第11話 大魔導士との和解
「何の話でしょう?」
仲町はわかりやすく惚けた。
「ここから見てた。その、仲町が魔法を使ってる場面を。あれはどう見ても魔法だった。道具も持ってないみたいだし、他にないだろ」
「……気のせい、といっても誤魔化せない雰囲気ですね」
そう言って仲町は深々とため息を吐いた。
この反応は認めたようなものだ。どうやらマジで魔法使いだったらしい。
「柚希との会話も聞かせてもらった」
「盗み聞きですか?」
「わざとじゃない……けど、申し訳ない」
本当に盗み聞きしようとしたわけじゃない。この状況でいくら弁解しても無駄かもしれないが。
「怒っていませんわ。わたくしが龍崎君に怒るなどありえないことですから」
「仲町、話してくれないか?」
「……」
「俺の記憶のことも知ってるんだよな?」
「っ!」
仲町の目が見開かれた。
「待ってください!」
「えっ?」
「記憶の話は会話中もしていなかったはずです。誰から聞きましたの!?」
しまった。
うっかりしていた。柚希から記憶喪失の件は内緒にしてくれと言われていたのに、勢いで喋ってしまった。
「聞くまでもありませんわね。柚希さんですね」
「っ」
「図星ですわね。あの腹黒聖女!」
仲町は「チッ」と小さく舌打ちした。
「状況と反応から考えてあの看病の時でしょうか。そういえば、あそこから態度が少し変わりましたよね。クラスメイトに対する態度も軟化していました」
完全にバレてる。
「しかし柚希さん、秘密を喋ってポイントを稼いでいたんですね。急に仲良くなった理由はそれですか。まったく、油断も隙もないですわね。記憶に関する話をするタイミングは話し合いで決めるはずでしたのに」
いや待て、柚希とは仲良くないぞ。
普通にクラスメイトではあるけど、さすがにいきなり仲良しになれるほど俺は切り替え上手じゃない。
「こうなっては仕方ないですね。龍崎……蒼空君は記憶を失っています。当然ですが、わたくしもその事実を知っています」
「っ」
「柚希さんが抜け駆けしたのならわたくしもそれに続きます。ちなみに記憶を失う前はわたくしと蒼空君はそれはもう仲良しで毎日――――」
突如、世界が音と色を失った。
仲町が喋っているのはわかるし、俺の思考も普通に働く。それなのに、視界はモノクロになり、世界が固まったように何も聞こえなくなった。
「蒼空君!?」
気付くと仲町の顔が近くにあった。
「女神様が言っていた記憶の封印とはこういうことだったんですね。説明もできないとは、想像以上に厄介ですわね」
「……記憶を封印したのはマジで女神様なのか?」
「恐らく」
「どういうことだ?」
「わたくしには神々のお力などわかりませんから。女神様からそう聞かされているだけですわ」
なるほど、それはそうだ。
意識がはっきりしてきたので仲町から離れる。体も頭も正常に動く。特に後遺症とかもなかった。
「柚希さんからどこまで聞きました?」
「俺が記憶喪失になっていること、クラスメイトの変貌っぷりもその記憶に関わっていること、柚希や仲町が妙に友好的なのもそれが影響していること、聞いたのはそれくらいだ。それ以外の話は今みたいな状態になって聞けなかった」
あの時は風邪でぐったりしていたし。
「ついでい言うと、俺がこの公園に戻って来たのは影が気になったからだ。あの影は記憶を取り戻す手がかりだと思った。あれは記憶を戻したい派の天城が俺に見せようとしていた奴だから」
素直に全部話した。
さて、仲町はどう反応する?
身構えていると、仲町は小さく首を振った。
「……無理する必要ないと思います」
「どういう意味だ?」
「記憶を取り戻す必要はない、と言っているのです。わたくしは蒼空君に記憶が戻ることに反対していますから」
「っ、何故だ!?」
記憶を取り戻したい。
何があったか知りたいし、いきなり豹変したクラスメイトのことも知りたい。俺だけが知らないのは嫌だ。
「失った記憶の中には嫌なことも多くあります。わたくしとしてはそういった嫌な記憶を思い出さず、普通に暮らしてほしいのです。単なる高校生として」
嫌なこと?
薄々事情があるのは気付いていた。柚希も中立派だった。恐らく、俺の記憶の中には何か爆弾みたいなものがあるんだろう。
「それでも知りたい。協力してくれないか?」
「……」
迷っている様子だ。
「なら、協力と言わなくても実験に付き合ってくれ」
「……実験?」
「女神様の力ってのが気になる。どこまで記憶のことを話せるのか試してみたい」
「絶対に反対ですわ!」
「っ、何故だ?」
「先ほどは一瞬気を失った程度ですが、もしかしたら次はもっと長く意識を失っている可能性があります。最悪、永遠に目覚めない可能性もあります。蒼空君に危険が及ぶことに協力はできません」
危険か。
正直、そこは否定できない。俺は女神様とか覚えちゃいないし、その女神様が善なのか悪なのかもわからない
「だったら、俺の質問に答えるのはどうだ?」
「それは――」
「仲町の使っていたアレは魔法か?」
間髪入れずに質問した。
「その質問が最後ですわよ。あれは確かにわたくしの魔法です……あら、これは答えられますのね」
答えた仲町がビックリしている。女神様の判定がわからないな。
「じゃあ、その魔法をどこで――」
「……」
仲町は両手で耳を塞ぐと、その場でしゃがんだ。
「最後と言ったはずです。わたくし、蒼空君にお願いされると絶対に断れません。だから、何も聞こえないようにします。質問には答えたくありません」
これは質問しても無駄そうだな。
……ただ、あの力が魔法なことが確定した。
ってことは、失った記憶はまさかのファンタジー系だったりするのか?
