20ー4 高額お年玉と少し早めの啓蟄
2003年の『マジカルシャドウ』は1月4日の土曜日から。しかも午後1時から営業だよ。誰だよ土日も1時から営業しようって言いだした女は!
「みなさん、明けましておめでとうございます。『マジカルシャドウ』と『ピンクシャドウ』の対決は私たちが勝ちました!」
開店前のミーティング。店長の新年のあいさつだ。今日は特別に出勤者全員が集まっている。
なんか反応が薄い。ここは割り込もう。
「社長から賞金が出ました」
ざわざわ……ざわざわ……。
「みんなに、配りまーす!!」
わぁっ! ええええっ!! やったーっ!!!
「じゃあ、絵里奈さん、お願いします」
「お、おお……。え〜、名前を呼ばれたら取りにくるように。まずは、アサギ……」
売り上げなど貢献ポイントに応じて金額を分配してある。というか社長と二人で計算して封筒に分けたのよ。
「沙希」
「ハイっす」
封筒をもらった沙希が中身を見る。顔を上げて左右を見回した。リアクションに困っているね……。
「あ、アオイっち、いいのか、こんなに?」
「がんばった報酬だよ。胸を張って受け取って」
「そうなん!? あざーす!」
沙希っぽの封筒は43万円。沙希っぽって、なんか知らんけど人気あるのよ。ウチの売り上げ第5位。わりと雑な接客なんだけどなぁ……。
村人Bことボーイの翔太くんと封筒の中身を見せ合っている。翔太くんの中身は30万円だ。キャスト以外も店長と絵里奈さんには50万円ずつ、ボーイの二人にも30万円ずつ配ったからね。
「そんなに多いのぉ!?」
「あへぇ~っ!」
「うぎゃぁぁ」
あっちではユリア、ハヅキ、ルアカ、ナツコと茶髪が封筒の中身を確認しあっていた。茶髪は遅れて加入だからともかく、ほかの同期4人ではユリアが頭ひとつ抜けている。
今までウチの店では個人の売り上げランキングを発表してこなかった。臨時ボーナスという思いがけない形で、自分たちのランキングがわかって困惑しているのかも?
彼女たちも、なんとなくユリアが人気なのは感じていただろうけど、ボーナス額で10万円も差がついているとは思ってなかったろうね……。
「アオイさん、いくらもらったんですか?」
「教えてよ、アオイちゃん」
聖羅と杏奈っちがやってきた。ウチの店のアイドルユニット、なんたら娘のメンバーとしては封筒の中身が気になるよね。
「ほい」
二人に私の封筒を渡す。中をのぞいて聖羅が、怪訝な表情を浮かべた。
「私とそんなに違わない?」
「なんか、意外……」
「これ額面上の支給額は100万円なんだけ、私の年収だと源泉3割引かれちゃうのよ」
「そうなの?」
「そうよ、聖羅も杏奈っちも高給取りだから、次の確定申告を覚悟しておいたほうがいいよ」
「「うわぁ……」」
まあ、本当は違うんだけどね。ウソも方言って言うズラよ。私が自分の取り分を減らして、ほかの子に多めに付けたなんて知ったら気を使わせちゃうじゃん。私はお金の代わりに社長にイロイロ要求するから、自己犠牲や美談じゃないのよ……。
◆◇◆
「よお、アオイ、あけおめ~」
「あけおめ、キヨミヤ……って、何、その格好?」
営業初日からキヨミヤが子分を連れて来てくれた……んだけど、唐草模様の半纏? お祭りで神輿でも担ぎそうな姿だ。
「ああ、これか。ウチの店で獅子舞をやるんだ。正月だろ?」
「獅子舞? キヨミヤがやるの??」
「こういうのはリーダーが率先してやるもんだぞ、アオイ」
「いや、キヨミヤさんは自分がやりたいだけで……」
カナメくんだったかな? キヨミヤの子分が呆れ顔をしている。こっちが事実だな、間違いない。
「おお、そうだ。クリスマスカード、ボロ儲けだったよ! ありがとうな」
「どんな儲け方をしたのよ……」
「特性クリスマスボトルにカードを付けたんだ。サインとメッセージ付きでな」
「1本10万です」
「……いつか刺されるよ、キヨミヤ」
私もアコギな商売をしていると思うけど、レベルが違うのがいたよ。キヨミヤにくらべたら、まだまだ私は善人の域を出ていないと思う、たぶん。
「じゃあ、俺らは行くわ。獅子舞のリハもあるしな」
1セットでキヨミヤ一行は撤収。正月早々、顔を見に来てくれたんだ。ありがたいね。
エレベーターホールまで見送る。
「ありがとうね、キヨミヤ」
抱き着いて、いちゃいちゃしてたらエレベーターのドアが開いた。エレベーターから降りて来たコートの男性が、露骨に顔をしかめる。ウチに来たお客さんかな?
「あ……いらっしゃいませ」
とっさにキヨミヤと離れて頭を下げた。コートの男性は応えることもなく、店に入っていった。小さなビルだから仕方ないけど、エレベーターホールが狭いんだよね。
「あの男……」
キヨミヤは男の背中をにらむように見ていた。腹が立ったのかな? あまり怒らないキヨミヤにしては珍しい。気になるね。
「ふっ……じゃあな、アオイ。正月だからってハリキリ過ぎるなよ」
「キヨミヤも獅子舞すべってケガしないでね」
「姐さん、お気をつけて」
「キヨミヤをお願いね、カナメくん」
エレベーターを見送って店に戻る。キヨミヤたちが帰ったあとも、大忙しだった。
年末の勢い、そのままどころか、さらに加速している気さえする。明日、日曜日も昼の1時から営業。日曜の営業を提案したの、どこの女だよ。全然休めないじゃん!
「あ、アオイさん、ちょっと……」
「どうしたのよ、ケイ?」
指名のお客様が途切れて少し休憩していたら、茶髪が話しかけてきた。
「ちょっと変な人がいたんです」
「変な人?」
「ウチの店って基本的にゲームやアニメが好きな人が来ますよね?」
「うん。まあ、そうだね。前の店からのお客さんだと、アニメやゲームに興味がない人もいるけど……」
キヨミヤとか、まっくんが、そうだね。
「あ、ほら、私だと夜遊び情報誌や夕刊紙にも出てるから、そういうのを見てくるパターンかも?」
「今日の人は誰かの指名というわけでもないんです」
「なんか話はしたの?」
「はい。不満はないか……とか、もっと稼ぎたいか……とか、そんなことを」
「それは……引き抜きじゃないの?」
「私も引き抜きだと思ったんですけど、冷静に考えて私を引き抜くと思いますか?」
「だよねぇ……引き抜きっていったら、もっと売れている子とかに話をするもんね。ほな、引き抜きとちゃうか……」
なんか漫才っぽいやりとりになってしまった。でも、何が目的なんだろう? ただの変なオジサンかなぁ……?
「私から店長には報告しておくよ。もし、また来たら教えてね」
「はい……」
お正月は「新春」というけれど、変な虫が湧くほど春じゃないと思うのよ。なんか胸騒ぎがする。困ったことにならなきゃいいけど……。
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