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SMALL TALK STORY  作者: 梨初
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1日目:出会い

まだエナの日誌は続く。


転移魔法リーヴによって人間界に飛ばされたエナ。


たどり着いたのは、ある小さな集落だった。


妖精王に渡されたトランクケースを抱え


周囲の様子をさぐっていると


集落の入り口から突如、2人の男が現れた。


驚いて家屋の隅に隠れるエナ。


しかし男2人が気づいている気配はない。


やはり学校で習った通り、普通の人間に妖精の姿は見えないようだ。


ほっと胸を撫で下ろす。


エナは入り口から恐る恐る村の中に入り


周囲の人の流れや状況を観察していると


集落の奥に外へと続く裏道を発見。


意を決してその道を進む。


しばらく進むと、見晴らしの良い曲がり道に出た。


遠くには山が見える。麓には灯りもあり、別の集落もうっすらと確認出来た。


この道を進めば、あの山まで行けそうだ。


妖精界での経験から、山さえあれば生きていけることをエナは知っていた。


山菜などの食糧は確保出来そうだ。


エナはボロボロの身体で山を目指した。


ひたすら裸足で山へと続くであろう道を歩き続けた。




「あっ!」




足には小さなガラスの破片のようなものが刺さり、傷口から血が滲んでいた。


異世界で完全にひとり。助けてくれる仲間どころか、明日の食糧すら手に入れられるかもわからない状態。


こんな小さなことでも


鉛のようにズシリと心に重くのしかかる。


世界に自分ひとりしかいない状況がどれだけ心細く不安か


形容する言葉はどんなに探しても見つからなかった。


と日誌には書かれてあった。


妖精界では、どんな状況でも他の妖精達を支えていたエナだったが


完全にひとりになるのは、生まれて初めてだった。


エナは聖人でも賢者でもない。


普通の女の子なのだ。


だが、妖精王や他の仲間達のことを考えても何もわからない。


エナは即座に思考を切り替え、ただひたすら前へと進み続けた。


考えてもわからないことは考えない。そう決めた。


悲観的な思考が出てくる度に


「わー!もー!あっちいけ!」


とぶんぶん手を回し追い払っていた。


5時間くらい歩いただろうか。陽もすっかり落ちてきた。


途中、見つけた山小屋で休息をとることにしたエナ。足の傷の手当てもしたい。


道の途中で見つけたイタミドリ草を手に取る。

葉を揉むと、淡い緑色の汁が滲み出した。

エナはそれを傷口へそっと塗った。

フェアリアでは傷の手当てによく使われていた薬草だ。


「……これなら大丈夫」


自然の中で暮らしてきたエナにとって、こういった知識は本当に役に立った。


しかし目を閉じると、崩壊したフェアリアの光景が何度も蘇ってくる。


エナはなんとか気持ちを落ち着かせ、少し眠ることにした。


疲労も心労も限界だったので眠ることは難しくなかった。




――朝になった。




山小屋の小窓から朝日が差し込む。


目が醒めるエナ。


と同時に昨日起きたことは夢ではなかったという現実を受け止めるエナ。


食料を確保しないといけないのですぐに準備し山へ向かう。


1時間ほど歩くとそこには驚くべき光景が広がっていた。




「川が流れている」のだ。




エナはその時の感動を日誌にこう記している。


水音を聞き、まずは自分の目を疑った。本当に川だ……衝動的に水を掬う。足の傷のことなんて忘れてしまうくらい、その水は冷たかった。


水を飲む・顔を洗う。当たり前のことが当たり前に出来てしまうことに、嬉し過ぎて笑いが止まらなかった。


フェアリアでは何百年も前から水源が減り続けていた。


水が枯れれば、また次の水源を探す。


湖や川など、エナにとって何世紀も見たことのないものだった。


こんな当たり前のことが、今のエナには死ぬほど嬉しかった。


エナは岩の上にちょこんと座り


川の流れる音を何時間も聞き続けた。




壊れるものもあれば新しく生まれるものだってあるんだ。


まだ終わってない。これからだ。




日誌から文字が飛び出してきそうな勢いで綴られていた。


――この川、オレもよく覚えてる。


