17-4 歌舞伎町発砲事件 新宿区役所交差点を封鎖せよ!
いわゆる「パリジェンヌ事件」です。
9月も終盤。私のダンス熱が再燃している。
というのも、あややの曲を3人でダンスバージョンにアレンジしたのよ。
聖羅、杏奈っち、私といえば『ピンクシャドウ』なんたら娘。そりゃもう『マジカルシャドウ』でも踊るでしょ。
♪さあ、いくよ、123……
開店前のフロアでダンスの練習。練習よ、練習、練習よ!
「へ~っ、アオイさんって、ダンスうまいんですね」
「どっかでやってたんですか?」
ハヅキとユリアがダンスを見ていた。
「二人もやる? 二人とも卒業公演で踊ってたじゃん」
「あれ、見てたんですか? 恥ずかしい~」
「私、ダンス苦手で大変だったんです……」
まあ、あまり上手なダンスじゃなかったけど、そこは問題じゃない。ダンスは情熱、パッションなのよ!
「ダンスは楽しく踊ればOKだよ。踊りやすい曲があるから、ちょっとやってみよう!」
ぴったりの曲がある。今年(2002年)6月に発売された『楽園ベイベー』。私が小学生……いや、小学校に入る前だったかな? 最初の発表会で踊った曲だ。入門用にいいと思うのよ。
「村人さ~ん、MDの曲流して」
村人Aことボーイの島田くん。島田くんは音楽好きだから、音響機材の操作もお手の物だ。
♪Yo……
音が鳴ったら、身体が自然と動き出す。何度も踊った曲だ。目をつむっても踊れるよ。軽く踊ってみせてから、声をかける。
「じゃあ、ハヅキ、ユリア、聖羅も杏奈っちも、リズムにノッて身体を動かしていこう!」
聖羅と杏奈っちは、私とダンスの練習をしていたし、ハヅキとユリアも専門学校でダンスの基礎を習っている。最初はぎこちなかったけれど、すぐにソレっぽい動きになってきた。
「この曲、いいですね」
「うん、とてもいい曲!」
時代を超えて愛される曲ってあるんだね。だって令和の私たちが、この曲で踊っているんだよ? もし、この曲を作った人、歌っている人たちに会えたら伝えてあげたい。四半世紀後の未来でも、みんなに愛されていますって!
◆◇◆
「いらっしゃいませ~」
「来ちゃった……」
6時の開店と同時に私の指名客が入った。つよたんだ。つよたんは夕方5時で仕事が終わる。来るのが早いのよ。
一番端っこのパソコン設置のゲームシート。つよたんの指定席に案内する。週2回か3回、「ゲームは1日1時間」をきっちり守って、帰っていく。
「アオイちゃん、アオイちゃん、レベル40になったよ! これで特務に参加できる」
「うん……」
楽しそうにゲームをプレイする、つよたん。あれ……私、ジャマなんじゃない? 私の存在意義を疑うよ……。
「つよたん、ありがとね」
「また来週来るよ」
きっちり1時間プレイして、つよたんは帰っていった。そういう律儀なところは公務員っぽいと思う。エレベータを見送って、私は店に戻った。まだまだ7時。忙しくなるのはこれからだ……。
「アオイ、ちょっと、さっきのお客様が戻ってきたよ!」
「えっ、つよたんが!?」
トイレから出てきたら、絵里さんに呼ばれた。ついさっき、送り出したばかりだよね。忘れ物かな、つよたん? 小走りで店の入り口に向かった。
「あ、アオイちゃん! 外が……外が、大変だよ!」
「えっ、外?」
「とにかく、ちょっと来て!」
つよたんに手を引かれてエレベーターへ。1階に降りると、もう外が騒がしいのがわかる。ビルの前の道路に出た。
「な……」
言葉を失った。
というか、なんと表現していいのかわからない。
だって、目の前の道路を、そのスジっぽい人たちが埋め尽くしているんだもん。
「ねえ、つよたん、どういうこと?」
「わからない。さっき店を出て降りてきたら、こうだった。どうやら交差点で何かあったか、その前のビルで何かあったんだと思う」
私たちの店は区役所通り沿い。新宿区役所通り交差点から、少しだけ職安通り側に入ったビルにある。交差点からは数十メートルしか離れていない。
「おい、アオイ、なんだ、この騒ぎは?」
店から絵里奈さんも降りてきた。
「そのスジの人が集まっていますし、事件ですかね?」
「カチコミか?」
「状況がわからないですから、なんとも」
