16-4 プレリュード~マジカルシャドウの鼓動~
この時代、夜の店のオープン前には、そのスジの人が顔を見せることも少なくありませんでした。社長はカタギですがタダ者ではないので、そのスジの人とも互角に渡り合っています。じつは……すごい人なんです。
新店『マジカルシャドウ』。いよいよオープン……の前に、プレオープンイベントがある。関係者と各メディアの取材陣を招待しての、お披露目イベントだ。まあ、なんというかタダで飲み食いさせる「接待」だね。
パシャ、パシャ、パシャ……。
「すみませーん、目線こっちにー」
「おーい、こっちも目線ちょうだい」
まずはキャスト全員の集合写真。
10社を超える取材が来てくれた。風俗系の雑誌、ネットはもちろん、エロ含むゲーム雑誌やパソコン雑誌、夕刊新聞。片っ端から取材依頼のFAXやメールを送りまくったからね。
オープニングキャストは13人。私、聖羅、杏奈っち、沙希っぽ、声優学校卒の4人と、新人5人。みんなエロいコスチュームだから、撮影する人も鼻息が荒い。そういう意味では、ネライどおりかな?
「はーい、じゃあメインの3人、アオイ、聖羅、杏奈の撮影です。ほかの子は持ち場についてー」
絵里奈さんがビシっとしたスーツ姿で仕切っている。キャストじゃなくて副店長なので集合写真には入らない。ちょっと寂しいけどね……。
「アオイちゃんセンターで、左に聖羅ちゃんで、右に杏奈ちゃんね」
小山さんにオフィシャルのカメラマンを頼んでおいた。撮影の流れを作ってくれるから、ありがたい。
で、私のコスチュームは女戦士。杏奈っちは僧侶っぽいし、聖羅は魔法使い。かなり肌面積多めのセクシー系なんだけど……戦士っていうより女子プロレスラーっぽいな、私。これはもう、私に宿った闘魂が身体を通して出ているとしかっ!
パシャ、パシャ、パシャ……。
リクエストに応えて、エロいポーズを取りまくる。大きく載せてね、お願いよ。サービス、サービス〜。
パシャ、パシャ、パシャ……。
撮影が終わっても取材は終わらない。私は残って囲み取材を受けている。エロゲー雑誌、パソコン雑誌、サブカル雑誌、ゲーム情報サイトなど、私たちが普段、取材なんかされない媒体が来てくれた。どんな記事になるのかな? 楽しみだよ。
「お疲れさまでした。見事な受け答えでしたね」
私の取材を見ていた昭和ニヒルの明智さんに声をかけられた。明智さんは声優雑誌の編集長だけど、取材ではなく関係者枠で招待している。
「取材記事にはしませんが、巻末のコラムで少し書かせていただきます。声優学校の卒業生を雇ったと聞きました。ことの顛末を見届ける責任が、私にもあります。やっていけそうですか?」
「ヤル気はあるんで、大丈夫だと思いますよ。唯依よりも稼いで見返してやるって言ってましたから……」
えーと、声優学校卒業生の4人は……今は源氏名で、ナツコ、ルアカ、ハヅキ、ユリアになっている。フロアを見渡した。立食パーティーで、立って接客するからコスプレ衣装が映える。あちこちでコスプレ撮影会になっているよ。あっ、発見!
「あそこにいます。あの子たちですよ」
どこの雑誌かな? 写真を撮られている。
「ほう……取材されてますね。彼女たちは声優になれなかったけれど、取材される側にはなりました。前向きに考えて生きてほしいですね。私も少し彼女たちと話をしてみます」
昭和ニヒルは立ち去った。声優というジャンルへの愛が深い人だね。
さて、私も、あいさつ回りにいこう。
グルっとフロアを見渡す。うわぁ……あっちのテーブルで社長が、そのスジっぽい人と話している。うん、そっちには近づかないことにしよう。
というわけで、怖いテーブルとは反対側へ。スーツ姿の女性がビデオを回している。チンホーオンラインの広報・服部さんだ。
「あぁ……っと、佐藤さん、そのまま、そのまま、はい、そこでクルンとターン、えいっ、やぁーと、ポーズ」
服部さんにカメラを向けられ、ポーズをとった。
「いやぁー、かわいい子だとは思ったけど、衣装を着ると映えるわね~」
「このたびは、ネットカフェ用の公認ライセンスを提供していただき、ありがとうございます……」
「そこは気にしないでください。わずか10台分です。それで……今日だって十何社でしょ? たくさん取材を呼べたワケだし、安いもんですよ」
公認ライセンスというのは店側がメーカーと一括契約して、お客さんに無料で遊ばせる仕組みだ。通常はパソコン1台あたり数千円らしいけど、無料でライセンスを出してくれた。宣伝効果ってことですか、なるほどねぇ……。
「この店のビデオ、日本法人だけじゃなくて、本社にも送りますね。夜の店とのタイアップ、われながらヒット企画だと思うんですよ……」
服部さんはビデオを回しながら移動していった。なんか、ずっと撮りっぱなしだ。カメラを止めるな~的な人なのかな?
