序章
これはエナが亡くなった後の話。
遺品整理をしていたオレは、一冊の古びた日誌を見つけた。
そこには、オレ達と出会う前のエナのことが書かれていた。
エナにはオレ達と出会う前に
一度故郷を失った過去があったようだ。
場所は妖精達が平和に暮らす国・フェアリア。
かつて穏やかな時間が流れていたこの世界は
長年にわたる天変地異によって少しずつ姿を変えていった。
そして突如M11クラスの
超規格外な地殻断裂。
瞬く間に妖精界は壊滅した。
生き残った妖精はごく僅かだった。
全員大パニックの中
ひとりだけ状況を瞬時に分析し
立ち上がったものがいた。
万物の頂点に立つ存在、クロムウェル・ルーズベルト(通称クロ)だ。
クロが何かを詠唱した直後、世界は被災する三時間前へと巻き戻った。
クロはその場に倒れ、意識を失った。
心配してクロに駆け寄ろうとするエナを妖精王が止めた。
「大丈夫。眠っているだけだよ」
そして王は、クロが何をしたのかを皆に伝えた。
禁術「時の支配者」。
一度しか使えないその魔法で、クロは上限である三時間前まで時を戻したのだ。
代償は――クロ自身の寿命の45%。
妖精王は、クロによって三時間前へと戻された
すべての妖精たちに緊急招集をかけた。
中には、ほんの少し前まで
死亡していた者も大勢いた。
彼らはそのことを知らない。
死んだことも
この穏やかな景色が、3時間後には跡形もなく消え去ることも。
妖精王は緊急非常事態宣言を発令。
転移魔法・リーヴを使って妖精達を外界へ飛ばすことを決断する。
3時間という限られた時間の中で妖精王が下したのは
「個々の命を最優先すること」だった。
妖精界中に点在する家族や友人を探し、集める時間はなかったため
避難地点へ辿り着いた者から順に
次々に外界へ飛ばされていく妖精達。
皆、状況をまったくのみ込めないまま、ただ王の命に従うしかなかった。
家族を探そうとして止められる妖精。
何を持っていけばいいか分からず荷物を詰めては出す妖精。
残されたわずかな時間で出来ることは限られていたのだろうと思う。
日誌の職業欄に書かれてあったが
妖精王直属の臣下、アリエナ・E・リヴァプール(=通称エナ)は
最後のひとりが外界へ飛ばされるまで
みんなに寄り添い続けた。
「わたしにはこれしか出来なかった」と日誌には書かれてあったが
こんな状況でも他人を支えられるところが
本当にエナらしいなと思わず笑みがこぼれてしまった。
エナの順番が来たその時
妖精王は「きっとおまえを救ってくれる」と言い
小さなトランクを渡し
リーヴを詠唱した。
「妖精王様は?!」
エナの問いに、妖精王は答えなかった。
「出来ればあっち(人間界)でも幸せに暮らしなさい」
それだけ言い残しリーヴを発動した。
「あの時の顔は決して忘れない……」
日誌にはそう書かれてあった。
言葉に出来ない想いがたくさんあったんだと思う。




