15-4 勝った! 勝った! 日本が勝った!
日曜日。今日は日本対ロシアの生中継がある。
お店も休みだし、寮でテレビを見ようかね。
♪プルルルル……
おっと、着信。社長だよ……。
『アオイくん、ヒマ?』
「ヒマじゃありません。今夜はサッカーを見ます」
『じゃあ、一緒に見よう。事務所に来てね。テレビ、32型だよ』
「そういう問題じゃ……、あっ、ちょっと社長」
一方的に用件だけを……。勝手だな。まあ、勝手だから社長なのか。
「社長、なんだって?」
「一緒にサッカー見たいから、事務所に来いってさ。美由ちゃん、どうする?」
「いいんじゃない、行けば。浮くわよ、夕食代」
「そこか……」
会社の事務所は寮から近い。コンビニで飲み物と氷を買って行こう。どうせ、社長、用意してないだろうし。あ、紙皿とか透明プラコップも買っておこう。
「やあ、待ってたよ」
強面の中年が日本代表ユニフォームで待っていた。
テレビの前のテーブルに寿司のパックが鎮座している。5〜6人前かな? スーパーで売っている一番大きいやつだ。まあ、美由ちゃんなら、ペロリだけどね。
「ビール買ってきました。飲みましょう」
「おお、うれしいね。一緒に飲める相手がいるのは」
社長も、さびしんぼうなんだね……。
「もうすぐキックオフだ。食べながら見よう」
「ほーい」「はい」
社長を挟むようにソファーに座る。歌舞伎町ナンバーワンとナンバーツーのセクパブ嬢に挟まれるなんて、特別サービスだよ。まあ、ナンバーツーというのは盛り過ぎたね。ほかの店のトップどころは、さすがに私より稼いでいると思う。
透明プラコップに美由ちゃんがビールを注ぐ。やっぱり社長、コップ用意してなかった。買っといてよかったね。
「日本代表の勝利を祈って、乾杯!」
「かんぱ~い」「かんぱい」
で、やっぱり紙皿も用意してなかったので、役だった。なんか、だんだん社長の扱いがうまくなっているよ、私たち。
『ワールドカップ第2戦、ロシア戦です。日本国民の夢がこの空間に詰まっています。ワールドカップ初勝利なるか、そして決勝トーナメントにつなげるか……』
ホイッスルが鳴った。試合開始だ。
美由ちゃんが、ものすごい勢いで寿司を食べ始めた。何と戦っているのよ、美由ちゃんは!?
両チームともシュートは出るけど得点にはつながらない。ジリジリとした展開だった。
前半27分。
日本のエースにボールが渡った。決定的なチャンス。
『シュートを打つ……はずしたーっ!』
「あぁ~っ」
「今のは決めてほしかったなぁ」
そのまま、両チーム無得点で前半が終了した。そして、あれだけあった寿司も大半が美由ちゃんの胃袋に消えた。
「ビール終わっちゃった。葵ちゃん買ってきて」
「飲みすぎぃ! 食べすぎぃ!」
「まあまあ、アオイくん。すまんがコレで買ってきてくれ」
社長に万札を渡された。ならば仕方ない。私が行ってあげよう。まあ、私はビールも乾杯の一口だけで、ほぼ飲んでないからね。
西新宿の街も、日曜の夜9時過ぎとなれば人が少ない。それでもコンビニは、それなりに混んでいた。
ビールは何がいいんだろう? 私は基本的にお酒を飲まない。お客に飲ませる仕事なのに、お酒の味がわからんのよ。
まあ、いいや。とりあえず、片っ端から買っていこう。どれかは当たる。
「すみません、身分証をご提示ください」
ビールをカゴに入れて持っていったら年齢確認をされた。
20歳を過ぎて半年。まだまだ未成年でイケるみたいよ、私。免許証を見せたったよ。
後半戦が始まる前に事務所に戻ってこれた。
社長と美由ちゃんが、何か話している。酔っ払いは酔っ払い同士で、何か通じるものがあるのかねぇ〜? 私は飲まないから、わからないよ。
後半5分。
短いパス。この間のベルギー戦でもシュートを決めた選手にボールが渡った。
『日本先制。大歓声に包まれました横浜ー』
「うわぁっ!」
「やったー!」
「すごーぃっ!」
後半13分過ぎ。
ロシアの猛攻に日本の守備陣が全員抜かれた。キーパーも抜かれた。
「あああぁぁぁ」
「なんとー!?」
ロシアのシュートがはずれた。完全に同点だと思った。心臓に悪いよ。
『ここで笛が鳴った。日本勝った。日本勝った! ワールドカップで初めて勝ちました』
「勝ったよ、勝った!」
「勝っちゃったよ……」
「すごい、すごい!」
そのまま祝勝会に突入した。
社長と美由ちゃんが、飲んだくれている。ビールが全部、空になった。ハーフタイムで大量に買ってきたのによ……。
というか、明日は月曜だよ? 美由ちゃんは夕方からだからともかく、社長は朝から仕事でしょ。知らんぞ、ホント。
「じゃあ、ミユくん、アオイくん、おやすみー」
「しゃっちょー、おやすみー」
「気を付けてくださいね、社長」
社長は千鳥足で帰って行った。近場のマンションらしいし心配ないか。むしろ夜道で社長に会ったら、相手のほうが恐怖だと思うよ。
♪がんばれ~にっぽーん がんばれ~にっぽーん
ごきげん過ぎる美由ちゃんを、なだめ、あやしながら寮に辿りついた。
酒豪の美由ちゃんにしては珍しい。ベッドに連れていったら、そのままバタンキューだった。こんなに酔っぱらったのは去年の生誕祭以来じゃないかな?
てっきり、興奮した美由ちゃんに押し倒されると思っていたから、肩透かしだよ。
まあ、こういう日もあっていいか。だって、日本が勝ったんだもん。
私も、ごきげんな気分のまま眠ろう。おやすみ。
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