16ー1 マジカル店長と無慈悲な神の降臨
2002年。ワールドカップの裏で、パチスロ界隈では地獄のミリオンゴッド騒動が起こっていました。
新店『マジカルシャドウ』の工事を見にきている。
ウチの新店予定物件。イスとテーブルを持ち逃げされたうえ、床をボロボロにされた。おかげで、大掛かりな工事になっている。たしかに、これは時間がかかるなぁ……。
「アオイくん、紹介しよう。新店の店長だ」
「郷田です」
いや、なんとなく察してたよ。顔が怖いもん。
「また、弟さんですか?」
「いや、従弟だ」
「うわぁ……さすが、親族経営」
「アオイくんも、身内になるか?」
「えっ……兄弟盃ですか!?」
「そういう意味じゃなくてだな……」
なんか、みんな郷田で困っちゃう。社長は社長だからいいとして、店長は『ピンク店長』と『マジカル店長』と呼ぶことにしよう。とりあえず、社長に提案だね。
「ところで社長、家具の確保はできましたか?」
「おおっ! アオイくんの言った通りだったよ。ワールドカップ関連の払い下げを、安く入れられた。ソファもサイドテーブルも市価の半額以下。ものによっちゃ、タダ同然だ」
「この店から持ち逃げした家具も二束三文なんでしょうね……」
「まあ、そうだろうな」
一応、ざまあ展開なんだろうけど、全然スッキリしない。そもそもイスとテーブルを持ち逃げされなかったら、何も問題なかったじゃん。あー納得いかなーい!
「それでアオイくん、女の子の確保はどうだ?」
「体験入店で来た子からピックアップしていますが……正直、いまひとつです」
「いまひとつというと?」
「セクシーパブって、ただのエロい店じゃないんですよ。友達? 彼女? 気の合う女性とイチャイチャできるから、お金を払う意味があると思うんです」
「いきなり本質論だな。おい……えーと、マジカル店長に決まったんだっけか、ちゃんと聞いておけよ」
「はい」
いい機会だ、私の思うところを二人に話しておこう。
「今度の店のコンセプトはRPG。つまりゲームの世界です。ということは当然、お客さんはゲーム好きが多くなります」
「まあ、そうだろうな」
「ゲーム好きのお客さんを接客するキャストが『ゲームわかんな~い』でいいと思いますか?」
「「あっ……」」
強面ふたりの声がそろった。見落としてたね、やっぱり。
「必ずしもゲームに詳しい必要はありませんが、お客さんの話を聞く姿勢というか、趣味に対してのリスペクトはほしいですね」
「なるほど。言わんとしていることは、わかる。男なんてものは趣味の生き物だ。自分の趣味の話が通じる女がいたら好きになっちまうだろうな」
「しかし、社長、どうしますか。オープンまで1カ月もありません」
「アオイくん、どうする?」
う〜ん、どうしよう。ホームページとモバイルでの募集で、項目を追加できるか。あとは……こういう人材を集めるのにスカウトは使えない。あれ、スカウト? 自分でスカウトすればいいんじゃん!
「ちょっと私のほうで心当たりを探ってみます。あとは、採用面接に私も入れてください。あと『ピンクシャドウ』希望の子でも、適正ありなら優先して回してください」
「それでいいか店長?」
「はい」
そうだよ、この春、就職に失敗したと思われる子がいるじゃん。ゲームが好きかどうかはわからないけど、たぶんアニメは好きな子たちだよ。そのへんに探りを入れてみよう。
彼女たちには、残酷な仕打ちかもしれないけどね……。
◆◇◆
新店の準備を進めつつも、もちろん『ピンクシャドウ』に出勤する。働き者なのだね、私。ちがうよー! 働かないと借金返せないんだよ。働け、私! 馬車馬のごとく!
「アオイ、私も新店に連れてってくれよ~」
バックヤードの控室で舞さんに抱き着かれた。私と絵里奈さんが新店に移籍するのは、店のみんなも知っている。でも、「連れてってくれ」と言われたのは初めてだ。
「私と絵里奈さんが抜けるんです。そう何人も売り上げ上位を連れて行くワケにはいかないでしょ。舞さんは残って『ピンクシャドウ』を支えてください」
「いやじゃ、いやじゃー、絵里奈さんがいなくなったら、私が最年長になっちゃう!」
「そんな理由ですかーっ!?」
「重要だよ……。ただでさえ最近は若い子が増えているんだ。私は肩身が狭いんだ」
「そういう若い子を、ビシっとシメてもらうために、舞さんには残ってもらうんですよ」
「お、おう……」
まあ、がんばって舞さんには、お局様としての役割を果たしてもらおう。若い子だけじゃチームは上手くいかないのよ。亀の甲より亀甲縛り。ビッシビシいってほしい。
「アオイさん、ちょっといいですか?」
「ほい?」
ボーイの中野くんに呼ばれた。
「入り口に、アオイさんを訪ねてきた方がいるんですが、アオイさんの友人だと……」
「友人? 誰?」
「若い女性です。三島だと言ってました」
「三島……?」
私の記憶に「三島」という女性はいない。ということは、葵ちゃんの知り合い? 仙台の知り合い? となると、わからないなぁ……。
「わかった。ありがとう。出ます、入り口ですね?」
用心しつつ、店の入り口に向かった。
なんか、根本が黒くなったプリン髪の女性が立っている。
「あっ、あ……アオイっちぃ~」
この声は、聞き覚えがある。
「えっ……えっ、沙希っぽ? どうしたの?」
キレイな茶髪だったのに、髪がボサボサだ。なんか、やつれた? 化粧もしてないじゃん。
「やられたの、私、無慈悲な神に身ぐるみはがされた……」
「はあ?」
なんか、スロット界に無慈悲な神が降臨したらしい。
1年ぶりだろうか? 久々に会った沙希っぽは、すっかりヤツれていた。
肩を震わせて泣いている。
ヒック……ヒック……。
ふむふむ……何十万も勝つことがあるけど、何十万も負ける機種。なんか聞いたことがあるような気がする。昔ネットで見た配信で、そんな話題があったような……え〜と、「カジノよりヤバい」、「合法的に人が破滅する機械」、「朝イチで並んで昼前には破産する」とか、どれもヤバかった記憶がある。
都市伝説だと思っていたけど、本当の話だったのね。それにヤラれたのか、沙希っぽは……。
「売れる物は全部売った。もう何も残っていなくて……」
「借金は?」
「どこも貸してくれなかった」
まあ、無職のスロッターじゃ、サラ金でも門前払いだろう。裏の金融に手を出す前でよかったよ。
私なんか、身に覚えのない借金を背負わされてるからね。
「ウチで働きたいのね?」
「うん……お願いします」
とりあえず今日は体験入店させて、あとは店長と相談かな?
ep.41ぶりの沙希っぽ登場。沙希の苗字は「三島」なのでした。
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