18ー5 記念日と誕生日
11月30日。今日は土曜日。土曜は午後1時からの営業だけど、私は遅番。夕方からの出陣だ。
あっ、昼間だって遊んでいるわけじゃないよ。昼間は社長と事務仕事だもん……。
「アオイ殿、来ましたぞ」
「あ~バキさん、待ってたよー」
バキさんが来た。今日はメガネの則本くんがお供だ。
「今日も、お仕事だったんですか?」
「仕事でござった。一応、週休二日制なのでござるが……仕事が休ませてくれぬのでござる」
「お疲れ様でした」
バキさんの会社はモバイル系のIT企業だ。そりゃ、忙しいよね……。
いつものようにバキさんの隣に座る。則本くんには新戦力の茶髪……ケイを付けてみた。
「新しい子でござるか」
「ケイです。よろしくお願いします」
まだ専用衣装がないので、既製品の女勇者を着てもらっている。絶妙に安いっぽいのよ、ごめんね〜。
「バキさん、この子はね……ボーイで面接に来たんだけど、ウチの社長が口説いてキャストにしちゃったのよ」
「郷田殿が? それは有望でござるな……」
「ああ、そんな、そんな、そんな〜。ただ私、奨学金を返すならキャストになったほうがいいよって教えてもらって……」
おいおい……社長の話は、そんな穏便じゃなかったと思うぞ。ボロ泣きしてたじゃん。茶髪は歴史修正主義者かな?
「そういえば……ボーイといえば、則本もボーイに興味がござったなぁ……」
「えぇ……っと、僕ですか?」
話を振られて則本くんが、あたふたしている。
「ああ、そのボーイなんだけど、ちゃんと新人が入りましたよ。翔太く~ん!」
晴れて村人Bになった翔太くんを呼んだ。
「失礼します。お呼びでしょうか?」
「うん、翔太くん、カメラ持ってきて~」
「はい」
一礼して翔太くんは下がっていった。
「しっかりした子で、ござるな」
「年下なのよ……19歳」
翔太くんは、かわいい系の19歳。村人Aの島田くんも19歳だし、ウチの店のボーイは二人とも私より歳下なのよ。
「最近、歳下が増えちゃったなぁ……」
「アオイ殿は若いでしょう」
「来月、21歳です」
「12日が誕生日でござったな。忘れておりませぬぞ」
あっ、催促したみたいになっちゃった。茶髪が冷ややかな目で見てるよ。恥ずかし〜。
「お待たせしました。アオイさん、カメラです」
村人Bこと翔太くんが、チェキを持ってきてくれた。ナイスタイミングだよ。
「今日は、バキさんと出会って2周年の日だからね。記念にツーショットチェキを撮ろう。立って、立って、バキさん!」
「お、さようでござるか……」
「いえ~ぃ!」
バキさんに横から抱きついた。ちょっと戸惑っていたかな?
パシャ、ウィ〜ン……。
カメラから出てきたチェキを受け取る。
だんだん写真が浮かび上がってきた。バキさんが照れた顔で写っている。かわいい。
金色のペンでメッセージを書いた。
『ずっ友だょ』。
「はい、バキさん」
「かたじけない……ずっ友でござるか……」
「うん」
来年は3周年だから、劇場三部作でもプレゼントしようかな? 私はテレビ版のほうが好きだけど。
◆◇◆
「お疲れさまでした~」
「お疲れさま~」
12時を過ぎて、本日の営業は終わり。
「あ、絵里奈さん、これから『ピンクシャドウ』をのぞきに行くんですが、一緒にどうです?」
「あー、ミユの誕生日イベントか……。やめておくよ。私は明日、早番なんだ。早く帰って寝るよ」
「アオイ先輩、一緒に行っていいですか?」
着替えを終えたハヅキがやってきた。
「美由ちゃんの誕生日、興味あるの?」
「だって、歌舞伎町のセクパブで一番稼ぐ人でしょう? 興味あるじゃないですか」
「あ、だったら私も見たいです、一番稼いでいる人」
「私も!」
ユリアと茶髪も便乗してきた。
というわけで、臨時パーティを結成。区役所通りを歩いて『ピンクシャドウ』に向かう。深夜になっても人が多い。銃撃事件の影響で減った人出も、少しずつ回復しているみたいだね。
10階建ての大きなビル。久々の『ピンクシャドウ』だ。エレベーターで3階へ。エレベーターが何台もあるビルはいいね。『マジカルシャドウ』が入っている小っちゃなビルとは大違いだよ……。
入り口のドアを開けた瞬間、酒臭い。
さすがにもうラスト近く。空いてるだろうと思ったら、ほぼ満席だった。
「みんなーミユの誕生日に、ありがとう~。私のバースデーシャンパン残り3本でーす!」
真っ赤なキャバドレスに『本日の主役』のタスキ。今年のバースデーも美由ちゃんはハジけている。
「こっちだ!」
「俺にくれーっ!」
「こっちにくれーっ」
「僕だーっ!」
しっかり今年も荒れている。
たぶん……口移しで飲ませているんだろうね。そりゃ、取りあいになるって……。
「はい、はい、はい……じゃあ、じゃんけんターイム! 最初はグー! じゃんんけ~ん……」
おおおおおおっ……!
