17-2 ヒットの鉱脈を掘り当てたかも?
雑誌全体の市場規模は1997年をピークに緩やか縮小傾向にありました。それでも2002年の市場規模は2025年の約3倍。まだまだ影響力は大きかったのです。
8月も残りわずかとなった。『マジカルシャドウ』は目に見えてお客さんが増えている。理由は雑誌の記事。オープン時に取材してくれた雑誌が、お盆明けくらいから続々と発売になっているのよ。
「バキさん、いらっしゃ~い」
「盛況でござるな、アオイ殿」
バキさんは今日も部下を連れて……って、ちょっと人数が多いね。いつも一人か二人なんだけど、今日は6名。バキさんを入れて7名様だね。
えっ、女の子が13人しかいないのに、団体客は大丈夫かって?
ふっふっふっ……開店から4週間。少しずつ新人も採用しているから、ご心配なく。
「驚きましたぞ。いつも読んでいるパソコン雑誌にアオイ殿が出ているではござらんか」
「いやあ……私も、まさかカラーで1ページも載るなんてビックリぽんで、ござる」
もう口調が移っちゃう。でも、ほんとビックリ。今(2002年)だと、雑誌の影響力って大きいのよ。しかも、パソコン&ゲーム系では最大手の雑誌だもん。そりゃ、話題になるよね。
「会社でも話題でござってな、来たがる者が多かったでござる。RPGで育った世代でござるからのぉ……」
「なるほど、それで、いつもより人数が多いんですね」
ああ……そうか、この世代が直撃なんだ。えーと、バキさんは31歳だから1971年生まれ。今年の新卒は1979年生まれ。たしかに、家庭用ゲームのRPG全盛時代を体験してきた世代だ。私、そこまで深く考えなかったよ。これからMMORPGが流行るから便乗しただけなの……。
「そうだ、バキさん。これ見ます?」
私の秘密兵器、A4のクリアバインダーを取り出した。プリントしたA4のポートレートが、たんまりファイルしてあるのよ。
「おお、これは……!」
「何パターンか作ったんですポートレート」
「これは売り物でござるか?」
「はい。買っていただければ宛名とサインを入れます。今なら特別サービス、額縁付きで1枚4000円でご提供いたします」
「どこぞの通販番組で、ござるな」
うん。ウチの会社は通販もしているから、あながち間違いじゃない。
「すごいですね、アオイさんの写真ですか?」
「えっ、見ていいですか」
若手社員さんたちが群がってきた。
クリアバインダーに何種類もポートレートを入れて売るのも、未来知識。令和のプロレスラーが会場で、こういう売り方をしているのを見ていたのよ。
「このポートレート、欲しいんですが買ってもいいですか、社長?」
「よいでござるが、支払いは各々で頼みまするぞ」
「やったー、オレも買うよ」
「エロいっすね……僕、買います」
「ボクは、この衣装のパターンで」
「脱いでるのは、ないんですか?」
「いや、アオイさんは脱いでも残念だから着ているほうが……」
一部、教育がなっていない社員もいたけど、お買い上げあざーっす!
というわけで、臨時のサイン会を開催中だ。ポートレートにサインを入れて、買ってくれた社員さんの宛名を書く。仕上げに、一言メッセージを添えるのがコツだね。
「お名前は?」
「長谷部です」
私のスーパーボディを残念と言った失礼なヤツだ。長谷部ね……覚えた。よし、メッセージは「脱いでもスゴイぞ!」……と。
「お買い上げ、ありがとうございました~」
「は……はい」
サイン会のやりとりを、生温かい目で見守るバキさん。グラスをチビチビとやっている。バキさんも、さびしん坊だからね……。
「はい、これバキさんに」
「拙者にでござるか?」
クリアバインダーから、とっておきの1枚を取り出した。
「非売品だから、あまり人に見せないでね」
「こ、こ、これは……!」
あったのよ、脱いでるやつ。
まあ、脱いだというか見えちゃった系? 撮影中に胸当てが取れて私のデラックスBカップが、ポロリンよ。データを消さずに残しておいて、よかったね。
「よいのでござるか?」
「バキさんだけだよ」
「家宝にするでござる……」
バキさんに拝まれた。こっちが恐縮しちゃうよ。
それにしても……ポートレートはいい。これは売れる。ほかのキャストも、ガンガン撮影してポートレートをたくさん作っちゃおう。
◆◇◆
ポートレート以上に人気なのがチェキだった。
カシャッ、ウィ〜ン……。
カシャッ、ウィ〜ン……。
お店の中は、あっちもこっちも撮影会だ。3台買ったカメラ。1台は私物にしようと思っていたのに徴発されてしまった。仕方ない、また1台買うよ……。
「いいよ、いいよ、そのポーズ! もっと胸をこう……」
「え~っ、エッチぃ」
エロいポーズをめぐって攻防戦が繰り広げられている。ツーショットよりも、ワンショットが人気みたいだね。
もちろんチェキ撮影OKかどうかは、女の子の意思を確認しているよ。焼き増しできない1点モノとはいえ顔が出るもんね。でも、今のところ全員OK。だって、チェキ1回2000円の半分、1000円がもらえるんだもん。稼げるから、断る子はいないのよ。
「アオイ、アオイ、ちょっと大変! フィルムが終わっちゃった!」
バックヤードに戻ろうとしたら、絵里奈さんが駆け寄ってきた。
「えっ、フィルムが足りない? まとめて段ボールで買ってきたばかりじゃないですか……」
「今日は一人で10枚撮るような、お客さんが重なっちゃったのよ」
たしかに、撮る人は何枚も撮る。これは私も予想外だった。チェキ撮影1回2000円って、安くないよね? なんか……これ、すごい鉱脈を掘り当ててしまったのかも?
「しょうがないなぁ。ちょっと着替えて買ってきますよ。50くらいで足りますか?」
「う〜ん、100? 領収書もらってきて」
「ド〇キにあるかなぁ、100も……」
「ドン〇にあるんだったら? 僕が買ってこよう」
着替えに戻ろうとしたら、店長が出てきた。
「これと同じでいいんだよね? 行ってくるよ」
フィルムの空き箱をつかんで、店長が走っていった。
「えっ、あっ、店長? 店長ーっ!」
「その恰好で行くんですかーっ、店長ぉーっ!?」
マジカル店長って勇者のコスプレしてるのよ。それで買い物に行っちゃうなんて、別の意味で勇者だと思う。まあ、いいか、歌舞伎町だから……。
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