもいいんだな?
何度も頷く妖精さん。ようやく住む場所が決まった。契約はオレ名義ですることになり、あとは新生活の準備をするだけ。
さあ、ここからエナの新生活スタートだ。




