19ー4 マジカルシャドウ大勝利! 希望の未来へレディ……ゴーできないかも!?
『マジカルシャドウ』のバックヤードで私は伝票をパソコンに入力している。
12月25日の営業終了後。すでに日付が変わって26日だ。勝負を仕掛けたクリスマス期間の売り上げが今日でわかる。
「アオイ、集計出たか?」
「はい、今日が88人で212万です」
「20日から今日25日までの6日間のトータルは?」
「クリスマス期間の累計は802人、1902万3000円でした」
「さすがに2000万はいかなかったか……」
「いや、絵里奈ちゃん、すごい数字ですよ、これは!」
さすがに店長は数字を把握している。私も表計算ソフトの数字を見ながら震えが止まらない。今日の時点で12月の売り上げが4500万円を超えているのだ。
「あと、木、金、土。3日間です。超えますよ、5000万」
「そ、そんなにいくのか、店長?」
「超えると思います。ねえ、アオイさん?」
あ、私に振られた。数字に強そうに見えるのかね、私? 社会科学部で文系なんだけどなぁ……。
「ウチの平均は平日で100万、金曜で150万、土曜で250万。これだけでも500万円です。年末需要を考えると、2~3割は増えるんじゃないですか?」
「おおおおっ、いけるぞ、店長!」
「絵里奈ちゃん!」
店長と絵里奈さんが飛び上がって抱き合った。
強面の中年男性とアラフォー女性のウキウキキャッハを目の前で見せられた私の心境を答えよ。100字以内で。
「あぁ……盛り上がっているところ、すみません。一応、年末最終営業の28日まで『ピンクシャドウ』との売り上げ勝負が残っていますので……」
「ん……ああ、失礼しました。残り3日、気を引き締めていきましょう」
「そうだな、がんばっていこう、アハハハハっ……」
やれやれ……邪魔者は先に失敬するよ。
まあ、そんな気はしたんだよね。だって絵里奈「ちゃん」だもん。
あっ……社長が社内恋愛OKだって言ったのは、そういうことだったんだ! なんだ……社長は気づいていたのね。いいところあるじゃん、社長。
「お疲れ様です。お先に失礼しま~す」
ささっと、逃げるように退出した。
あとは二人で、ラブラブ天驚拳でも決めてくれ。
◆◇◆
『マジカルシャドウ』も『ピンクシャドウ』も28日の土曜日が仕事納め。29日から年末年始休業に入った。お休みだよ、お休み。やったね!
ただね……ウチの店の休みは1月3日まで。1月4日は営業なのよ。美由ちゃんたち『ピンクシャドウ』は6日の月曜日からなのに、ウチは休みが短いよ。イッテンヨン行けないじゃ~ん!
「葵ちゃん、5日の昼過ぎには帰ってくるから」
「おみやげは、いらないよ~」
「火の元には気を付けてね。いってきます」
12月29日の朝、まだ外は暗い。5時前だもん。
コロコロのついたスーツケースを引いて美由ちゃんは出かけていった。美由ちゃんは朝イチの飛行機で山口県の宇部空港に飛ぶ。広石さんの実家に行くんだって。最終面接みたいなものかな? 結婚したことないいから、よくわからないね。
二度寝して起きたら9時過ぎだった。
美由ちゃんのことは一旦おいといて、会社の事務所に行こう。なんとなく始まった謎のイベント『ピンクvsマジカル どっちのシャドウショー!』。きっちり賞金出させないとね。それ以外にも、いろいろ社長と話しておかないとならんのよ。
事務所に行ったら、社長が新聞を読んでいた。社長も年末年始は関係ない人だ。
「いやあ、大盛況だったねアオイくん。僅差だったけど『マジカルシャドウ』が勝ったよ。おめでとう」
「おかげさまで」
社長の目の前、マイデスクに座る。席が近いのは便利だけど、近すぎるのも考え物だ。
「驚かないのか?」
「身内ではありませんが、内部事情を知っていますから……。それよりも、賞金ですか? 賞品ですか? ちゃんと出してくださいね」
がんばったんだから、勝者には報酬が必要だよ。いくら出すのか不安だけど、そのへんはケチらないでほしいね。
「わかった。金一封を出す。年明けにお年玉として配ってくれ」
「ありがとうございます」
「なあ、アオイくん……」
社長が読んでいた新聞をデスクに置いて、私の顔を見た。
「『ピンクシャドウ』なんだが、12月の売り上げが期待したほど伸びなかった。理由はなんだと思う?」
「銃撃事件のあと、歌舞伎町全体のお客さんが戻り切っていないんだと思います。別に歌舞伎町じゃなくても繁華街はありますからね……」
六本木、池袋、渋谷、上野……東京には繁華街がいくつもある。私が通っていた大学近くの高田馬場にさえ栄通りという小さな繁華街があった。わざわざ危険な歌舞伎町に足を運ぶ必要はないのよ。
「でも、『マジカルシャドウ』は繁盛しているだろう? あのビルなんて事件現場のすぐ近くじゃないか……」
「それはウチが……おそらく日本に1軒しかない特殊な店だからでしょう。ちょっとくらい歌舞伎町が怖くても、お客さんは来てくれるんです」
尖ったコンセプトだからね、ウチの店。ちょっとエッチなコンカフェみたいな? 調べた限り都内に似たようなお店は存在していない。まあ、ウチの店が当たったのを見て、どこかがマネしてくるとは思うけどね……。
「なるほどなぁ……一応、歌舞伎町の治安については対策が進みそうだよ。来年度、4月から歌舞伎町のハイジアビルに警視庁の組織犯罪対策部が入ることが決まった」
「えっ……?」
あれ? それ、なんかで……あっ、ゲームだ。「神室町3K作戦」だったかな? あ、そうか、銃撃事件からつながっているんだ。今の時期をモデルにしているとしたら……。
「都知事が動いたんですね?」
「早耳だね、アオイくん。都知事が歌舞伎町の取り締まりに本腰を入れるそうだ」
「始まるんだ『歌舞伎町浄化作戦』が……」
ゲームの知識が、どこまで事実を反映しているのかわからない。でも、これから歌舞伎町の店に対して取り締まりが強化されるのは確実だ。セクシーパブの人気も、そろそろ終わりなのかもしれない。
希望の未来どころじゃなくなってきたよ〜。
明るい未来が見えません!
見つけろ、テメエで!!
そう言われても、どうしろって!?
2003~2004年は歌舞伎町だけなく、東京の繁華街全体の大きく変革期でした。急成長してきたセクシーパブも転機を迎えます。
葵(碧唯)たちに、明るい未来はあるのでしょうか? 気になります。
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