19ー1 来年の事を言って鬼を笑わせよう
葵(碧唯)は何でもやります。
会社に一人いてくれると、本当に便利な人材です。
「ひどいじゃないか、マイハニー。僕を置いて行くなんて」
今日の『マジカルシャドウ』。カップルシートのお客さんは、まっくんだった。
何カ月ぶり? たぶん、この店では初めてだと思う。
うわぁ……来ちゃったよ。会いたくなかったなぁ。
「置いてったワケじゃないって。移籍が決まってから、お客さん全員に移籍するって伝えてたのよ。だいたい、まっくんが何カ月も来てないんだもん。伝えようがないじゃん」
「そうか……」
まっくんが最後に来たのって、2月くらいかな? たしか、ママの卒業公演の前だった気がする。
「10カ月ぶり? 質屋さんなら、質流れしているよ……」
「すまなかった。父が亡くなって、バタバタしていたんだ」
「あ…….ああ、それは大変でしたね。いろいろと……」
「いや、まあ、父といっても僕は養子だし。相続の件でバタバタしただけさ。なんというか、ようやく解放されたってところかな。こうしてまた、マイハニーを訪ねてこられるようになったよ」
なんか、よくわからないけど、複雑な事情があるんだろうね。
でも、私も複雑な事情じゃ負けないよ。複雑すぎて、人に言えないからね!
「それにしても、アオイ。この店は安いな。せっかく自由にお金が使えるようになったのに、これじゃ張り合いがないよ」
しばらく見ないうちに成金っぽくなったね、まっくん。だったら、遠慮なく売りつけてあげよう。私の秘密兵器、各種ポートレート満載のファイルを取り出した。
「じゃあ、ポートレート買ってよ」
「ポートレート……大判の写真か、これはいいな。晴れて一人暮らしになれたんだ。部屋にアオイを飾って愛でるとするよ」
「どれを買います?」
ファイルをめくって、ポートレートを見せていく。
「全部! 全種類を1枚ずつ買うよ」
「ありがとうございます!」
おおっ、太っぱら〜。初めて、まっくんを好きになったよ……少しだけね。
◆◇◆
12月3日。
123……数字の並びに闘魂を感じる今日は、私の誕生日。あ、私というのは佐藤葵じゃなくて大工原碧唯。本来の私のことね。
もちろんだけど、誰も祝ってくれない。普通に会社で仕事だよ……。
というわけで、私はパソコンに向かっている。やっているのはブログの代筆だ。
えっ、なんのブログかって? 『マジカルシャドウ』と『ピンクシャドウ』のキャストブログ。今日だけで10人分のブログを捏造したのよ……。最低でも週1で書けって言ったのに、まったく書かない人が多すぎて頭にきちゃう!
新宿近辺で適当にデジカメで撮った写真に、それっぽいメッセージをつけてアップしていく。令和のSNSで映え写真を上げてるのと、やっていることは変わらない。人類って進歩しないもんだね……。
「社長、やっぱり美由ちゃんが抜けたら『ピンクシャドウ』はキツいですね……」
「どうしたんだ急に?」
「このブログなんですけどね、『ピンクシャドウ』は書かない子ばっかりなんです。『マジカルシャドウ』の子はみんな書いてますよ」
「そんなに違うのか?」
「全然、違います!」
社長にノートパソコンの画面を見せた。
「なるほど……。『マジカルシャドウ』のほうは、ちゃんと日記っぽいのが多いな。写メか、これ? 女の子同士で撮ったのもあって、楽しそうな雰囲気が伝わってくるな」
「そのあたりは副店長の絵里奈さんの指導の賜物ですね。徹底してますから」
去年、ブログを始めたころ絵里奈さんに教えたのよ。「ブログはインターネット上に書く日記みたいなもの」、「プライベートをチラ見せして親近感を高める」って。がんばって書いてたもん、昭和脳の絵里奈さんが……。
「おい、この間、面接した茶髪も書いてるぞ!?」
「あ、『ケイ』ですね。もう、普通に指名獲ってますよ」
「グズってたクセに、ヤル気まんまんじゃねえか……」
社長が私の隣に来た。マウスを操作して『ピンクシャドウ』のブログを見る。
読み進めていくうちに、不機嫌な顔になっていく。怖いよ〜。
「自分で書いている子が少ないのもあるけど、アオイくんの代筆も雑だね」
「すみませんね〜。知らない子が増えちゃって、何を書いていいのかわからないんですよ。私が『ピンクシャドウ』を離れて4カ月ですもん……」
「わるかったよ。ごめん。でも、この子らは、なんでブログを書かないんだ?」
「美由ちゃんが集めたお客さんの、おこぼれを拾っているだけで稼げちゃうからでしょう。そんなの、がんばりませんよ」
「どうしたら、がんばると思う?」
「2000万くらい借金背負わせてみますか、私みたいに? がんばりますよ~」
「はっはっはっ……そりゃ、無茶だよ」
いや、笑うけど社長、けっこう真理だと思うのよ。私、借金を背負ってなかったら、この仕事をしていないもん。
「だが、アオイくん。ミユくんが抜けたらキツイという意味はよくわかった。ミユくんは、いつまで残ってくれそうだ?」
「いつまでか……わかりませんが、1000万くらいは貯金したいって言ってました」
「1000万ね、3月か4月ってところか……」
社長は頭を抱え込んでしまった。
仕方ないなぁ、頭をヨシヨシしてあげよう。あんまり悩んでハゲないようにね……。
「アオイくんは、借金を返したら辞めるつもりか?」
「う〜ん……正直、今はなんとも。その時が来たら考えます」
「キミには側にいてほしい。夜の仕事を辞めて、俺の隣にいてほしい」
「社長室付き企画経営補佐に専念しろと?」
「うん、まあ……そうだな。そういうことになるかなぁ……」
借金を返したあとか。ホントにどうしようかね? まあ、いいや。来年の事を言えば鬼が笑う。来年のことは来年考えよう。
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