魔法を認めるってことは、女神様とか魔物の存在もありえることになる。そして、あの影は魔物だったらしい。すべてが判明したわけじゃないが、繋がってきた。
「――ところで、蒼空君!」
考えていると、立ち上がった仲町は距離を近づいてきた。
「な、何だよ?」
「わたくしを嫌っている理由をお聞かせください」
「えっ」
「この機会に聞かせてもらいます。わたくし、蒼空君に嫌わているのがどうしてもガマンできませんの。あれだけ仲良くやってきたのに、こっちに戻ってきてから急にこれでは頭がおかしくなります。蒼空君不足で倒れてしまいます。早く抱きしめてくれないと、そろそろ禁断症状が出てしまいます」
俺不足って何だよ。
というか、その記憶がこっちにはないからな。仲町と仲良くしている自分の姿を想像できない。良く知らないけど、抱きしめていたのか?
「……一緒の中学だったのは覚えてるよな?」
話してみようと思った。
ここまで仲町と会話したが、こいつからは以前のような敵意とか悪意を感じない。むしろ好意すら感じる。本当に別人と話している気分だ。
「もちろんですわ。同じ中学出身というのは素晴らしい響きですわね。この広い世界で中学生の頃に出会う。これはもう運命ですわ」
「運命はどうでもいいが、同じクラスで隣の席になったことがあっただろ。そこで毎日イケメンと比較して馬鹿にしてきた。覚えてないか?」
「……へっ?」
俺の言葉に仲町はビックリしていた。
「何度もおまえに馬鹿にされた。ほら、俺と同じ名前の奴がいただろ。あいつと比べて劣っていると言ってくれただろ」
忘れもしない。あれは屈辱でしかなかった。
仲町は完全にフリーズした。「わたくしが?」とか「同じ名前?」とか「蒼空君以外の蒼空君とか知らない」と言っている。全然覚えていないみたいだ。
これも柚希と一緒だな。
俺に対して興味がないのか、と怒りそうになるが多分これは違う。恐らく失った記憶に関係している。
しかし、たった数日でこれがありえるのか?
何年もどこかで生活して全部忘れてしまったみたいな印象を受けるが。
「っ、思い出しましたわ!」
「ビックリするから大声はやめてくれ」
「あの件について説明をしていない状態でしたか。なるほど、わたくしに対する感情が悪いはずです。これは失態ですわ」
仲町は頭を下げた。
「言い訳をするのは簡単ですが、誠実に謝らせていただきます。ご不快な思いをさせてしまったこと、申し訳ありません」
「……理由を聞いてもいいか?」
「くだらない命令ですわ」
「命令?」
「わたくしの姉です。血は繋がっておらず、昔から仲が悪かったのです」
そういえば、姉がいたな。
年齢は一つ年上で、同じ中学に通っていた。
「姉は昔からわたくしに嫌がらせをしていました。蒼空君に対してあのような発言をしたのも、姉から隣の席の男子に嫌がらせするよう言われたからです。ちなみに、蒼空君以外の人にも似たような嫌がらせを強要されたことがあります。当時のわたくしは弱く、姉は柄の悪い方々と仲良しだったので反抗できませんでした」
「……じゃあ、俺のことが嫌いとかそういう感情はなかったのか?」
「全然なかったですね。正直に言うと、当時は蒼空君に対して興味もありませんでした。誰かと比較して馬鹿にしていたのは蒼空君を貶す材料がなかったからです」
そのクソみたいな理由のせいで俺は長年嫌な思いをしたってのかよ。
しかし、振り返れば納得もできた。
俺とイケメンを比較していたが、別に仲町はそいつに惚れているとかではなかった。ただ一方的に俺を貶めただけだった。
「ご安心ください。姉は既に排除しました。肉体的にも精神的にも追い詰め、現在は廃人同然です。こちらに戻ってから真っ先に遂行しました」
排除とは物騒な言葉だ。
「えっと、でも大丈夫なのか。柄の悪い奴とつるんでるんじゃないのか?」
「大丈夫ですわ。今のわたくしと戦える相手は世界中でも片手で数える程しかいません。その中でも確実に勝てる存在など――」
どうして言葉を止めて俺を見るのだ。
「わたくしに対抗できる相手というのも全員仲間です。クラスメイト以外の人間がいくら武装して束になって挑んできても勝負になりません。ですので、あの愚か者が誰を連れてきても一瞬で片付きます」
えらい自信だな。
まあ、魔法があれば人間に恐怖することはないのか。あの炎をぶつければ誰だって一瞬で炭になるだろうし。
「先ほどの話は本当ですわ。姉からも証言させます。それで気が済まないようなら、姉をその場で黒焦げに――」
「わ、わかったから物騒なのは勘弁しろ」
恐ろしいこと言うなよ。
「では、謝罪を受け入れてくださいますか?」
「……言っとくけど、急に仲良くとかは無理だからな。おまえは覚えてなくても、俺はしっかり覚えてるわけだし」
「はい。これから全力で挽回していきますわ」
笑顔は可愛かったが、さっきの発言のせいで少し怖い。
とにもかくにも仲町と和解した。しかし、それ以上に気になっていた。
記憶喪失になった俺は、あれだけ嫌っていたはずの柚希や仲町と楽しくやっていたみたいだ。抱きしめるという発言もあった。失った記憶は何なのだろうか。
サブタイトルは適当です。




