19-3 クリスマスだよ、あざとい商売!
12月も半ば。『マジカルシャドウ』のバックヤードで、マジカル店長と絵里奈さん、私はカレンダーを眺めている。今年(2002年)のクリスマスの日程だ。
20日(金)、21日(土)、22日(日)、23(祝・月)、24日(火)、25日(水)。
「ここだな……店長」
「土・日・祝。昼1時からが三連続でキツイですが、ここが勝負どころです」
「何か策はあるか、アオイ?」
「あります……来店者特典を配りましょう」
「来店者特典?」
「クリスマスカードです」
テーブルにサンプルを並べる。とりあえず手元にあった私の写真でデザインしてみた。全6パターン、日付入り。店に来る前にカメラ屋さんでプリントしてきた。
「なんか年賀状みたいですね……」
「ああ、子供ができると送ってくるんだよな、イヤんなっちゃう」
思っていたリアクションと違うなぁ……。
「で、アオイ、これの何が策なんだ?」
「日付が入っているでしょ? クリスマス期間中、その日限定のカードを配るんです」
「なるほど、毎日もらえるカードが違うなら来店動機になりますね。私も雑貨の販売でやったことがありますよ」
マジカル店長は吉祥寺の雑貨店からの異動だったね。こういうキャンペーンみたいなことも、よくわかってるみたい。絵里奈さんはピンときていないようだけど、効果あるのよ。ネットで叩かれるくらいには……。
「なあ、アオイ、このクリスマスカードって、1枚いくらなんだ? ポートレートみたいに1枚800円だったら高くて配れないぞ」
「1枚80円です」
「ああ……だったら配ってもいいか。エビで鯛を釣るって言うしな」
お寿司屋さんだと、高いんだよねエビ。あと私、エビフライが好きなのよ。
「アオイさん、実際のカードの写真はサンタの衣装になりますかね?」
「はい、谷中衣装さんに問い合わせしました。既製品なら在庫があるそうです」
「女の子たちには早めに出勤してもらって、撮影を組みますか……」
「カメラマンの小山さんの空きは確認してあります」
「そういうことは手が早いな、アオイ」
もともとクリスマス用のポートレートを撮影しようと思ってたからね。準備していたのよ……って、これも許可取らなきゃ!
「撮影したデータでクリスマス用のポートレートも作って売りましょう」
「いいでしょ、それも進めてください」
「おいおい……商魂ありすぎだろ、アオイ」
「おもしろいですね、アオイさんは。次から次へと商売のアイデアを思いつく。社長が可愛がるのもわかります」
う〜ん……社長に可愛がられても、仕事増えるだけなんだよなぁ。
まあ、いいや。とりあえず大急ぎで準備しなきゃ!
『来店者全員プレゼント』
『毎日変わるセクシー特典カード』
『コンプリート特典☆スペシャルBIGセクシーカード』
ホームページに告知を入れて、メルマガを送る。ブログにも書いておこう。あとは……なにすればいいんだっけ? もう、やることが多すぎ。
これだけ忙しけりゃ、そら耳のひとつやふたつ聞こえちゃうよね。働き過ぎかなぁ……。
◆◇◆
両手にずっしり、紙袋。店まで運んできたよ。ヨドバシカメラでプリントを頼んでおいたクリスマスカード。それとクリスマス限定ポートレート。これも各種プリントしてきたから枚数が多い。
「おお、アオイ、お疲れ」
「重かったですよ~」
ひぃひぃ言いながら店まで来たら、絵里奈さんが店の入り口で飾り付けをしていた。
「絵里奈ちゃん、入り口の飾り付けは終わったかな……っと、アオイさん!」
マジカル店長が出てきた。今日はトナカイのコスプレだ。こんな顔の怖いトナカイはイヤよ~。
「ああ、店長、クリスマスカードとポートレートを受け取ってきました。仕分けをお願いします」
「ご苦労様。みんなにカードを配りますね」
怖い顔のトナカイは紙袋を持って店内に戻っていった。
「おーし、こっちの飾り付け、これでいいかな」
「なんか、クリスマスっぽく見えますよ!」
商店街の歳末大売出しっぽいけど、にぎやかだからOKよ、OK!
「うんうん……。あとは、お客さんが来るのを待つだけだ。アオイも準備して」
「ほ~い」
私も着替えよう。
今日からのクリスマス期間中はサンタクロースのコスチューム。谷中衣装さんが揃えてくれたチェック柄のミニスカサンタだ。既製品だけど安物じゃないんだからねっ!
着替えていたら、開店の時間になった。
「よう、アオイ……って、サンタか?」
口開けの客は、キヨミヤと子分だった。子分は……カナメくんだったかな? キヨミヤの子分もいっぱいいるから、名前が覚えきれないのよ。
「かわいいでしょ?」
「スカート短かすぎだろ。サンタ協会から訴えられるぞ」
「サービスだよ、サービスぅ~」
クルッと回ってスカートひらり。パンチラなんてケチらずにモロ見せしたろうか? かかってこいや、サンタ協会! おっ…….と、大事なモノを渡さなきゃ。
「ほい、クリスマスカード。あっ、カナメくんにも1枚」
「あざーす、姐さん」
「なんだこれ?」
しげしげとキヨミヤがカードを見ている。
「来店者特典。毎日違うのを渡すから、毎日来てよ」
「毎日カードが変わるのか?」
「うん、ほら」
私の秘密兵器たちを収納しているクリアファイルのバインダーを広げた。
「えーと、これが1日目から6日目の来店者特典ね」
「この大きい写真はなんだ?」
「それは来店ポイントを集めたお客さんが交換できるスペシャル特典。3ポイントだと中サイズで、6ポイントだと大サイズね」
ポートレートを出して見せる。中はA5、大はA4サイズだ。
「なあ、アオイ、このクリスマスカードって、どうやって作るんだ?」
「デジカメの写真をパソコンでデザインして、ヨドバシに持ってけばプリントできるよ」
「プリント1枚いくらなんだ?」
「ハガキサイズだと80円」
「な〜るほど……これは使えるな。やっぱりアオイはオレの女神だ。おい、カナメ、できるかコレ?」
「自分は無理っすけど、マツオさんならパソコン得意なんで、できるかと」
キヨミヤがニヤリと笑った。悪い笑顔だ。確実に企んでいるね。
「わりぃなアオイ、今日は帰るぜ」
「えっ、もう行くの!?」
「ああっ、たしか9時までだからなヨドバシ。いくぞ、カナメ」
「はいっ!」
もうキヨミヤは立ち上がっていた。大急ぎでボーイさんを呼んだ。バタバタしながら会計よ。だって滞在時間15分で帰るなんて思わないじゃん。
「うまくいったらメシくらい、おごらせてくれ」
「期待しないで待ってるよ」
慌ただしくキヨミヤは去っていった。
キヨミヤよ、私の希望はエビフライだぞ!
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