18-3 喫煙事情とボーイの問題
2025年の日本の喫煙率は15.7%。若い世代はもっと吸いません。
令和の今、大学生の喫煙率は5~8%。令和の大学生だった碧唯の周りに、喫煙者はいませんでした。
それに対して、2000年当時の喫煙率は32.9%。
とくに職業女性の喫煙率は高く、水商売だと50%を超えていたとも言われています。
いろいろと2000年代に適応していった碧唯ですが、さすがに喫煙については適応できなかったようです。
「アオイ殿、その恰好は……?」
「すみません、今日の私は戦士じゃなくて村人なんです」
『マジカルシャドウ』の団体席。村人コスチュームの私はバキさん一行に土下座した。
「まあまあ、頭を上げてくだされ。いったいどうしたでござるか?」
「じつはボーイの島田くんが休みでして……」
問題が発覚した。店長と副店長。どちらかがいれば店は回る。それでシフト制にして交代で休むことにしたんだけど、ボーイが1人しかいなかったのよ。で、今日は村人Aことボーイの島田くんが休み。仕方ないから、私がボーイってワケ。
だって、ほかにデキる子がいないんだもん!
ほら私って『ピンクシャドウ』でボーイの中野くんや神林くんと仲良かったじゃん。普段から手伝ってたからデキるのよ、ボーイの仕事。
「これだけ繁盛しているでござる。ボーイも増やすべきでござろう」
「いい人、いませんかねぇ……」
「あの……アオイさん、どういう人がいいんですか?」
若手社員くん、えーとメガネの則本くんだったかな?
「20代前半くらいで丈夫な人。あとは、タバコを吸わない人」
「じゃあ、ウチの会社の若い社員は、だいたい当てはまりますね」
「うん……なんだ則本、アオイ殿の店に転職したいでござるか?」
「えっ、ま、ああ、そういうワケじゃ……」
「まあ、ウチの店じゃバキさんの会社ほど給料出せませんから……」
あれ、そういえば……バキさんの部下って誰もタバコを吸わないなぁ。タバコに火をつけた記憶がないし、灰皿を出した記憶もない。
「バキさんの会社って禁煙なんですか?」
「禁煙というわけではござらんが、拙者はタバコが苦手でござって、どうしても吸わない者ばかり採用してしまうでござる」
「そうだったんですか!」
うん、私も同じだ。タバコは苦手。というか、この時代の人はタバコを吸い過ぎだと思う。歩きながら吸っている人もいるし、危ないじゃん。
「アオイ、ごめん、オーダー入ったー」
絵里奈さんに呼ばれた。
そうそう、今日の私はボーイだったんだ。仕事に戻らなきゃ。
「じゃあ、バキさん。今日は私ヌキですみません。若いみなさん、楽しんでいってくださいね」
大急ぎで厨房に戻った。
生ビールも酎ハイも、ちょちょいのチョイ。生ビールの泡もキレイに黄金比よ。私、いつでも裏方できるね。キヨミヤがスポーツバー始めたら雇ってもらおうか。いつになるか、わからんけど。
ちょっぴりバタバタしながらも、営業時間は終了。なんとかボーイ仕事をこなしたよ。
バキさんには悪いことをしちゃった。メールで謝っておこう。『こんどゆっくり、話そうね』。あ、そうだ、『11月30日は来てね』と、送信~。
バキさんが、かなりの嫌煙家らしいのはわかった。じつはウチの社長もタバコが嫌いだ。ピンク店長も、マジカル店長も、郷田一族はそろってタバコを吸わない。顔だけ見たら、めっちゃ吸ってそうなんだけど吸わないの、びっくり!
バキさんとウチの社長が仲良くなったのも、たぶん、そのへんで気が合ったんだと思う。何が幸いするかわからないね……。
さて、掃除して帰るか。ああ……灰皿の片づけ、イヤだなぁ。
私はどうしても令和の感覚が抜けない。だから喫煙者が苦手だ。お客様を選り好みしてはいけないんだけど、私の常連客は吸わない人に偏っている。というか、喫煙者っていたかなぁ……?
おっ、今日は吸い殻が少ない。
お客さんの喫煙率は『ピンクシャドウ』より圧倒的に低い。「オタクはタバコを吸わない」説は、この時代でも正しいみたいだ。
吸い殻を捨てて、灰皿を洗う。
よしっ!
次は床掃除だ。
改装するときに雑巾がけできるよう、レンガ模様のタイル張りにしておいた。『ピンクシャドウ』は絨毯だったから掃除が大変だったのよ。ゲロられた時とか悲惨だったしね。
私のこだわり、ダイソン。高かったけど買ってもらった。「吸引力が変わらない」 サイクロン掃除機。あ、でも、ウチよりも『ピンクシャドウ』に必要かもね。
掃除機のあとは雑巾がけ。足で踏んでクルクルさせるバケツで、もじゃもじゃモップを絞る。
ぐるるっ……ぐるるっ……。
そうそう、この店に沙希っぽを連れてきたのもタバコを止めたから。前みたいに喫煙者だったら『ピンクシャドウ』に置いてきたよ。
あれれ? なんか、私もウチの社長やバキさん並の嫌煙家じゃん。イヤだなぁ、心が狭いみたいで……。
「アオイさん、ちょっとお話が……」
雑巾がけをしていたらユリアが話しかけてきた。掃除手伝ってくれるのかな?
「どうしたのユリア?」
「ボーイを募集しているんですよね?」
「ああ……うん、そうね」
掃除を手伝ってくれるんじゃないのか……。
「以前、私たちをスカウトに来た時に誘いを断った子を覚えていますか?」
「誘いを断った……ああ、茶髪の子がいたね」
「あのぉ、その子なんですけど、仕事が見つからなくて困っていまして……」
「なるほど、乳をもまれるのはイヤだけど、ボーイならできると?」
「はい」
今、自分がやっているから言うワケじゃないけど、ボーイのほうが大変だと思う。そりゃ、乳をもまれたりはしないけど、その代わりチヤホヤされることもない。怒られることはあっても、ほめられることはないのよ。ボーイにキツくあたる女性もいる。ご飯に行った時にグチってたもん、中野くんも、神林くんも。
「ユリア、10月の給料いくらだった?」
「70万ちょっとです」
「ボーイの島田くんの給料、25万だよ」
「えっ……」
普通、キャストはボーイの給料なんて知らないもんね。仕事の大変さと給料を知れば、ボーイを邪険に扱うなんてできないと思うのよ。人の心があれば。
「女の子にはキャストになってもらったほうがいいと思うの。だって実際、そんなにイヤじゃなかったでしょ、この仕事?」
「そうですね。思ったより楽でした。お客さんも話が合う人が多くて、楽しいです」
そうなのよ! ウチの店って楽しいの。だって、モビルスーツの話が通じるのよ。この間もミラージュコロイド・ステルスシステムってなんやねん……って話で盛り上がっていたの。こんな楽しい会話、よそでできる? まあ、客層がオタク系に偏っているから、オタク系がダメな女の子には地獄かもしれないけどね。
だからこそ、なのよ。
「あの茶髪の子も、アニメは好きだよね?」
「もちろんです。私なんかより、ガチですよ」
「じゃあ、連れて来てよ。説得するから」
「ありがとうございます」
ホッとした顔でユリアは帰っていった。
結局……掃除は手伝ってくれないのね。ほら、やっぱりボーイよりキャストのほうがいいでしょ?
ユリアの70万円ちょっと、これは額面です。源泉が引かれて、送迎やヘアメイクなどの雑費が引かれるので手取りは55~56万円となります。
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