「しかし、これじゃ、商売にならないなぁ……」
そうなのよ。もう道路が封鎖されていて通れない。少なくとも新宿駅側から、こっちに来るのは難しい状態だ。
そうこうしているうちに、警察もやってきた。
「あっ、安川さん……」
つよたんが顔見知りの警察官に話をしてくれた。
「警察の人の話によると、すぐそこの交差点の喫茶店で発砲があったらしい。銃撃した連中が逃げてて、組の人と警察が入り乱れてる状態だって。これから区役所通りも本格的に通行規制されるみたいだよ」
「発砲事件って?」
「詳しくは聞けなかったけど、組の人が外国人に鉄砲で撃たれたらしい」
「たまげたねぇ……」
「とりあえず、店に戻りましょうか、絵里奈さん?」
「僕も戻っていい? ここ通れないし、気になるから」
「そだね……」
話している間にもパトカーや警備車両が集まってきている。さすがに、ここは撤退だ。私たちは店に戻ることにした。
「絵里奈ちゃん、下はどうだった?」
「交差点付近は封鎖。完全規制です」
店の前で待っていたマジカル店長と、絵里奈さんが話している。店を開けておくべきか、閉めるべきか、判断が難しいね……。
「ねえ、つよたん、警察の人は何か言ってた?」
「9時か10時には通れるようになるって言ってた」
「1時間半から2時間半か……」
「とりあえず、営業してくれるなら僕はゲームの続きをしていくよ」
「どんだけゲーム好きなのよ」
まあ、いいや、参考意見として報告しておこう。
私が参考意見を伝えていこうとしたら、エレベーターが開いた。なんと、お客さんが来たのよ! しかも2人!!
「あの……やってますか?」
「はい! やってます」
あ、勝手に言っちゃった。でも、せっかく来てくれたのに追い返す手はないよね?
「店長、副店長、お客様2名様、ご来店で~す」
これみよがしに、大きな声。ポカンとしている店長と絵里奈さん。まさか、お客さんが来るなんて想定外だもんね。
「お客様、どうぞ、どうぞ〜。あ、つよたんも、入って!」
お客さん2人は村人Aに任せて、つよたんを指定席に案内する。たまには「ゲームは1日1時間」を守れない日があってもいい。大人なんだもん。
「いらっしゃいませ~」
「あ、いらっしゃいませ」
そのあとも続々と、お客さんがやってきた。初めて見るお客さん、一見さんばかりだ。
「ねえ、つよたん、通行止めで封鎖されているのに、なんでお客さんが来るのかな?」
「反対側から来るからだよ」
「反対側?」
「新宿歌舞伎町っていうから、最寄り駅は新宿駅だと思うかもしれないけど、地下鉄の東新宿駅もけっこう近いんだよ。あと、区役所通りを職安通りに抜けたところにバス停があるでしょ? あそこから来る人も多いんだよ」
さすが地元の公務員だね、つよたん。
週末の金曜日、歌舞伎町に繰り出したお客さん。区役所通りを職安通り側から来たら通行止め。足止めされた目の前に、ウチの店があったってことね……。
「さて、そろそろ通れるようになったかな?」
つよたんのキャラのレベルが43に上がった。延長戦もこのへんで一区切りだ。偵察に出ていた村人Aこと島田くんが戻ってきた。どうやら人は通れるようになったようだ。
「つよたんが言った通り、9時過ぎには通れるようになったね」
「東京一の夜の街を、何時間も封鎖はできないからね」
つよたんと連れ立ってエレベーターを降りた。交差点のほうを見たら、まだパトカーが何台か止まっている。立っている警官の姿も多い。ただ、歩道は通れるようになっていた。
「じゃあ、僕は帰るね」
「ありがとう、つよたん。気をつけてね」
後ろ姿に手を振った。
まったく、発砲事件なんて物騒だね歌舞伎町。これが客足に影響が出ないといいんだけど、心配のタネは尽きない。
なんか、休もうと思っていたのに、休めないことばかり起こる。ああ、私の週休二日制がぁぁ……。
物語的にはともかく、歌舞伎町的にはターニングポイントとなる話でした。この事件を機に歌舞伎町が大きく変わっていきます。当然、葵たちが働く店も影響を免れません。以降の話に、ちょくちょく出てくる予定です。
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