エナのいた場所は観光客もよく訪れる観光スポットで、その中にオレもいた。


ああ……完全に思い出した。


オレはあの時その女の子のあまりの美しさに見惚れてしまい思わずシャッターをきり続けた。


他の観光客は川で遊んでいる女の子に気づいていないようだった。


なんとも不可解な状況だったのを鮮明に覚えている。


観光客達がトレッキングコースを進んでいく中、オレひとりがぼーっとその女性(=エナ)を眺めていた。


どれくらい眺めていたのか、自分でもよく覚えていない。

向こうは水遊びに夢中でこっちには気づかない。観光客のことを気にしてる様子もない。


過去に経験したことのない不思議な状況だった。


本当にこの女の子は実在しているのか、何度も自分の目を疑った。


何度確認しても写真には残っている。


そんな不思議な現象が理解出来ず、時間だけが過ぎていった。


ただひとりだけ異世界から迷い込んできたかのようなそんな感じだった。


この世のものとは思えない彼女の美しさを


撮り続けたいと思った。


しばらくすると、水遊びをやめ、どんどん川上に進んでいくエナ。そっちは立ち入り禁止エリア。


エナを止めようと追いかけるオレだったが距離があったのですぐに見失ってしまったが


森の中へ入っていくと、さっき見た美少女が大きな岩に座り


小鳥の囀りや森のせせらぎに耳を傾け何かを話している。


鳥や木々の声が聞こえているようにオレには見えた。


「あの……」


突然現れた人間の姿に驚くエナ。




「……もしかして……見えてる?」




「うん。見えてる」


「……わたしが?」


「見えてる。なんでかはオレにも分からないけど」

エナは信じられないという顔で、じっとオレを見ていた。

「それより、ここ立ち入り禁止なんだ。遭難すると危ないから戻ったほうがいい」

「……」

「あと……さっき川で写真撮った。勝手に撮ってごめん」



これがエナとの初めての出会いだった。



エナは人間界に飛ばされた翌日に、妖精が見える人間と出会っていたのだ。


初めは少し怯えているように見えたエナも、会話が進んでいくごとに少しずつ返事をしてくれるようになった。


「オレはレン。キミの名前は?」


なぜひとりなのか?ここで何をしているのか?などの込み入った話は聞かなかった。


直感的に深入りしてはいけないような気がした。


ただ、写真を撮らせて欲しいというお願いはした。


元々オレは趣味で写真を撮るのが好きで最低限の道具は揃ってたから


エナから了承を得られたこともあって撮影は順調に進んだ。


こんなに写真を撮るのが楽しいと思ったことはない。


この美しさを後世にも残したい。


こんな気持ちになったのは初めてのことだった。


撮影しながら会話も進む。エナが妖精であることと名前をその時初めて教えてもらって、その完璧な美貌の理由にも納得したんだった。


ぱっと見の姿形は人間。だけど、どこか何か人間とは違う神秘的な雰囲気があった。

自然光に溶け込むような真っ白い肌。一本一本が光合成しているかのように息をする髪の毛。

妖精だと聞いても不思議と驚かなかった。むしろ、それまで感じていた疑問が全部腑に落ちた感じだった。


時間はあっという間に過ぎていった。エナとの距離もかなり縮まった。撮影に夢中になって気づかなかったが、陽も落ちかけ森の中は暗くなってきていた。


撮影中の会話で分かったことだが、人間界に来たばかりで居場所も暮らせる生活環境も頼れる人もいないとのことだったので、モデルをしてもらったお礼に、ひとまず安心して過ごせる場所を用意することにした。


あの時の会話は今でもちゃんと覚えてる。


「オレは家に帰るけど、宿はとれるよ。今日はそこに泊まってゆっくりして」


と言うと、何も言わず下を向き、寂し気な表情でオレの服をつかむエナ。


「明日、本当に来る?約束ね?」そう小さな声で言った。


その日はエナだけ旅館に泊まらせ、シャワーや冷蔵庫など人間界のものの使い方を一通り教えて、翌日迎えにくるから、次のことは翌日考えようということで話はついたのだった。


オレは車で自宅に戻り撮った写真を眺めていた。


オレはプロのカメラマンになることに決めた。


エナとの出会いは、オレの人生を180度変えた出来事となった。

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