「あ、佐藤さん」
また「佐藤」で呼ばれた。借金取りの田中さんに呼ばれるみたいでビクッとしちゃう。振り向くと、谷中衣装工房のお姉さんと……男の人だった。
「紹介します。ウチの社長……旦那です」
「谷中衣装工房の高橋です」
「佐藤でございます。今回は衣装をありがとうございました」
ウエストの武器ホルダーから名刺を取り出した。この戦士のコスチュームは実用的で素晴らしい。あっ、目の前に作った人がいるから、ヨイショしてるワケじゃないよ〜。
「素晴らしい衣装を、ありがとうございました。注文が多くて大変だったんじゃないですか?」
「いやあ、そうでもないですよ。今回は2週間も納期が伸びたんで、余裕でしたよ。ハッハッハッ……」
「あはぁ……」
災い転じて福となす、結果オーライだったか……。
「お客様、お飲み物はいかがですか~」
村人姿の男の子がトレイにドリンクを載せて回っている。村人Aことボーイの島田くんだ。私よりも年下なのよ。あうぅぅ……。
「高橋社長、奥様、ごゆっくりお楽しみください」
夫妻がドリンクに手を伸ばすのを見届けて移動した。
ヤケに顔の怖い勇者がウロチョロしている。マジカル店長だ。ミスキャストだね。どう考えても勇者より魔王のほうが似合うと思う、顔的に。
「あれれ……店長、どうしたんですか? 絵里奈さんと関係者まわりをしていたんじゃないですか?」
「いやあ、彼女なかなか怖くてね。ビシッとしろって叩かれているよ……」
マジカル店長は顔こそ怖いけれど穏やかな人だ。ウチの会社がやっている吉祥寺の雑貨店の店長だったらしい。雑貨店は女性客が多いので自然と言葉や話し方がソフトになる。
「あ、店長、居た」
噂をすればなんとやら。絵里奈さんがやってきた。
「まだまだ、ごあいさつする方がいるんです。油を売ってないで行きますよ!」
「え、いや、ちょっと……」
店長は連行されていった。ほんと、怖いのは顔だけなのよ、店長。私が絵里奈さんを副店長に推したのも、そのあたりのフォローをしてもらうため。というか……実質もう、絵里奈さんが店長ってことでいいんじゃね?
さて一応は、今回の「功労者」を労っておくとしよう。えーと、発見。今夜はバキさんにくっついているね。
「のーもーとーくーん」
「おやおや、アオイ殿。拙者ではなく野本に用でござるかな?」
「もちろんバキさんとお話するために来たんですよ。今回、野本くんは『いろいろ』がんばってくれたので、そのご報告をしようかと……」
一部の情報を秘匿しつつ、野本くんの活躍ぶりを報告した。秘匿って、もちろんあれね。
「ほほう……そこまでで、ござるか?」
「そうなんです。私が無理にお願いしたばかりに……野本くん、ありがとう」
野本くんは……目が泳いでいる。
大丈夫よ、心配しなくても、言わない。仕事さぼって聖羅とイチャコラしていたとか、チン〇出す気マンマンだったとか。たぶん言わないと思う。言わないんじゃないかな……。まあ、ちょっと覚悟はしといてね。
「ねえ、バキさん。ゲームやアニメが好きな男の人って、ゲームやアニメが好きな女の子と話したら楽しいですよね?」
「それは、そうで、ござる」
「私、『マジカルシャドウ』を、そういう店にしたいんです。好きなモビルスーツの話をしたいし、連続コンボやキャンセル技の話をしたいし、PCやガジェットの話をしたいんです。でも、そんな話をする場所がなくて……だから私、自分で作ったんです」
「なんと……アオイ殿は、そこまでの覚悟で!」
「この店には声優をめざしていた子たちがいます。彼女たちは私なんかよりもヘビーにアニメ好きです。アニオタのスロカスもいます。アイドルオタクもいます。ゲーム好きだったり、適性がありそうな子を集めました。だから……連れてきてください、オタクを!」
ああ、そうだ、私は、私の居場所を作りたかったんだ。
令和の私が居た場所。大学のサークルの部室。お絵描きノートに連絡帳。ゲーム機に薄い本。新刊読んだり、昨日見たアニメの考察をしたり……。
そんな場所がほしかった。
なかったから、作った。
あと足りないのは「友達」。ああ、友達……キバちゃん元気かな? まあ、似たような話し方の人は今も近くにいるけどね。
そんな場所がほしかった。なかったから、作った。
前向きですね、碧唯は。
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