16-5 新店オープン~夢はひとりで見るものじゃない~
ようやく、ようやく、『マジカルシャドウ』がオープンしました。
8月2日、午後6時になった。
「お待たせしましたぁ、『マジカルシャドウ』オープンです!」
マジカル店長のマイクで村人Aことボーイの島田くんがドアを開けた。お客さんたちが入ってくる。パソコンありの席は8卓すべて埋まった。珍しいもんね。
ボックス2卓も埋まった。満席だ。あとは、団体席を小分けにして座ってもらう。
「よかった……満席になったよ、絵里奈さん」
「まあ、初日くらいは満員にならないとね。えーと……アオイは指名のお客様、8番に入って」
「了解!」
座席の配置。パソコンありのカップルシートが1~8番、4人テーブルが11番と12番、団体席は20番にした。
えーと……、絵里奈さんに指定された8番卓に移動する。通路からだとソファの背中しか見えないけど、わかりやすく番号が貼ってあるのよ。
「いらっしゃいませ、アオイです。あら、つよたん!」
「来ちゃった……」
つよたんは公務員。たぶん、25くらい? 奇人変人ぞろいの私のお客さんの中では、数少ない普通の人だ。ありがたや、ありがたや……。
「おもしろい衣装だね。ゲームキャラ?」
「うん、女戦士だよ」
「このゲームの?」
「うん、やる?」
つよたんのチンホーIDパスワードを設定して『ファンタジア・オンライン』を起動。空いているキャラクター枠を選んで作成……。
「名前かぁ、アオイちゃん、決めて」
「じゃあ、つよたん」
キャラクター作成をして、つよたんはチュートリアルに入った。ドット絵の「つよたん」。どことなく実物に似ていて、かわいい。
「うわぁ……、この画面にウジャウジャいるキャラクターって、みんなプレイヤーなの? すごいなぁ!」
つよたんが感心している。なるほど、こういう感想になるのか……。ネットでつながっているゲームが当たり前の時代に育った私の感覚は、こういう時に参考にならない。つよたんのリアクション、勉強になるよ。
「失礼します。アオイさん。お時間ですが、延長なさいますか?」
座席の背中から声が聞こえた。村人Aことボーイの島田くんだ。
「あれ、もうそんな時間? 早いね」
「あ、つよたん、1セット40分なのよ。でも、お値段は安いから」
「なるほど、そうだよね、1セット6000円は安いもんね。じゃあ、延長」
「ありがとう、つよたん」
『マジカルシャドウ』は40分6000円。指名はプラス2000円で8000円。1時間換算だと9000円。指名込みだと1万2000円になる。高いと言われている『ピンクシャドウ』は1時間1万2000円の指名3000円。たしかに『マジカルシャドウ』は少し安いよね。
「おもしろいなぁ、このゲーム。僕もパソコン買ってウチでやろうかなぁ……」
「え~っ、つよたん~」
わぁー……ゲームがおもしろ過ぎて、お客さんを取られてしまう。これが、ねらいか、ねらいだったのか!? おのれ、チンホーオンライン~!
「じゃあ、アオイちゃん、またね~」
「ほんと、また来てくださいよ、絶対ですよ~」
つよたんは、IDとパスワードをしっかりメモって店を出た。つよたんが来なくなったら、チンホーさんを恨んじゃうから!
つよたんと入れ替わるように、キヨミヤが子分を連れて来てくれた。律儀だね。
「よお、アオイ~」
「初日に来てくれるとは思わなかったよ。ありがとう、キヨミヤ」
「まあ、借りもあるしな……」
4人掛けテーブル。キヨミヤの隣に私、子分の隣には声優学校卒でメガネの子、ハヅキが座った。慣れない手つきで飲み物を作ってくれている。あ、私は薄目よ。ほぼ水でお願いね。
「よし、アオイの新店にカンパイだ」
「カンパーイ」「カンパイ」「かんぱい」
「アオイに先を越されちゃったなぁ……」
「何が?」
「自分の店だよ。オレもさぁ、自分の店を持つのが夢なんだ」
そういえば……前もそんなこと言ってたよね、キヨミヤ。貯金しているんだっけ。エラいよね。
「自分の店じゃないよ、私はコンセプトを考えただけ。キヨミヤの夢は本当に自分の店じゃん。キヨミヤは、どんな店を持ちたいの?」
「オレかぁ……。そうだな、漠然と自分の店がほしかったんだけど、この間、アオイがスポーツバーをやっただろ? オレもスポーツバーをやりたくなったんだよ。それが夢かな?」
「いいじゃない、スポーツバー。夢は正夢。夢が叶うように、がんばらないとね」
「夢は正夢! いいこと言うなぁ、アオイ」
うん……ほめられたけど、これ、あの監督の言葉なんだよね〜。
「夢は正夢かぁ……」
話を聞いていたハヅキがつぶやいた。
「お、なんだ? そっちの子も夢があるのみたいだね」
「えっ……私ですか? いや、私は夢がなくなって、今ここにいます」
「そっか、でも、夢なんて見つかるもんだぜ。オレなんかサッカー選手になろうと思ってたのに、ホストだからな。ホストになってみりゃ、トップになりたいって夢ができる。で、いざトップに立ったら、自分の店を持ちたいって夢が出てくるのよ」
「そうなんですか……」
なんか、キヨミヤがまともなこと言ってる。明日は雪かな?
「そういえば、アオイの夢って聞いたことないな?」
「私の夢? モビルスーツのパイロットだよ」
「さすがに、それは正夢にならないと思うぞ」
なんか、いい話をした感を残して、キヨミヤ一行が去っていった。最近、キヨミヤがカッコよくてムカつくね。
◆◇◆
「みなさん、お疲れさまでした」
「お疲れ~」「お疲れ様」「お疲れっす~」
深夜12時過ぎ。最後のお客さんを送り出して、営業は終了した。
私は閉店までフル回転。最後のほうは、さすがに疲れたよ……。
初日の緊張もあって、女の子たちは疲労困憊みたい。私が疲れちゃったくらいだもんね。新人たちはもちろん、聖羅も杏奈っちもグッタリしている。
「アオイ、ちょっと締めるの手伝って?」
「ほ~い、絵里奈さん」
絵里奈さんは、さらに事務処理もある。私が疲れたなんて言っちゃったら申し訳ないよね。というわけで、絵里奈さんと事務所で伝票と格闘だ。パソコンに数字を入力していく。日ごろから郷田商会の社員として事務仕事もしているからね、私。
「悪いわね、アオイ。どうも、パソコンは弱いのよ」
「いいっすよ、慣れてますから」
う〜ん、思ったより少ないなぁ……。
「どうしたアオイ、暗い顔して?」
「売り上げなんですが、初日で盛況だったのに『ピンクシャドウ』の通常週末より少ないんですよ」
「そりゃそうだろう。『ピンクシャドウ』とは店の大きさが違う。ウチは半分以下だぞ」
「そうなんですけどね……」
まあ、そうだよね。女の子の数も全然違う。私や絵里奈さんたちが抜けても、アッチは30人近くいる。ウチは13人。しかも、10人は新人だもん。比較しちゃいかんね。
「でもなぁ……私もサブマネージャーとか副店長という肩書をもらったんだ。この店を繁盛させて、社長やみんなをギャフンと言わせたいな」
ギャフン? 生ギャフンいただきました! さすがに昭和の女。ちょっと感動っす!
「なんか、考えますか?」
「そうだな、なんか考えよう」
とは言ったものの、「なんか」が思いついたら苦労しないよね……。
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