あああ……っ。
歓声と悲鳴が交差する。
「ミユのキスで口移し酒ぇぇ、飲めよーっ!」
うおおおおっ……うおおおおぅ……!
勝ち残った3人の前で、シャンパンを開ける。さすがに今年は小瓶になっていた。去年は普通の750mlだったからね。
『はーい、飲んで飲んで飲んで飲んで……』
やっぱり、口移しだ。シャンパンをラッパ飲み。グビっと口に含んで、お客さんに口移しで飲ませていく。
「アオイ先輩……私、怖い」
「ヤバいですよ、これ」
ハヅキと茶髪がビビっている。私も怖いよ、このノリは……。
午前1時。狂乱の宴も終わりの時間だ。
最後まで残ったお客さんたちを、美由ちゃんは一人ずつドア前でハグしながら送り出していく。
今年も壮絶イベントだったみたい。最後の30分くらいしか見ていないけどね。というか、こんな乱痴気騒ぎにずっと付き合えないよ〜。
「美由ちゃん、お疲れ様」
「あ゛あ゛……あ゛お゛い゛ぢゃ゛ん゛~」
声が枯れてる。美由ちゃん、燃え尽きてるよ。
「づがれだ~」
「はい、はい……ほら、着替えて帰ろうね、美由ちゃん」
座り込んでいる美由ちゃんを、立たせて着替えさせる。
「すみませんね、アオイさん」
「あ、店長。ご無沙汰しております」
ピンク店長に会うのも、久しぶりだ。
「アオイさん、イキましたよ、500万。新記録です」
「何本出たの、ボトル?」
「小瓶のミニシャンパンを1本1万で出して、100本完売しました。社長にじま……いや、伝えておいてください。まあ、私からも報告は入れますがね……」
ハヅキとユリアが目を丸くした。世の中、レベルが違うバケモノがいるのよ。
茶髪は……まだ意味がわからないか。ぽかーんとしている。
一晩で500万を売る女だもんね……。また美由ちゃんは伝説を作った。
「あうぅ~、葵ぢゃ~ん……」
いかん、美由ちゃんが完全酔っ払いモードになっている。寮まで連れて帰るのは大変だ。美由ちゃん重いのよ、デカいから……。
♪ツゥーニーセンジックアイロー おめでとーじーぶーん
ご機嫌なのか、やけくそなのか、よくわからない歌を口ずさんでいる。
酔っ払いの美由ちゃんを、なだめすかしながら、寮まで連れて帰ってきた。ベッドに連れていったら、そのままバタンキュー。前にもあったね、こんなこと。
日付け変わっちゃったけど、私も買ってあったのよ誕生日プレゼント。まあ、いいや。テーブルに置いておこう。起きたら気づくだろう。
美由ちゃんは、ベッドで寝息を立てている。
この寝顔を見られるのは、あと何カ月かな? なんだか急に寂しくなっちゃった。
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