20ー2 お正月は社長と過ごそう!
「あけましておめでとう、アオイくん」
「あけおめです、社長」
1月2日。西新宿の雑貨屋の3階。ウチの会社の事務所に来ている。
「で、今年も福箱を買ってきたのかね?」
「もちろんです!」
1月2日といえばヨドバシカメラの初売りだ。
臨時収入があったので10万円のノートパソコン福箱も考えたけど、去年買おうと思っていたAV福箱にした。
「それでは開封の儀、始めます。なんか欲しいのあったら、社長にあげますよ」
「それはうれしいな。去年もらったシェーバーは具合がよかったからな……」
「あっ、使ってるんですね、社長」
「当たり前だろ。アオイくんにもらったものだからな」
律儀な人だな、社長も……。
箱を開けて、中身をデスクに並べていく。携帯音楽プレーヤーに電子辞書、謎のケーブル、電池、やっぱり入っているマッサージ器。
「ハンディマッサージャーか」
「電マですね、これ」
「いいじゃないか、肩こりに効くぞ」
欲しいけど……持って帰ったら美由ちゃんに悪用されるよね?
「事務所に置いといて使いましょう」
「いいのか? 俺も肩こりするから助かるなぁ」
それよりも本命の音楽プレーヤーだ。
「なんだこれ? パソコンに挿すUSBみたいだが……」
「これは携帯音楽プレーヤーです」
「ああ、iP〇dとか、そういうやつだな。こんなに小っちゃいのか! どうやって使うんだ?」
「パソコンのUSBに挿して曲を入れるんです」
「曲はどうするんだよ?」
「やってみましょうか? なんかCDあります?」
「このCDでいいか?」
昔の洋楽詰め合わせみたいなCDを渡された。深夜の通販番組で売ってた気がする、80'sベストヒット。世代なんだね、社長。
パソコンのCDドライブに読ませて取り込んでいく。令和じゃ配信が当たり前だけど、わが家に膨大なCDがあったからね。このあたりの取り扱いは手慣れているのよ。
曲の移動が終わった音楽プレーヤーを社長に渡す。
「はい、社長、できました。聴いてみてください」
「お、おおう……。そうそう。年賀状が届いていたんだ。アオイくん宛は分けておいたから、渡しておこう」
音楽プレーヤーと引き換えに、年賀状の束を受け取った。けっこうな枚数がある。
「再生ボタンってこれか?」
ヘッドホンを耳に入れた社長が、ピッとボタンを押した。
「うん、音質は悪くないな。ボリュームは……」
社長は趣味のミュージックの世界に入ってしまった。
仕方ない、年賀状でも読もう。
当たり前だけど、あて先は『〒160ー00xx 東京都新宿区西新宿7ーxーx 株式会社郷田商会 社長室付き企画経営補佐 佐藤葵』。昼間の仕事の名前だ。
去年1年というか、4月から名刺を配りまくってたからね。もう「アオイ」よりも、こっちの名前のほうが顔が広くなったかもしれない。
おっ、パパからは会社の年賀状で来ている。『株式会社BAKIA 第三開発部主任 大工原真治』……って、主任になってるじゃん! 出世早いな、パパ。
小野寺唯史/依子。仙台からは今年も届いている。「葵ちゃんが、ちゃんと会社に就職したというのに娘の唯依は……」。なんか、いろいろと申し訳ない。
そのママの所属事務所・ケンスケプロダクションからの年賀状だ。所属一覧に「小野寺唯依」って名前があるね。仙台のおじいちゃん、おばあちゃん、心配しなくてもがんばっているよ。
で、ママからは来てない。声優「小野寺唯依」としては、ウチも大事な取引先だぞ。年賀状くらい出しておいたほうがいいと思う。そういうとこだから、ママ!
「アオイくん、いい時間だ。お昼でも行かないか?」
社長がベストヒットUSAの世界から帰ってきた。お腹すいたんだね。
「いいですね……でも、どこか開いてます? 2日ですよ、まだ」
「そこの喫茶店なら、やっていると思うぞ」
「はぁ……」
そこの喫茶店というのは、借金取りの田中さんと待ち合わせる店なのよ。あまり気はのらないけど、仕方ない。やっている店が少ないもんね……。
というわけで、すぐそこの喫茶店。空いていたので窓際の席に座った。
窓からは穏やかな新春の光が差し込む。小滝橋通りも、今日は車が少ない。
「のどかな正月なんだがなぁ……」
「荒れそうですよね、今年は」
「ああ……」
ミックスサンドをほお張りながら、社長の話を聞く。
ああ、そうだ、デザートも頼もう。最近、やせちゃったからね。ちょっとくらい食べ過ぎたほうがいいんだ、私は。店員さんを呼んでケーキを頼んだ。
「問題を複雑にしないで、ひとつひとつ切り分けたらどうですか?」
「切り分ける……問題を整理するか」
社長が腕組みをする。整理すると言ってみたものの、問題は山積みだからね。
「まず、美由ちゃんの件。これは引退シリーズ興行です」
「なんか言ってることがプロレスみたいだな」
「わかりやすい例えですよ……。二兎を追う者は一兎をも得ずと言います。最後は確実に儲けましょう」
だって引退なんだもん。最後は東京ドームを超満員札止めで、あいしてまーすだよ!
「ミユくんが抜けたあと『ピンクシャドウ』はどうする?」
「ガラッと変えましょう。いい機会です」
「どう変えるんだ?」
「たぶん、もうひとつの社長の不安要素とも関係しています」
店員さんがケーキを持ってきた。今日のケーキはベイクドチーズケーキだ。
さっそく一口。ほど良い甘さ。美味しいね。
「キャバクラに戻してもいいんじゃないですか?」
「えっ……?」
「私が以前働いていた店は、過激な接客内容が問題になりました。その基準でいくと、VIPルームはアウトです。おチン棒扱きとか営業停止になりますよ」
「そんなことしてるのか?」
「私はしてませんよ、一部の人です」
「そうか……アオイくんは、やってないのか」
VIPの内容を社長は知らなかったんだ。これはピンク店長の差配なのかな? 社長と情報共有してないのは組織として問題だと思う。
「今の『マジカルシャドウ』なんて、めちゃくちゃソフト路線ですよ。面倒くさいコスチュームだから脱ぎませんし……」
「たしかに、いちゃいちゃできるキャバクラだな、あそこは」
あっ……「いちゃキャバ」って聞いたことある。セクシーパブが取り締まり強化でソフト路線になったのが、いちゃキャバなのかな? だとしたら、この方向で正解?? あ~、こんなことになるなら、令和の最新水商売を勉強しておけばよかった。
「そのへんは、店長2人や絵里奈さんを入れて、しっかり話し合いましょう」
「そうだな……絵里奈くんも身内になりそうだし、会議に呼ぶか」
絵里奈さんは郷田一族入りか……。マジカル店長は、いい相手だと思う。顔が怖い以外は普通の人っぽいもんね。
店員さんがセットの飲み物を運んできた。社長はコーヒーまでアメリカンだ。ほんとアメリカ好きなんだから。あ、私は紅茶だよ。健康と美容のために食後に一杯の紅茶。優雅に紅茶を飲みたい人は、早く引退したくても引退できないものなのよ……って引退だった、引退!
「あっ、そうだ……引退記念グッズを作ったら売れますよ」
「やれやれ……商魂たくましいね、アオイくんは」
私はいつでも、燃える商魂! 現金ですかーっ!
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